気前が良く、羽振りがいい人をイメージすれば社長や部長などと呼ばれている中高年男性がまずは思い浮かぶかもしれない。しかし最近の研究では、女性のほうが気前が良いことが指摘されている。
■女性のほうが気前がよかった!?
“気前のいい男”はたいていの人に好まれるキャラクターだと思うが、実はそれほど多くはいないのかもしれない。最近の研究で女性のほうが男性よりも富を分け合っていて、よく募金をすることが報告されている。
スイス・チューリッヒ大学の研究チームが2017年10月にオンライン学術ジャーナル「Nature Human Behavior」で発表した研究では、女性のほうが人と富をシェアすることに喜びを感じていて結果的に気前がよいことが報告されている。報酬システムが女性と男性では違うということだ。
気前がよいということは人に“与える”ことが多いということであり、そのぶん社会性が高いことになる。逆に気前が悪いということは人のことはあまり考えていないということであり、つまりは自分本位であることになる。
研究チームは実験参加者に、最も親密な友人を1番目にして徐々に関係性が薄れていきまったくの赤の他人である100番目の人物をそれぞれ思い描いてもらった。そして与えられたお金を、1番目、5番目、10番目、20番目、50番目、100番目の人々とどのようにシェアするのか、それともまったく分け与えないのかをそれぞれ自己申告してもらった。
収集した回答を分析した結果、女性のほうが明らかに相手に与える金額が多いことが判明した。これまでの研究でも女性のほうがよりチャリティ活動をする傾向が高いことが報告されており、今回の結果も予期されたものではあった。
どうして女性のほうが社会性が高く利他的なのか? 研究チームはさらに報酬システムに重要な役割を果たす神経伝達物質・ドーパミンを阻害するアミスルプリドを投与(半数は偽薬)する実験を行ない、この男女の行動の違いは脳の報酬システムの違いにあることを突き止めている。
意思決定に強く関係している脳の線条体(striatum)の活動が、女性の場合は利他的な決定をした時に活発になり、逆に男性の場合は利己的な判断をした時に活発になっていたのである。女性の気前のよさは“女脳”によるものであったのだ。
しかしながら研究チームはこの男女の違いは生理学的な違いから来るものではなく、今の社会の中で女性として育つ過程で学習されて身についた特性であるという仮説を示唆している。ともあれ“気前のいい男”は実はかなりのレアキャラクターということになるのかもしれない。
■ナルシストに募金をさせる方法が見つかる
男性が基本的に“気前が悪い”のは、脳の報酬システムが自分本位の行動でより活発になるからなのだが、この自分本位を突き詰めれば“ナルシスト”ということになる。間違ってもチャリティや募金に関心を抱くことはなさそうなナルシストだが、その性格特性を逆手に取って(!?)ナルシストに募金をさせる手法が見つかったというから興味深い。
ドイツ・ケルン大学と米・ニューヨーク州立大学バッファロー校の合同研究チームが2018年4月に心理学系学術ジャーナル「Personality and Social Psychology Bulletin」で発表した研究では、自己本位で他者への共感に欠けると見なされているナルシストを募金に促すことができると報告している。
チャリティーや募金を呼びかけるさまざまなキャンペーンやCM、広告があるが、その表現方法もさまざまである。援助を必要としている人々の状況を客観的に描写するものもあれば、当事者が出演して直接アピールするものや、ドラマ仕立てで当事者の窮状に到った過程を追体験させるものある。そしてこうした表現手法の中に、ナルシストに特に訴えかけて募金に導くものがあるというのだ。
研究チームは合計1000人もの参加者による4つの実験を通じて、ナルシストはその当事者に自分の姿を投影できた時に共感を抱き募金をしやすくなることを突き止めた。援助を必要としている人々とその状況が、決して人ごとではなくその人の身になって感じられた時、ナルシストは深く同情してチャリティ活動を行なうというのである。
研究チームによれば、チャリティーや募金を呼びかけるアピールには大きく2つに分けられるという。1つは援助を必要とする人々を想像させるイマジン・レシピエント(imagine-recipient)で、もうひとつはその当事者に成り変って想像させるイマジン・セルフ(imagine-self)である。このうち、自分の問題として考えられるイマジン・セルフのアプローチはナルシストにより強く訴え、普段は似つかわしくない募金へ向かわせるということだ。
“イマジン・セルフ”タイプのアピールはナルシストにその援助が必要な状況に自己を投影させることを可能にし、当事者の立場で考えられるようになると共に、苦痛や窮状に晒された当事者の否定的な感情をその身になって体験するのだと研究チームは説明する。
イマジン・セルフの具体的な手法は作り手側の創意工夫次第ということにはなるが、例えばドラマ形式のCMなどがそれに当てはまるだろう。基本的に他者に関心がないナルシストも感情移入できる“お涙ちょうだい”なドラマには案外涙腺が弱いということかもしれない。
■利他的な人ほどセックスをしている?
残念ながら“気前のいい男”はめったにいないのかもしれないが、この数少ない“気前のいい男”はやはり女性にモテることが最近の研究で指摘されている。気前がよく利他的な人物にはより多くのセックスパートナーがいるというのだ。
カナダ・ゲルフ大学とニピッシング大学の研究チームが2016年に「British Journal of Psychology」で発表した研究では、800人もの人々にインタビューを重ねて性遍歴と性格特性の関係を探っている。分析の結果、利他的な性格特性と頻繁なセックスに強い関係性があることが判明したのだ。
利他的であるということは私欲がなく、相手との互恵関係を築きやすいと説明できるという。“ガツガツ”していないところが相手に安心感を与え、結果的にセックスの機会が増えているのである。男女共に利他性のレベルが高い者ほど多くのセックスをしているのだが、男性のほうにより顕著にあらわれているということだ。
2つめの実験では宝くじなどで得た賞金をどのくらい寄付するのかという質問に回答してもらったのだが、ここでも多額の寄付をする者ほどセックスパートナーが多いことが浮き彫りになった。他者に優しく接する利他的な人物がモテるのはある意味では当然のことではある。
そして利他的な人物はまた誠実である傾向も高いため、セックスパートナーとしてより魅力的に感じられるということだ。また気前が良く無私無欲の人物はより謙虚な人という印象を与えるという。
さらに利他的で自己犠牲を厭わない人物との関係はより内面的なものになるため、外見でお互いを評価しあう関係よりも対象範囲が広がり、性的な関係になリ得る選択肢が増えるのである。
サイエンス的にも“気前のいい男”はモテることが証明されたのは興味深いのだが、だからといってモテるために気前よく振る舞うのは矛盾した行動であることを確認しておきたい。モテたいという“欲”を抱くことですでに利己的になっているからだ。
参考:「Nature」、「SAGE Journals」、「NLM」ほか
文=仲田しんじ
コメント