やはり活動的な高齢者は長生きするようだ。最近の研究で、よく移動している高齢者ほど高齢期の早期死亡率が低くなっていることが報告されている。
■よく歩く高齢者は早期死亡リスクが低い
よく動く活動的な高齢者はやはり長寿であるようだ。
ブラジル・ペロタス連邦大学をはじめとする国際的な研究チームが2019年10月に「Journal of the American Geriatrics Society」で発表した研究では高齢者へのインタビューを行い、運動と早期死亡率の関係を探っている。
研究チームは2014年の1月から8月の間にブラジルの60歳以上の高齢者1451人に健康状態と生活習慣を聞き出すインタビューを行い、その一方で971人の高齢者にリストバンド型のウェアラブル活動量計を装着してもらい、日々の運動量が記録された。
インタビューでは喫煙習慣の有無などに加え、高血圧、糖尿病、心臓病、パーキンソン病、腎不全、高コレステロール、うつ病、脳卒中、がんなどの状態について詳しく聞き出された。
さらに日々の日常生活でどのくらい身体を動かしているのか、たとえば入浴の頻度、着替え、ベッドから椅子への移動距離、洗面所までの移動距離、食卓への移動距離などを詳細にチェックした。
収集したデータを分析した結果、ある意味では予想通りであったが、身体活動のレベルが最も低いグループの高齢者は、身体活動レベルが高いグループと比べて死亡率が高いことが明らかになった。
今回の研究で研究チームは身体活動のレベルが低いと、健康状態に関係なく早期死亡のリスクが高くなると結論づけている。逆に言えば高齢者の早期死亡を回避するには、高いレベルの身体活動を維持することが重要になる。散歩などの軽い運動は高齢者にこそ必要であることが再確認される話題だ。
■活動的な女性は“立ち直り”が早い
活動的でいることは若い女性にとっても大きなメリットがあるようだ。最近の研究で活動的な若い女性はネガティブな気分をうまくコントロールできることが示されている。
ポーランド・ヤギェウォ大学をはじめとする研究チームが2019年7月に「Mental Health and Physical Activity」で発表した研究では、アクティブな女性と活動的ではない女性の脳活動の違いを探る興味深い実験を行っている。
実験に参加したのは向こう1年間の間に週に3回以上の有酸素運動を行っている活動的な女性26人(平均年齢22.9歳)と、有酸素運動が週に1度未満の非活動的な女性26人(平均年齢23歳)に一連のネガティブな感情を引き起こす写真(事故現場や暴力シーン、手術中の様子など)を見せて脳活動をモニターした。
ネガティブな写真を見せられた実験参加者は、その後写真の表現内容についてそれほどネガティブではない方法で解釈するか、あるいは自分が体験しているかのように受動的に観賞することが求められた。
実験で使用されたネガティブな写真のような感情に訴える刺激に注意を傾けている時、脳内では神経生理学的マーカーとして後期陽性成分(Late Positive Potential、LPP)が見られる。つまり脳活動としてこのLPPが見られる時は、何か感情を揺さぶるものに注目していることになるのだ。
研究チームは、参加者がネガティブな写真を“解釈”した場合、“受動的”に見ている時よりも、LPPが弱くなることを突き止めた。さらに“解釈”の場合において、活動的な女性はLPPが大幅に減少していることも明らかになったのだ。つまり活動的な女性はネガティブな写真から短い時間であまりショックを受けなくなっていたのだ。
活動的ではない女性も、主観的には“解釈”した場合はショックが少なくなると報告しているが、LPPの値には活動的な女性との間に有意の差が見られたということだ。
運動習慣のある活動的な女性はネガティブな感情をうまくコントロールでき、ショックからの“立ち直り”が早いということにもなる。運動は若い女性のメンタルヘルスにも好影響を及ぼすようだ。
■健康で活動的であることが求められる時代
いつまでも活動的な人の割合が増えれば、やはり経済にも多大なメリットがもたらされることが最近のレポートで報告されている。
アメリカのシンクタンク、ランド研究所の欧州機関「ランド・ヨーロッパ」が発表したレポートでは、非活動的な人の割合が高い社会がいかに経済的損失を被っているかが試算されている。
研究チームは経済活動および市場機構の働きを 数理モデルによって表現したCGE分析(応用一般均衡分析)を用いて、さまざまな人口レベルの国における、国民の身体活動レベルの変化がグローバル経済にどのような影響を与えているのかを検証した。
分析の結果、あるシナリオでは現状よりも活動的な人口が増えることで、2025年までにグローバルGDPが1380億ドル(約15兆円)から3380億ドル(約37兆円)の間で増加することが導き出された。経済効果は時間の経過と共に増加し、2050年までに3140億ドル(約34兆円)から7600億ドル(約83兆円)に達する可能性があるということだ。
GDPの増加による経済効果だけでなく、医療費の削減にも繋がり、2050年までには160億ドル(約1兆7500億円)から最大206億ドル(約2兆2500億円)まで削減できることが試算されている。
社会の高齢化はグローバルな規模で進んでいくことが避けられないが、いつまでも健康で活動的であることがますます求めらているようだ。
参考:「AGS」、「ScienceDirect」、「RAND Corporation」ほか
文=仲田しんじ
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