またひとつ東京に名誉の称号が加わっている。東京は世界で最もエコフレンドリーな通勤都市なのである。
■東京は世界一のエコフレンドリーな“働く街”
持続可能な社会を目指す取り組みの中で、これまで以上に公共交通機関にシフトした都市設計が求められているが、その点で東京は世界で最先端を走る“エコフレンドリー”な都市であることが最近の調査レポートで示されている。
英ロンドンを拠点にする世界トップクラスのマーケティング企業「カンター(Kantar)」が2019年10月にエコフレンドリーな通勤環境が整備された都市のトップ10「The Green Commuter Index Top 10」を発表している。
世界31都市の2万人の都市勤労者の通勤実態を調査した分析で、環境にやさしく緑が多い“エコフレンドリー”な通勤環境が整った都市の1位に東京が挙げられたのである。続いて2位は北京、そして3位はシンガポールであった。
以下、4位:ナイロビ、5位:ロンドン、6位:コペンハーゲン、7位:ソウル、8位:サンパウロ、9位:アムステルダム、10位:モスクワとなっている。モータリゼーションが普及している北米からは1都市もトップ10入りしていない。
上位トップ3の都市は、膨大な人口を抱えていながらも通勤者が公共交通機関を利用する割合が高く、人口に比較して車通勤の割合がかなり低いことが特徴になっている。
歩行通勤という点でも東京はトップで、通勤者の18%が歩いて仕事場に通っているという興味深いデータも明らかになっている。ちなみに2位はイングランド・マンチェスターの16%だ。
グローバル的には依然として乗用車がメインの交通手段になっており、世界平均で都市通勤者の39%が車通勤をしているという。そして残念ながら交通公共機関を利用する通勤は、感情面においてはネガティブに受け止められていることもまた浮き彫りになった。
電車通勤は気が進まない面もあるかもしれないが、今後の地球環境のことを考えればグローバルな規模で“東京化”していかなければならないのだろう。
■公共交通機関の利用率が高いと住民の肥満率が低い
あまり気乗りしないにせよ、公共交通機関での移動は環境にやさしいばかりでなく、自動車移動よりも肥満リスクを低下させてくれることも最近の研究で報告されている。公共交通機関は地球にも自身の身体にとっても好影響を及ぼすのである。
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究チームが2018年11月に「Transportation Research Part A: Policy and Practice」で発表した研究では、長期に及ぶ追跡調査を通じて、公共交通機関をよく利用する地域の住民に肥満の割合が低いことが報告されている。
研究チームは2001年と2009年の全米45州の227の地域(カウンティ)の住民の健康診断データと、公共交通機関の利用データを分析したところ、公共交通機関の乗車者数が1%増えるごとに、その地域の肥満率が0.473%ポイント低くなることを突き止めた。つまり公共交通機関がよく利用されている地域ほど、住民の肥満率が低いのである。
研究チームは、1つのモデル地域として成人人口の20%が少なくとも週に2日または月に11回以上公共交通機関を利用し、住人の肥満率が35%の地域がアメリカの標準的なカウンティであると設定した。
そしてこの基準モデルから公共交通機関の利用率が20%から1%増えて21%になると、地域の肥満率が35%から34.527%に減少することが予測できたのである。
研究チームによれは公共交通機関の利用率と肥満の関係は個人レベルには落とし込むことができないものの、このように地域住民レベルで関係があることが示される研究結果になった。そして地方行政において公共交通機関への投資は、環境への好影響ばかりでなく住民の健康にも大きく寄与するものになると結んでいる。日常の中に運動を取り入れる意味でもなるべく公共交通機関を利用したいものだ。
■“アクティブ通勤”で生産性が向上する
交通公共機関を利用した通勤が推奨されているのだが、さらに一歩踏み込んで自分の足で職場に通うことで、仕事生活の満足感と生産性が向上することが最近の研究で報告されている。
豪・ロイヤルメルボルン工科大学とメルボルン大学の合同研究チームが2019年5月に「Journal of Transport Geography」で発表した研究では、通勤スタイルと職場での生産性の関係を探っている。
オーストラリアの35歳~54歳の勤労者1121人を調査した研究で、徒歩または自転車で通勤している者は、公共交通機関や自動車を利用して通勤する者よりも、自己申告による仕事の生産性が優れている傾向にあることが浮き彫りになっている。
研究ではまた、通勤距離が従業員の健康と幸福にどのように影響するのかについても検証が行われたのだが、ある意味では当然のことながら、長距離通勤者は欠勤が増え、作業量が減り、仕事を怠け、身体的および精神的健康を損ねる傾向があることも突き止められた。また長距離通勤者は総給与所得が低くなる傾向も明らかになった。
徒歩やランニング、自転車で通勤できるということはそれだけ自宅と職場の距離が近いということになる。アクティブな通勤のメリットに注目される一方で、長距離通勤のネガティブな一面もまた強調される研究になったといえるだろう。
研究チームは従業員の仕事生活の満足度と生産性を高めるためにも組織はアクティブな通勤を奨励し、駐輪場の整備やシャワー室の設置などを検討してみることを提案している。すべての距離を自分の足で通勤しなくとも、1駅、2駅長く歩いて通勤することなども含め、日常生活の中にうまく運動を取り入れていきたいものだ。
参考:「Kantar」、「ScienceDirect」、「ScienceDirect」ほか
文=仲田しんじ
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