旅の土産話よりも旅行の予定を聞かされたほうが羨ましくなる!?

サイコロジー

 自分が行きたいと思っていた場所を訪れた友人の話には羨ましさを感じるだろう。だがこの事後報告となる“土産話”よりも羨ましいのは、行く予定であることを事前に伝えられた時であることが最近の研究で報告されている。我々はすでに起ったことよりも、これから起ることにより注目し、羨望を感じるのだ。

■事後報告よりも事前の情報のほうが羨望を感じる

“羨望”とは実はユニークな感情である。他者の身に起った出来事やアチーブメントを羨むことで、自己卑下などのネガティブな感情が生じる一方、逆に大いに発奮させられるといったポジティブな感情にも繋がっている。

 米シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの研究チームが2019年5月に「Psychological Science」で発表した研究では、羨望の感情について“タイミング”がどのような影響を及ぼしているのかを実験を通じて探っている。

 研究チームは620人の実験参加者に、親しい友人が羨ましい体験をした時のことを想像してもらった。たとえば夢の海外旅行、望ましい仕事での昇進、夢の高級車の購入などである。参加者は友人の身に起こったそうした出来事をどれほど羨ましく感じたのかを自己採点したのだが、それぞれのシナリオは異なっていて、ある参加者はその出来事が起る前の設定で想像し、もう一方の参加者はその出来事が起った後の設定で想像したのだ。

 参加者から収集したデータを分析したところ、結果は興味深いものになった。友人の身に起った出来事の“事後”には、もちろん相応の羨望は感じるもののその羨ましさが減衰していく傾向が明らかになったのだ。我々は旅行の予定や高級車購入の事前の予定を聞かされた時のほうが、旅行後や高級車購入後の話を聞かされるよりも強く羨ましさを感じているのである。

 加えて羨望の感じ方の違いも明らかになった。“事前”の羨ましい話は妬みや自己憐憫などのネガティブな感情を引き起こしやすく、“事後”の羨ましい話は発奮やチャレンジといったポジティブな感情の引き金になる傾向が強いということだ。

 例えば現在、世界で5億人が各種のSNSを日常的に利用しているといわれているが、投稿の影響力という点においてはこれから起る“事前”の情報を提供したほうが、“事後”の報告よりも印象に残りやすいということになる。とはいえ“事前”の情報はネガティブな感情を引き起こしやすくなることもよく理解しておかなくてはならないだろう。

■SNS時代に高まる“元カノ元カレ嫉妬”

 SNSの普及によって我々の人的交流にさまざまな変化が訪れている。出会いの機会が増えたぶん、それだけトラブルのリスクも高まっているのだが、特にカップルの間で高まっているのが“元カノ元カレ嫉妬”とでも呼ぶべき「さかのぼりジェラシー(retroactive jealousy)」のリスクである。

 フェイスブックなどのSNSの利用拡大によって、今では特定の個人の情報をかなりの程度、オンライン上で調べ上げることができるのはご存知の通りだ。その人物を深く知る上では便利な世の中になったものだが、その中には知らないほうがよかった情報も含まれてくるだろう。

 現在のパートナーが以前どんな人とつきあっていたのかについて想像するのはごく自然な好奇心だとも言えるのだが、今日のSNS時代にはその興味を“深堀り”することがある程度できてしまう。そこでカップルの間で高まっているのが“元カノ元カレ嫉妬”なのだ。

『Overcoming Retroactive Jealousy』などの著作を持つザカリー・ストッキル氏は自身も“元カノ元カレ嫉妬”を経験し克服した過去を持つ。“元カノ元カレ嫉妬”に苛まれている最中には、現在のパートナーの前のボーイフレンドのことが頭を離れず、デート中に訪れた場所にも前の彼氏とよく来ていたのではないかと勘繰ったり、SNSの投稿を辿って前の彼氏がどんな人物だったのかを執拗に調べていたということだ。

 同じく“元カノ元カレ嫉妬”に駆られた27歳の女性はオンラインメディア「Refinery29」の記事の中で、現在のパートナーの前の彼女のSNSを突き止めて常にチェックすることが日課になってしまったことを報告している。

 心理カウンセラーのアマンダ・メイジャー氏は“元カノ元カレ嫉妬”がカップルにとっていかに危険であるのかを警告している。この嫉妬は普通のジェラシーとは違うというのだ。

「これはしばしばパートナーと前の恋人たちの間で本当に起こった“真実”を知らなければならないという強迫観念的なサイクルに陥ります。そして当人とパートナーを苦しめ、カップル関係が悪化する可能性があります」(アマンダ・メイジャー氏)

 SNS時代を迎えた現代のカップルが直面している新たなリスクをよく理解すべきなのだろう。

■動物も嫉妬するのか?

 羨望や嫉妬の感情は、対人交流でいわば“かけひき”ができる人間であるからこその“特権”のようにも思えなくもない。しかしそうした先入観に反し、嫉妬は多くの動物にも備わっている実に原始的な感情であることが最近の研究で報告されている。

 米・カリフォルニア大学の研究チームが2014年7月に「PLOS ONE」で発表した研究は、飼い主と犬の関係をビデオで撮影して犬の“嫉妬心”を分析する実験を行なっている。

 実験で飼い主には愛犬と一緒にいる時間に3種類のモノに気を取られて一時的に愛犬を意図的に無視する行動を課された。その3つのモノは犬のヌイグルミ、子ども向けの絵本、ハロウィンのカボチャ提灯である。

 ビデオを分析した結果、飼い主が犬のヌイグルミを可愛がっている時に多くの犬は嫉妬の感情をあらわにしたということだ。犬の多くはヌイグルミが本当の犬だと認識しており、予期せぬ“ライバル”の出現に嫉妬心をたぎらせ、その中でも4分1の犬はヌイグルミを攻撃しさえしたのである。

 このほかにもキツネザルを観察した研究では、好みのメスの個体に接近するオスの個体を見たオスのキツネザルはその接近を妨害する行動を取り、ホルモンバランスの変動など生理的にも攻撃性を高めていくることが確認されたり、人間の生後6ヵ月の乳児であっても、母親が人形を可愛がっている様子を見せられると嫉妬感情を見せることなどが報告されている。

 また学術的な研究はまだあまりないものの、飼い主たちは猫や馬、鳥などにも嫉妬心があることを経験的に気づかされているということだ。

 したがって嫉妬という感情は、あらゆるタイプの社会的関係を予期せぬ侵入者から守るために進化した先天的な感情であり、人間以外の社会的動物にも広く存在している本能に近い感情であることが示唆されてくるのである。かくも嫉妬や羨望の感情は根深いものであることをいろんな意味で(!?)今一度確認しておくべきなのだろう。

参考:「APS」、「The Sun」、「Live Science」ほか

文=仲田しんじ

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