混迷の時代の中で変化をチャンスにする人は何が違うのか?

サイコロジー

 変化を悪しきものととらえて嵐が過ぎ去るのをジッと待つのか、それともチャンスと考えて積極的に打って出るのかは各人の心持ち次第だろう。これからもまだまだ続くと思われる激動の時代の中では、ポジティブな態度で変化をうまく活用すべきであるという論調が強まっているようだ。

■時代の変化に呑まれないための5つのヒント

 やってくる変化をいかにチャンスにしていくかが、今後のビジネスでは特に求められているという。かねてから、世の中の変化よりも一歩先んじることの重要性を繰り返し説いているのが、元GE最高経営責任者の“伝説の経営者”であるジャック・ウェルチ氏だ。

「組織の内部の変化が、世の中の変化についていけなくなったとき、組織の終わりは近い」(ジャック・ウェルチ氏)

 イノベーションの重要性と、積極的に変化を起す経営を主張し続けたウェルチ氏ならではの言葉だが、ビジネス情報サイト「Cabarrus Magazine」の記事では、特にこれからの時代のビジネスは変化が避けられないことを訴え、進取の気質に富んだ往年のアメリカ人金融資本家、ロバート・ヴァンダーポー氏の名言も引用している。

「もっとも成功するビジネスマンとは、それが良いものである限りにおいて古い商慣習を守り、それが即効性のあるものである限りにおいて新しいものを取り入れる」(ロバート・ヴァンダーポー氏)

 ビジネスに関わる者には無関係ではいられない時代の変化の波に呑まれることなく、どうやってポジティブな方向へ舵を切れるように対処していけばよいのか。記事では5つのヒントを示している。

●変化を受け入れることは不可避であるだけでなく必要なことである。

●マーケット、テクノロジー、人々の消費習慣、商品のライフサイクルの変化に適応することで長期に及ぶ成功がもたらされる。

●起りうる変化を最大限に利用するために、これまでのビジネス習慣を作り変えることが重要だ。

●より良いビジネスの方法を発見するため、顧客により仕えるため、新たなマーケットを開拓するために、現状の仕事のやり方を“ダメ出し”するようチームに求める。

●心地良い解決策を求めるな。その余裕はないはずだ。

 変化には必ずポジティブな要素も含まれており、それにいちはやく気づいて適切に対処することで可能性が広がってくるものでもあることを確認しておきたい。

■混乱の中で「一歩踏み出す勇気」

 変化の流れに乗ってうまくチャンスをつかみたいと多くのビジネスパーソンが願ってやまない中、では実際に変化の中でチャンスをつかむ人とはどんな人物なのか? これについていくつかの興味深い考察が行なわれている。

 心理学者のサルバトール・マッディ博士が率いるシカゴ大学の研究チームが1974年から12年にわたって行なった従業員の観察研究がある。マッディ博士の友人に経営側の人間がいたこともあり、研究チームは当時「Ma Bell(マーベル)」で知られていたイリノイ州の電話会社で働く数百人にも及ぶ男女の従業員を対象にして、定期的に面接を行なった。面接では私生活の状況の把握を含むインタビューや心理学テストを行い、さらに健康診断、人事評価などのデータを12年間にわたって収集し、いわば今日でいうビッグデータを分析したのだ。

 研究の6年目に、独占禁止法に抵触するとして、この電話会社は大規模なリストラを余儀なくされる。これで電話会社の従業員の半分がリストラされ、調査の対象だった社員も半数になった。それでも定期的な面談とデータ収集はさらに6年続けられた。会社を離れた者についても可能な限り面談は続けられたようである。そしてこのビッグデータ解析によって、従業員の適応能力についていくつかの発見がもたらされたのだ。

 大リストラが吹き荒れる状況の中、多くの従業員は変化の波に呑まれていったという。解雇と隣り合わせの厳しい職場の状況にあって、従業員の間では離婚が増え、各種の急性疾患を発症したり、なかには自殺を企てる者さえいたという。さらに酒やドラッグ、ギャンブルなどに依存しはじめた者も少なくなかった。

 しかしこの混乱の中にあっても3分の1の者は単純にサバイバルしたという以上の活躍を見せていたのだ。この3分の1の人々の中で会社に残った者たちは新しい組織作りに手腕を振るい、会社を離れた人々は新会社の設立に奔走して大いに能力を発揮したということだ。

 そして驚くべきことは、この3分の1の人々のほとんどは、この混乱が起きる前までは特に目立ったところのない平凡な働きぶりの社員だったのだ。そういう、とりわけ優秀でもないこの3分の1の人々は、まさに変化の中でチャンスをもぎ取った人たちだといえるだろう。ではいったいこの適応力ある3分の1の人々の成功の秘密は何なのか?

 それは霧の中を「一歩踏み出す勇気」であるという。これまで体験したことのない混乱に襲われたとき、多くの人は「元に戻そう」と努力するという。混乱の原因を必死になって突き止め、かつて順調だった頃の姿をもう一度再現すべく時間を撒き戻そうとするのだ。これは多くの人にとってありがちな行動であり、PTSDに苛まれたり、パートナーや親族、親友の死別からなかなか立ち直れない人々もまた、過去にしか関心がないといわれている。いわば“過去の囚人”になってしまっているのである。

 一方で適応力ある3分の1の人々は、現在の混乱の原因を探そうとはせずに、ともあれ一歩前に踏み出して霧に飛び込み、そこで何が出来るのかを探る行動に出ているということだ。この一歩前に出る行動をマッディ博士らは「実存的勇気(existential courage)」と名づけている。変化の波が押し寄せてきたとき、“過去の栄光”は時に大きな手枷足枷になることが往々にしてあるようだ。そしてぜひ変化の真っ只中にあっても、ポジティブに一歩前に踏み出す勇気を持ちたいと思うがいかがだろうか。

■ポジティブな職場の6つの特徴

 先行きが見えない変化の中でも積極的に活路を見出していきたいものだが、これはもちろん個人レベルに限った話ではなく、組織においても同じく、ポジティブで健全な風土で運営されていることが良好な経営に繋がるという。

 従業員の自発的な協調性をベースに運営されている“性善説型組織”と、規則でがんじがらめに縛りつけて仕事をさせている“性悪説型組織”とでは、従業員の健康状態、仕事への意欲、離職率に大きな違いがあることが各種の研究で明らかになっている。もちろん“性善説型組織”があらゆる点で優れているのは言うまでもない。

 一方で“性悪説型組織”は、その組織だけでなく医療費の増加や職場定着率の低下など、無視できない社会的コストを生んでいるということだ。ストレスのない職場環境で存分に実力を発揮できれば願ったり叶ったりだが、そうは言っても昨今の“ブラック企業”問題などもあり、なかなか一筋縄ではいかない側面もあるかもしれない。この点では外部からのチェックや監督も必要とされてくるだろう。

 ではどんな職場環境が理想的なのか? ハーバード・ビジネス・スクールが2015年12月に発表した見解によれば、以下の6つのポイントがあるようだ。

●同僚を友人として扱い、世話をし、注意を払い、信頼関係を保つこと。

●同僚が悪戦苦闘しているときに親切心や同情心を寄せてサポートを申し出ること。

●同僚のミスを許し非難しないこと。

●同僚同士でお互いに発奮させあうこと。

●この仕事の意義をいつも確認しあうこと。

●お互いを尊敬し、感謝し、信頼し、誠実に扱うこと。

 上司と部下の関係よりも、従業員同士の横の信頼関係がより重要であることがわかる。逆にリーダーや経営サイドの観点に立てば、職場を社会的なつながりのあるものにし、働く人々の思いが共感・共有され、リーダーがより献身的にふるまい、仕事上の問題は誰でも声をあげて指摘できる雰囲気にすることが求められているということだ。

 そしてもちろん、ポジティブな職場環境は従業員が働きやすいばかりでなく、生産性の向上にも大きく貢献する。また従業員の忠誠心も高まり、困難な事態に直面しても協力しあって対処できるようになる。良くも悪くも変化の波は否応なくやってくるが、それを個人レベルでも、組織レベルでもポジティブな姿勢で対処してチャンスに変えていきたい。

参考:「Cabarrus Magazine」、「Psychology Today」、「Harvard Business Review」ほか

文=仲田しんじ

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