“年甲斐もない”や“いい年をして”という言葉もあるように、日本ではいつまでも若い気分でいることがネガティブに受け取られる場合もある。しかし最近の研究では気の若い人は実際に脳が若いことが報告されているのだ。
■“気の若い人”は脳も若い
我々の脳についてはまだまだ分からないことが山のようにあるが、それでも優れたモニター機器の普及などもあり、僅かずつではあるが着実に脳活動のメカニズムの部分的な解明が進んでいる。
韓国・ソウル大学校と延世大学校の合同研究チームが2018年6月に学術ジャーナル「Frontiers in Ageing Neuroscience」で発表した研究では、当人の主観な脳年齢と客観的な脳年齢の関係性を探っている。
研究チームは59歳から84歳の健康な68人を対象に脳の状態をMRIでモニターすると共に、年齢と健康に関する一連の質問に回答してもらい、加えて認知機能を計測する課題に挑んでもらった。
収集したデータを分析したところ、年齢よりも自分が若いと考えている“気持ちの若い人”は記憶力テストの成績が良く、同じく自分がより健康でうつに罹りにくいと考えている傾向が明らかになった。そして“気持ちの若い人”は実際に脳の下前頭回(Inferior frontal gyrus)と、上側頭回(Superior temporal gyrus)の部分の灰白質の質量が大きいことも判明した。この脳の部分は言語と発話、聴覚に関係があるとされている。“気持ちが若い人”は実際に脳も若かったのだ。
“気持ちが若い”というのは、中高年以上においては自分の年齢を意識していないことであると研究チームは説明している。そのため、身体活動においても精神活動においてもアクティブであり、刺激のある生活を送っているために脳の若さを保てるということである。
一方、実年齢よりも自分が年老いていると認識している人については、現在の生活スタイルと生活習慣を見直す時期に来ているという。
実年齢よりも年を取ったと感じることは、脳の老化を止め脳の健康状態を良くするために、ライフスタイルと生活習慣、アクティビティを一度見直すべきサインなのであると研究チームは解説する。加齢を思い知らされたときには健康のことを考える良い機会になるということだろう。
■週4、5回の運動で血管の若さが保てる
若さを保つことに何か特効薬や秘術があるわけではなく、健康的な生活を続けていくという“王道”しかないのだが、その中でもやはり運動習慣が大切であることが最新の研究であらためて指摘されている。
肉体的な若さを保つということはすなわち、血管年齢の若さを保つことである。米・テキサス大学の研究チームが2018年5月に「The Journal of Physiology」で発表した研究では、1回30分の運動を週に2~3回行なうことで中動脈(middle-sized arteries)の健康が保たれ、週に4~5回の運動でより大きい中心動脈(central arteries)の若さが保たれることが報告されている。
60歳以上の102人を対象とした調査で研究チームは健康状態とこれまでの運動習慣についてもデータを収集した。運動習慣によって人々は4つに分類された。
●座りがち:週に運動が2回以下
●普通の運動:週に運動が2~3回
●熱心な運動:週に運動が4~5回
●アスリート:週に運動が6~7回
週に2、3回の普通の運動で、主に首や頭部に酸素を運ぶ中動脈の健康に寄与していることが判明した。そして週に4、5回の熱心な運動は、中動脈に加えて主に胸部と腹部に酸素を運ぶ中心動脈の若さを保つことに貢献していることも分かったのだ。
加齢を遅らせるためにはより大きな静脈の健康を保つことが必須であり、そのためには週4、5回以上の頻繁な運動習慣が求められていると研究チームは結論づけている。
血管年齢の老化はもちろん、心臓疾患リスクに直結する。肉体的な若さを保つためには、1回の運動量はさほど多くなくとも日課に近い習慣にすることが求められているようだ。
参考:「Frontiers in Ageing Neuroscience」、「NCBI」ほか
文=仲田しんじ
コメント