歩き方はその人物に固有の動きを反映していて、認証システムに使えるほど個人を特定できる特徴でもある。さらに歩き方から当人の性格的特徴を類推できることが最近の研究で指摘されているほどだ。
■歩き方があらわすパーソナリティー
人間の自然な動きを表現するためにアニメやゲームだけでなく実写映画でも幅広く使われているモーションキャプチャ技術だが、科学研究の分野でも意外な使われかたをしているようである。
英・ポーツマス大学のリアム・サッチェル氏をはじめとする研究チームは2016年に、このモーションキャプチャ技術を使って、歩き方と性格的特性の関係をさぐる研究を行なっている。
実験では、29人の参加者にいわゆる「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる性格診断テストを受けてもらい、加えて“攻撃性”にまつわる一連の質問に回答してもらった。
これらのテストと質問回答の後、参加者は身体の各所にモーションセンサーを取り付けた状態でトレッドミルの上を歩き、各人の歩き方が精密に記録されたのだ。研究者たちは特に胸と骨盤の動きと、歩行スピードに注目した。
収集したデータの分析と研究の結果、歩き方と性格特性にいくつかの関連性があることが指摘されることになった。
まず“攻撃性”の高い人物の歩き方は、身体の上部と下部の動きがオーバーアクションである傾向があることがわかった。つまり頭を揺らしたり、膝下を放り出すようにしたりと文字通り“ふんぞり返った”歩き方をする者が多いのだ。
次に愛想のよい性格で外向性の高い人物は骨盤の動きが多いことが判明した。つまりお尻を振りながら歩いているのである。
そして創造性と誠実性が高い人物は、歩きがスムーズで上下動や揺れが少ない歩き方をしている傾向があるということだ。
今後サンプルの数を増やしてさらに研究を進めていくことが見込まれているが、研究チームはこの研究が将来の犯罪防止に繋がると考えている。監視カメラなどから収集したデータで、その歩き方から“危険人物”を予測できるシステムの開発が期待できるからである。歩き方であらぬ嫌疑をかけられないためにも(!?)、時折自分がどんな風に歩いているのか確認してもいいのかもしれない。
■歩きスマホでは“忍び足”になっている
歩行者の話題ともなれば、ますます問題が深刻化している“歩きスマホ”の件も外せないだろう。
鉄道各種や行政による歩きスマホ啓発キャンペーンが定期的に行なわれているものの、歩きスマホに関連した事故はいっこうに減る気配を見せない。
歩きスマホがどれほど歩き方に影響を及ぼして危険を招いているのか、イギリスのアングリア・ラスキン大学の研究チームが、歩行者の視線の先を追跡するアイ・トラッカー装置と身体の動きを分析するセンサーを用いて、21人のさまざまな条件下での歩行を記録して分析している。
参加者は5.6mの距離を1往復半、それぞれ手に何も持たない状態、スマホでテキストメッセージを作成しながらの状態、テキストメッセージを読んでいる状態、通話している状態で歩き、その視線と身体の動きが詳細に記録された。参加者が歩行する場所には現実の街中を想定したサインボードなどいくつかの障害物が設置されている。
分析の結果、スマホを使用することで、路面の高さの変化を頻繁にチェックしなくなり、慎重な足取りに変化していることがわかった。つまり歩きスマホでは路面や周囲をあまり見ていないかわりに“忍び足”になっているのだ。これが最も顕著にあらわれるのが、テキストメッセージを入力する歩きスマホであった。
手に何も持っていない歩行を各人の基準として、テキスト入力中の歩きスマホでは、前足も後足も接地がつま先側になり、歩幅が38%短くなっていた。そして前足を18%高く上げるようになり、歩行動作がゆっくりになっているのだ。まさに“抜き足、差し足、忍び足”である。
歩きスマホの際には、意識しなくとも歩き方が“忍び足モード”になっているというのは、ある意味で人体の環境適応能力の優秀さをあらわすものでもあるが、逆に言えば歩きスマホは歩き方を変化させるほど脳機能のリソースを使っていることになり、危険を察知する能力が大幅に失われていることでもある。サイエンス的にも危険であることが当然となっている歩きスマホは厳に慎まなければならない。
参考:「Springer Nature」、「Plos One」ほか
文=仲田しんじ
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