“次の番”で認知機能が低下する!? “嬉しい誤算”はよく覚えている?

サイコロジー

「次は自分の番」という状況では何かとあたふたしてしまうかもしれない。それもそのはず、そういう状況では認知機能がかなり低下しているというのだ。

■“次の番効果”で記憶力が損なわれる

 たとえば小学校の国語の授業で、いきなり名指しされて朗読をするのと、席の順番で前の生徒に続いて朗読するのとでは、どちらが気が楽だろうか。最近の研究では「次は自分の番」という時には記憶力が損なわれていることが報告されている。

 カナダ・ウォータールー大学の研究チームが2019年8月に「Journal of Memory and Language」で発表した研究では、合計400人が参加した4つの実験で、「次の番効果(Next-in-line effect)」によって記憶力が損なわれ、前の人の話の内容が記憶に残らない現象が実際にあることを報告している。順番に朗読する国語の授業では、自分の直前に朗読した生徒の話はあまり耳に入らず、その分授業の内容がよく理解できなくなることにもなる。

 次に自分がパフォーマーになることが予期されると、パフォーマンスの前に発生する情報に注意を払うのではなく、その後のプレゼンテーションの詳細に集中する傾向があるため、記憶力を損ねる可能性があり、特にこれから行う自分のパフォーマンスに不安を感じている人は、この現象を経験する可能性が特に高いのだと研究を主導したノア・フォーリン氏は説明する。

 学校の授業で生徒たちは朗読やプレゼンなどさまざまな発表を行うが、こうしたパフォーマンスが持つこのようなネガティブな側面は広くよく理解されなければならないのだろう。

“次の番効果”による記憶力の損失を生徒個人の側で回避するためのシンプルな方法は、クラスなどの発表では自分が最初の発表者になってしまうことである。一番最初に発表を行ってしまえば、後は心おきなく授業に集中できるからだ。「次は自分の番」という状況をなるべく作らないほうがよいのかもしれない。

■“嬉しい誤算”で記憶が強化される

“次が自分の番”という意外な状況で記憶力が損なわれることが指摘されているのだが、逆にこちらも意外な状況で記憶が強化されることもまた最近の研究で報告されている。予想外の幸運に見舞われた時に見聞きしたエピソードはよく覚えているというのである。

 米・ブラウン大学の研究チームが2019年3月に「Nature Human Behaviour」で発表した研究では、報酬予測誤差(reward prediction error)が記憶に及ぼす影響を探っている。

 実験参加者は“掛け金”が示された一連の画像(生物と物体)を見せられた状態でギャンブルを行った。画像を見てコイントスで勝敗が決まるギャンブルを160回行った後、今度はギャンブルで見た画像をどれくらい覚えているのかのテストが課された。

 収集したデータを分析したところ、参加者は自分がギャンブルに勝った回数が多かった画像をよりよく記憶している明確な傾向があることを突き止めた。

 またこの記憶が強化される傾向は数分以内に検出可能であり、24時間後でも実質的に変わらなかった。したがって記憶形成プロセス自体に直接影響を及ぼしているわけではなさそうだ。

 ギャンブルでの勝利など、想定外の幸運で発生する報酬予測誤差のシグナルは言語、記憶、聴覚に関わる脳の領域である側頭葉へドーパミンを供給し、報酬系のメカニズムを働かせていると考えられてきたが、今回の研究はドーパミンが記憶を強化する役割を果たしていることが示唆されることになった。うつ気分から身を守るためにも、生活の中で“嬉しい誤算”を数多く体験したいものである。

■今日のデジタル社会で記憶力が損なわれている

 状況によって記憶力が損なわれることもあれば、逆に記憶が強化されることもあるのだが、今日のインターネット時代は我々の本来の記憶力にきわめてネガティブな影響を及ぼしていることが国際的な研究から指摘されている。インターネットは我々の脳を変えているというのだ。

 英・オックスフォード大学、米・ハーバード大学の精神医学とメンタルヘルスの専門家を含む国際的な研究者チームが2019年5月に「World Psychiatry」で発表した研究では、インターネットの使用が脳の構造をどのように変化させるかなど、インターネットが脳と考え方に及ぼす影響を解説している。

 レポートでは、インターネットを使用すると、タスクに集中したり、情報を思い出したり、他者と交流する能力に「急激で持続的な変化」をもたらすと結論づけている。そしてこれが実際に脳の構造を変化させる可能性を秘めているのだ。

「良くも悪くも、私たちはすでに世界の人口全体で広範なインターネット利用の大規模な“集団人体実験”を行っています」と研究は結論づけている。つまりインターネットが人間と社会を今後どう変えていくのか、現在我々は世界規模で“実験台”になっているというのだ。

 インターネットによってもたらされる“情報の洪水”によって、我々は同時にさまざまな情報を浅く広く追跡する“マルチタスキング”を余儀なくされている。マルチタスキングによって1つのことに集中して取り組むことが困難になり、集中力と記憶力が損なわれる可能性が高まるということだ。

 そしてインターネットは我々の生き方や働き方を変えるだけでなく、実際に脳を変化させ得るのである。もはや中断することのできない“集団人体実験”で、今後我々の脳がどのように変化していくのかが少しずつ明らかになってくるわけだか、ともあれスマホやパソコンを使用する時間を意図的に減らし、運動や瞑想、入浴などで“デジタルデトックス”する時間を極力確保したいものである。

参考:「ScienceDirect」、「Nature」、「Wiley Online Library」ほか

文=仲田しんじ

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