肌の露出が多いファッションは爽やかである一方、軽く見られそうなイメージもあるが、最新の研究では他者のファッションを見る人々の意識はずいぶん変化していることが浮き彫りになっている。
■セクシーな格好の女性は頭が良さそうに見える?
肌の露出が多いセクシーな格好の女性は男性の注目を集めるが、その視線は賞賛ばかりではなく若干の非難も含む賛否入り混じったものであるかもしれない。しかし、こうした女性のセクシーな格好に対するネガティブな印象は、着実に変ってきているということだ。
イギリス・ベッドフォードシャー大学の研究チームが2016年に発表した研究では、女性のファッションについて若者がどういう印象を抱いているのかを探る調査が行なわれている。
調査では平均年齢21歳の64人の大学生に21枚のファッションモデルの写真を見せて、見た目の印象から当人の知性、誠実さ、性格特性、性欲の強さ、職業的地位を評価してもらった。写真のファッションモデルはいずれも30歳代前半の女性で服装はさまざまである。ミニスカートで上半身の肌の露出も多いセクシーな格好のモデルもいれば、ロングスカートでほとんど肌の露出がないモデルもいた。
調査の結果、肌露出の多いモデルは知性と誠実さにおいて高い評価を得ていることが判明した。これには研究チームも意外に感じたということだが、セクシーな格好の女性に対するこれまでのステレオタイプのイメージが変化しているのではないかと考えられるという。ちなみに知性と誠実さ以外の要素では、服装が及ぼす影響はなかったということだ。
「我々の予測に反して、セクシャルな女性が高い知性と誠実さを備えていると見なされていることがわかりました。…(中略)…セクシュアルな格好の女性に対するネガティブなイメージはまだ社会に存在しているとは思いますが、人々は以前よりもセクシャルな格好を肯定的に見ていることは確かなように思えます」と研究チームのアルフレッド・ガイタン博士は語る。
また奇しくもこれに類する研究がイギリスのセント・アンドルーズ大学でも行なわれていて、200人もの学生の写真を撮影し、その写真を別の大学生グループに見せて、写真の人物の知性や誠実さ、魅力や学業成績などを評価してもらった。すると魅力の高い人物は知性的で学業の成績も高いと見なされている傾向が浮きぼりになった。つまり魅力的な外見の人物は頭が良いと思われているのだ。もちろん現実はそう単純は話ではないのだが、ルックスがイケてる人物は知性が高いというイメージを抱かれやすいことをこの機会に確認してみてもよいだろう。
■“服装の心理学”7つのケース
服装が周囲に与えるイメージに大きな影響を及ぼす一方、衣服は着ている当人の意識や気分をもまた少なからず左右するものである。具体的にどのような服装が当人の意識の変化をもたらすのか。社会心理学者のガウリ・サルダ・ジョーシー氏が“服装の心理学”の7つのケースを解説している。
1.正装すること=パワーアップ
ビジネスフォーマルの服装はいわば“戦闘服”であり、ビジネスにおける“攻撃力”を高めるものになる。念入りに正装することで自身が深まり、ビジネスの現場での交渉力と抽象思考能力を実際に向上させているということだ。
2.カジュアルフライデーの効能
ビジネスフォーマルはその一方で、着ている人間の心を閉ざす傾向がありリラックスしにくいという側面もある。そこでカジュアルフライデーが効果を発揮する。ビジネスカジュアルは着ている当人をより社交的に、フレンドリーに、加えてクリエイティブにしていることが研究で報告されている。
3.スポーツウェアの心理学的効果
形から入るという言葉あるが、プロ仕様のシューズやウェアを揃えることにも意義があることが米・ノースウェスタン大学で指摘されている。つまり、本格的なウェアに身を包むことで実際にカラダを動かす意欲が湧いてくるのだ。
4.制服の意義
例えば実験室で白衣を着ることで、実際に当人の注意力や観察力が高まっているということだ。服装が持つこの効果は着衣認識力(enclothed cognition)と呼ばれ、白衣をはじめ、プロフェッショナルな制服を着用する意味はまさにこの効果にあると言えるだろう。また学校においても制服の導入が学業の向上に結びついていることが、ケニアの学校を調査したケースで報告されている。
5.高級ブランド服は政治的に保守
個人が抱く政治思想は経験や思考の産物と思われているが、当人の服装が大きな影響を及ぼしていることが各種の研究で明らかになっている。たとえば、高級ブランドであるプラダのバッグを持つ女性はより保守的で資本主義を支持している傾向が判明している。伝統的高級ブランドはやはり政治的保守の傾向を“体現”しているということだろう。
6.派手な色彩の服は気分を高揚させる
派手な色彩の衣服は実際に着用した者の気分を高揚させ、活力をもたらしてくれることが研究で明らかになっている。服装の縛りがない休日にはどうせなら普段着ないような色合いの服を着てみてもよさそうだ。
7.服装の最大の秘密は下着にあり
着用している当人にしかわからない下着はその日の気分を大きく左右している。特に“勝負下着”を着けている日には自信のある積極的な行動ができるというものだろう。
どんな服装が自分を望ましい人物に変えてくれるのかと考えた場合、誰かの服装を真似ることから入ってもよいということだ。聡明で力を持った人物の服装を真似ることで、実際にその人物に近づけることが研究で指摘されている。
■宗教的な衣服を着た女性はどのように見られているのか
訪日外国人の数が増える一方の昨今では、宗教を色濃く反映した服装のイスラム教圏の女性を見かける機会も増えているだろう。最新の研究では、こうした宗教的な衣服を身に纏った女性に対する我々の“見る目”は、カジュアルファッションの女性とはかなり違っていることがアイトラッキング技術を駆使した調査で明らかになっている。
ポルトガル・ミーニョ大学の研究チームが2017年4月に発表した研究では、保守的な宗教衣服を着た女性を我々がどのように見ているのか、最新のアイトラッキング技術を用いてその視線が注がれる先を分析している。
“ファッション心理学”の研究はこれまでにも多く行われているが、宗教的な衣服への研究はほとんど行なわれてこなかった。今回、ミーニョ大学の研究チームは、伝統的な宗教衣服を着た女性のどの部分に周囲の視線が注がれているのかを解析した。その結果、ある意味では当然のことかもしれないが、女性らしいボディ曲線を覆い隠す宗教衣服の場合、身体にはあまり視線が注がれておらず、顔や頭部に視線が集中している傾向が明らかになった。
この分析結果にもとづき研究チームは、宗教衣服は女性の身体的な魅力を減少させる一方、顔を強調するものになっていることを指摘している。
保守的な宗教衣服は肉体的魅力で男性を惹きつけるのではなく、より顔に視線を集めることで潜在的パートナーへ訴求していることになる。したがってロマンスを排除して将来の伴侶を探すうえで、宗教衣服は有効であるのかもしれない。とはいえ、パートナー探しの“戦略”という意味においては、ことはそうシンプルなものではなく、先に挙げたセクシュアルな女性が知的に思われているという、女性観の変化もここに関わってくるだろう。単にファッションというばかりではなく、あらためて服装について考えさせられる話題が続いているようだ。
参考:「Daily Mail」、「Brain Fodder」、「Taylor & Francis」ほか
文=仲田しんじ
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