海外旅行は心身の健康に寄与していた! 免疫力アップや創造性の向上も

サイエンス

 旅行は質の高いレジャーのひとつであることは間違いないだろう。もちろん“不要不急”でリスクの高い地域へ行くことは戒めなければならないが、満足感のある充実した旅がもたらす“効能”が今あらためて注目されているようだ。

■旅が健康に好ましい影響を与える7つの科学的根拠

 我々が遠距離の旅に求めるのは、好奇心や冒険心を満たすためだったり、同行者との印象に残る思い出を作ることや、あるいはその土地特有の食べ物や娯楽を楽しむことなど、たいていはレジャーとしての満足感だろう。しかし、そういった精神的な満足感とはまた別に、旅が健康に好ましい影響を与える科学的な根拠が7つもあるというから驚きだ。以下、情報サイト「Matador Network」の記事から紹介したい。

1.普段と異なる環境に晒されることで免疫力が高まる
 その土地特有のバクテリアなどの影響を受けることで、免疫力が強化される。もちろん旅先でも手洗いやうがいなどを心がけなければならないが、これまでの生活では出会うことのなかった善玉菌(プロバイオティクス)を身体に取り込むことで、その後の人生で免疫力が高まるのだ。ある種の人々に言わせれば、軽い風邪程度であれば旅先で罹るのはむしろ歓迎すべきであるということだ。

2.旅はストレスを低減させる
 2005年に発表された研究によれば、旅は明らかにストレスを低減させ、うつ症状を緩和する効能があるという。不運なケースを除き、おおむね旅の前よりも後のほうが健康状態が良好になり精神状態も落ち着きを見せ、その効果は数週間は続くということだ。

3.旅は脳の健康を増進させる
  旅先で異なる文化に触れ、多くの初対面の人々と接触し、今まで食べたことのない料理に舌鼓を打つ体験は、脳を鋭敏にさせて柔軟な思考をもたらし、脳の健康に寄与するという。

4.旅は心臓疾患のリスクを低減させる
 昨年発表された研究によれば、定期的に旅を楽しんでいる人々はそうでない人々よりも心臓疾患に罹る確率は低いということだ。つまり定期的に旅でストレスを緩和させているため、ストレスが大きな原因とされる心臓疾患に罹り難くなるのだと考えられている。

5.旅は体調を管理する
 旅の種類にもよるが、観光をメインとした旅では活動的にならざるを得ず、生活が規則正しくなるため体調が整えられるという。観光旅行では往々にして早起きを要求されるケースも多く、夜は早く就寝しなくてはならないため、いわば強制的に健康的な生活が送れる。

6.“癒しのスポット”を訪れる機会が増える
 温泉や森林浴など、自然派の旅では心と身体を癒す効果のある場所を訪れることで健康を増進できる。いわゆる“パワースポット”の効能には今のところ科学的な裏づけはなされていないものの、例えば米アリゾナ州セドナのある場所では、「ボルテックス」と呼ばれる電気的エネルギーが噴出しており、これを浴びることで健康に好影響を与えるといわれている。

7.旅は長寿に通じる
 米・アーカンソー大学医学部の研究者によれば、定期的に旅を楽しむ高齢者は長寿の傾向があるということだ。やはりこれも旅によって日頃のストレスを低減し、脳を鋭敏に保っていることが大きな要因と考えられている。また、旅で新たな友人を得たり、老夫婦が旅によってその絆を再び強固なものにしたりすることも長寿に結びついているということだ。

 レジャーや思い出作り以外にも、旅が秘めているこれらの科学的な効能の数々を知れば、思わず新たな旅を検討したくなるのではないだろうか。

■旅がメンタルヘルスに有益である5つの要素

 ストレスの低減以外にも、旅はメンタルヘルスの改善、向上に大きく寄与するという。「U.S. News」の記事では、これまで行ったことのない場所を訪れることで脳機能が向上し活力が湧き出ることなど、メンタルヘルスにおける5つの好ましい影響を紹介している。

1.旅で気力の“充電”ができると共に共感能力が向上する
『Blue Mind』の著者で海洋学者のウォレス・J・ニコルズ氏によれば自然の中でのバケーション、特に海岸や湖畔、渓流などの水場の近くに滞在することで気分をリセットさせ、共感能力を高めることができるという。

「畏敬と驚嘆の念に関係している水場は、我々の共感能力と同情心を高め、他者との結びつきを再確認させてくれます。ミュージシャンから神経学者まで、創造性と洞察力を高めるために水場を活用している人は数多くいます」とニコルズ氏は同著で語っている。この説は神経科学からのアプローチでも説明されているということだ。創造的な仕事に取り組む場合や、斬新なアイディアを考え出したい場合には、海岸沿いや湖畔、あるいは温泉地などのリゾート地に滞在してみてもいいかもしれない。

2.旅をすることで体調不良から立ち直る
 特にオフィスワーカーにとって、旅は活発に身体を動かす絶好の機会である。旅先では観光地やアトラクション巡りに1日何キロも歩いたり、新しい経験をすることを厭わなくなったりすることから、日頃の運動不足を解消するとともに、普段の生活の中での運動の必要性を実感する良い機会になる。

3.初めて訪れる場所に適応しようとする過程でストレスが低減する
 地域文化の研究と分析の第一人者であるマーガレット・J・キング博士によれば、旅に出て身の回りの環境を変えることには、ストレスを低減する効果があるという。

「自宅と職場を離れて“第3の場所”に身を置くことはさまざまな心理学上の利益があります。日常の仕事と人間関係から離れることでストレスが低減し、新たな着想をもたらしてくれます」とキング博士は語っている。

4.旅先では身体を休めることができる
 全米睡眠財団(National Sleep Foundation)代表のマックス・ヒーシュコウィッツ氏によれば、成人には毎日7時間の睡眠が必要とされているが、旅先での生活は睡眠時間を確保した生活習慣を取り戻す良い機会になるということだ。

5.旅を計画している時もまた楽しい
 世界34ヵ国でリゾート滞在サービスを提供している「Diamond Resorts International」が2014年に顧客に対して行なった調査によれば、1年に1度以上旅行をする顧客の4分の3が、旅行を計画している時に幸せな気分になれると回答したという。旅行中はもちろんだが、旅を計画している時もまた楽しいことは、旅好きの多くは共感できるだろう。そしてこのような機会を定期的に多く持つことで、うつ的な気分を寄せ付けず、普段から気分を晴れやかなものにできるということだ。

 まさに“旅行健康法”という色彩すら帯びてきたが、旅は精神衛生の上でもさまざまな利益をもたらすアクティビティということになりそうだ。

■海外旅行は創造性を高める

 単なる娯楽、レジャーという以上に旅は心身の健康に貢献するものであることがわかったが、クリエイターなどにとって海外滞在体験は創造性を高めるものになるという興味深い研究も発表されている。

「海外での体験は、物事に対する認識を柔軟にし、全体を把握しようとする思考を深めてくれます。これは異なる2つのものをより強く結びつける能力なのです」と語るのは、コロンビア大学ビジネススクールのアダム・ガリンスキー教授だ。ガリンスキー教授はこれまで、創造性と海外滞在の関係を探る研究を数多く発表している。教授の見解によれば、物事を柔軟に受け止める“認知の柔軟性(Cognitive flexibility)”が海外を旅行することで高まり、今まで思いつかなかった斬新な着想が得られやすくなるのだという。

 しかしこれには前提となる条件があり、それは当人が訪れた異国の環境に溶け込もうという意欲を持っていることだ。したがって、スケジュール通り観光地を回るガイドつきのパックツアーなどは除外される。しかしそれでも全くどこへも行かないよりは、パックツアーであっても旅行へ出かけたほうが新鮮な発見を得る機会は増えるだろう。

 ガリンスキー教授が他の3人の研究者と共に行なった最新の研究が先頃、「Academy of Management Journal」で発表されている。研究の対象となったのは、ファッション業界で活躍する270人のクリエイティブ・ディレクターたちで、彼らが獲得したクリエイティブな評価と海外勤務歴の関連を調査、分析したのだ。

 すると、おしなべて評価の高いディレクターたちには海外勤務経験があることが一目瞭然となった。さらに、最も評価の高いグループのクリエイティブ・ディレクターたちは、3ヵ国以上の海外勤務を経験していることも明らかになったという。しかしガリンスキー教授の仮説によれば、次から次へといろんな国に短期間滞在するのは創造性開発の面ではあまり意味はなく、せいぜい2、3ヵ国をその国の文化を深く理解しながらじっくり滞在することがクリエイティビティの向上に繋がるということである。

 また、当人の母国と訪れた先の国の文化がどの程度違うのかも重要なポイントであるという。当人にとってあまりにも違い過ぎる文化に身を浸してしまうと、適応しようという意欲が削がれ、いわば文化的“ひきこもり”になってしまうのだ。これでは「認知の柔軟性」が高まらず、創造性の向上に寄与しなくなるという。

 昔から芸術家の間では“洋行”や“留学”は重要なものと考えられてきたが、現代のクリエイターにとってもやはり“異文化体験”は無視できないものであることが、こうした研究からも裏付けられることになった。そしてこれはなにもクリエイターだけではなく、常に新たな企画を考案しているビジネスパーソンにとっても検討に値する知見だろう。渡航先は慎重に選ぶべきだが、ビジネスや人生に“新風”を呼び込みたいと考えているのであれば海外旅行を計画してみてもよさそうだ。(※コロナ禍前に執筆した記事です)

参考:「Matador Network」、「U.S. News」、「The Atlantic」ほか

文=仲田しんじ

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