最も長生きできるスポーツ種目は?

サイエンス

 スポーツに熱中した経験はその後の生活にどのような影響を及ぼすのだろうか。最近の研究では、クロスカントリーのスキーヤーは後年にうつになりにくいことが報告されている。

■スキーヤーは後の人生でうつになりにくい

 ウィンタースポーツの中でもスキーやスノーボードは特に熱中しやすいスポーツの代表格だろう。最近の研究では、スキーに熱中した経験を持つ人々の脳の健康状態を20年にもわたって追跡していて興味深い。

 スウェーデン・ルンド大学、ウプサラ大学をはじめとする研究チームが2019年10月に「Alzheimer’s Research & Therapy」で発表した研究は、世界最大規模の長距離クロスカントリースキーレースである「ヴァサロペット(Vasaloppet)」の1989年から 2010年までの参加者20万人の脳の健康状態を21年にもわたって追跡している。

 21年の時間軸の中でスキーヤ―と特にスポーツ経験のない人々(コントロールグループ)を比べると、スキーヤーのうつと脳血管性認知症(vascular dementia)の発症率は、スポーツ経験のない人々の約半分にまで低下することが突き止められた。スキーに熱中した体験はその後の脳の健康にポジティブな影響を及ぼしていることが示唆されることになったのだ。

 しかしながら別の意味で興味深い発見もあった。アルツハイマー型認知症の発症率においては、スキーヤーとコントロールグループの間に有意な差は見られなかったのである。

 研究チームは強度が中程度以上のスポーツ経験は、アルツハイマー病を引き起こす分子プロセスに特に影響を与えないと説明している。しかしながら、身体活動の経験は全般的に脳と身体の健康に資するものであり、特に血管損傷のリスクが低減されることは間違いないということだ。

 これまでの研究でもヴァサロペットに参加した経験を持つスキーヤーは心臓発作を起こすリスクが低いことが示されている。スポーツに熱中した経験は後の人生の健康におおむね好影響を及ぼすと考えてよさそうだ。

■最も長生きできるスポーツ種目は?

 スキーに熱中した体験がその後の心身の健康にポジティブに作用しているのだが、では最も長生きできるスポーツ種目はどれなのか。それはずばり、テニスであることが最近の研究で指摘されている。テニスを趣味にすることで、寿命が10年延びるというのである。

 デンマークの医療研究機関「Copenhagen City Heart Study」や米・メイヨークリニックをはじめとする研究チームが2018年11月に「Mayo Clinic Proceedings」で発表した研究は、各人が続けている各種のスポーツ種目と寿命の関係を探っていて興味深い。

 研究チームはデンマーク・コペンハーゲン在住の1975年の時点で20~93歳の8577人の運動習慣と健康状態を25年にわたって追跡調査した。

 人々から収集したデータを分析したところ、運動習慣になっているスポーツ種目によって“長寿効果”が異なっていることが突き止められたのだ。最も長寿に関係しているスポーツはテニスで、趣味のテニスプレイヤーはまったく運動をしない人々よりも9.7年、寿命が長くなるということだ。

 続いてバドミントンの運動習慣は6.2年寿命が延び、サッカーは4.7年であった。

 一方で競技人口が多く一人でも行える運動であるサイクリングは3.7年、水泳は3.4年、ジョギングは3.2年と、イメージに反して意外にも寿命に及ぼす好影響は低くなることが導き出された。

 なぜテニスにこれほどまでの“長寿効果”があるのか詳しい理由はわかっていないのだが、研究チームによれば、テニスやバドミントンなどのラケットスポーツは対戦相手との交流を前提にした“ソーシャル”な競技種目である点を指摘している。これらの競技に取り組むことでソーシャルな交流が充実し、単なる運動以上に心身に好影響を与えることが、結果的に長寿に繋がると考えられるという。

 また運動習慣にテニスを選べるということは、比較的裕福で自由時間もたっぷりあるライフスタイルの人々が多く、全般的な生活の満足度の高さが長寿に結びついているという説明も成り立つ。趣味のスポーツは余裕を持って同好の士と楽しく交流しながら取り組むことで“長寿効果”が期待できそうだ。

■元プロサッカー選手に高い神経変性疾患リスク

 単なる運動を越えてレクリエーションにもなるスポーツの健康に及ぼす好影響が指摘されているのだが、最近の研究からは気になる報告もある。元プロサッカー選手はアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患での死亡リスクが高まるというのだ。

 英・グラスゴー大学、クイーンエリザベス大学をはじめとする合同研究チームが2019年10月に「The New England Journal of Medicine」で発表した研究では、スコットランドのデータベースに登録された元プロサッカー選手7676名を追跡調査してその死因を一般人2万3028名と比較している。

 収集したデータを分析した結果、元プロサッカー選手は神経変性疾患因死亡リスクが高く、特にアルツハイマー型認知症リスクでの死亡リスクは一般人の5倍に高まるというショッキングな数値が導き出されたのだ。

 引退後すぐに元選手の体調にネガティブな変化が起きるということではなく、70歳までは元選手のほうが一般人よりも総じて健康であった。しかし70歳を超えると元選手の死亡リスクのほうが高まり、特に神経変性疾患因死亡リスクはきわめて高くなったのだ。

 ラグビーやアメリカンフットボール、あるいは格闘技種目ほどではないにはせよ、サッカーにおいてもゲーム中にはそれなりに身体接触を伴う。加えてヘディングの脳への影響は今日でも引き続き懸案事項になっている。

 2002年に逝去した元プロサッカー選手のジェフ・アストル氏は、現役時代にヘディングをし過ぎたために脳にダメージを受けていたのだと一部から指摘されており、ヘディングが脳に与える影響について現在も研究は続けられている。

 運動は総じて健康に資するものだが、脳に衝撃を伴うプレイはやはり懸念材料ではある。身体接触を伴う競技種目は人気が集まるが、健康目的に行うスポーツであれば種目選びは慎重になったほうがよいのかもしれない。

参考:「BMC」、「NLM」、「MEJM」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました