拡大を続けるネットショッピングの一方で個人商店がなくなる日は来るのか?

サイエンス

 アマゾンをはじめとするオンラインショップの市場拡大が留まるところを知らない。その一方で特に地方都市などでいわゆる“シャッター通り”が増え続け小売店の廃業が続いている。小売店が完全になくなる日がやってくるのだろうか。

■個人商店がなくなる日は来るのか

 一般的な街の景観で目立つのはもっぱらコンビニと飲食チェーンばかりといった様相の通りが増えてきているかもしれないが、ご存知の通りあらゆる分野で小売店舗の減少が続いている。その一方でオンラインショッピングの市場規模はまだまだ拡大中だ。

 米・アリゾナ大学が2018年10月に「Journal of Retailing and Consumer Services」で発表した研究では、400人もの人々に消費行動についてのアンケート調査をすると共に、もしチェーン店ではない小売店がこの社会から完全に消えたと仮定し、どのような感慨を抱くのかを自由に回答をしてもらっている。

 2016年から2017年にかけて、米国内での小売店の店舗閉鎖は約7000と、それまでの3倍以上に増加している。一方でオンラインショッピングの売上高は2016年の時点で2011年から倍増。こうした背景もあり予想された通り、人々の消費行動に占めるネットショッピングの割合は以前よりも高くなっていた。

 個人商店、個人飲食店の消滅については、普段オンラインショッピングを盛んに行なっている消費者においても、社会にとってネガティブな影響を及ぼすと痛切に感じていることが調査によって明らかになった。具体的に懸念されているのは失業者の増加、社会生活での交流の欠如、犯罪の増加である。

 個人商店、個人飲食店は我々の社会を構成している要素の一部であると多くの人々は感じており、もしそれら消えるようなことがあれば、地域経済と雇用、地域税収に懸念が高まるのだと研究チームは解説する。

 人々のこうした思いは、実店舗での消費行動が単なる消費ではなく、日常のアクティビティの一部であることを示唆している。人々は実店舗で買い物をすることで家族のコミュニケーションを図り、地域の人々と交流し、軽い運動を行っているのである。

 オンラインショッピングは多くの場合、単なる“仕入れ”に終わるが、実店舗、とりわけ個人商店での消費行動はある意味で〝プライスレス”な体験ということなのだろう。オンラインショッピングで節約した時間を、リアル店舗での有意義な消費行動に結び付けたいものだ。

■小売店が利益をあげる5つのポイント

 実店舗でのショッピング体験は“プライスレス”だとはいっても、効率面から言えばオンラインショッピングには敵わないだろう。そこでオーストラリアの小売店協会「Australian Retailers Association」のウェブサイトの記事では、小売店がオンラインショップに対抗するための5つのポイントを解説している。

●売り場を工夫する
 オンラインショップにないのはリアルな売り場の環境である。そこで小売店は売り場の環境を工夫することで、来店客に印象的なショッピング体験を提供できる。

 内装、展示物、BGM音楽、香りとリアルな売り場のアドバンテージを最大限に生かしたい。良い香りの店では来店客の滞在時間が平均15分伸びると報告している研究もあるようだ。

●スマホを敵と考えない
 小売業者はスマートフォンをオンラインショッピングに結びつく“敵”として考えるべきではなく、店舗内での販売を促進する手段として考えるべきである。実店舗に来ていても4人のうち3人はスマホを持参している。割引特典やセール情報などをスマホ経由で提供することで来店を促すことができる。

●レジ待ちを可能な限り短くする
 実店舗の強みは顧客が購入した商品をすぐに手に入れられることだが、レジ精算に時間がかかると顧客の満足度は下る。小売店はレジ待ちを可能な限り短くできる方策を講じるべきだ。電子マネー決算や無人レジの導入などを検討してみてもよいのだろう。

●ネット通販と小売店を融合させる
 ユニクロなどが提供している「クリック&コレクト」と呼ばれるサービスは、ネットの通販サイトで注文したものを店舗で受け取れるサービスである。通販サイトではある一定額以上の買い物でないと送料が無料にならないが、クリック&コレクトでは小額の買い物でも送料はかからない。

 そして実店舗を訪れることで顧客はかなりの確率でほかの気になる商品を見て周るため“ついで買い”に繋がるのである。

●カスタマーサービスの充実
 カスタマーサービスが自動化されてあまりきめ細かい対応ができないオンラインショッピングサイトに比べ、顧客からの問い合わせにその場で応じられるのは小売店の強みである。したがってカスターマービスを強化することは顧客の満足度を高め、また顧客から寄せられる問い合わせやリクエストによって市場のニーズを把握することができれば商機に繋がる。

 こうしたポイントを考慮することで、小売店のアドバンテージを最大限に生かした経営が実現できるのだ。

■オンライン高級シャツブランドが小売をはじめた理由

 2009年12月に米バージニア州リッチッモンドを拠点に創設されたオンライン販売限定の高級シャツブランド「レッドベリー(Ledbury)」は、高級なワイシャツを手ごろな価格でネット販売したことで人気を集めてきたのだが、最近はその売り上げの30%を小売店での販売が占めているという。中間マージンを省いた値づけができるネット販売の強みを生かして急成長した同ブランドがどうして小売をはじめたのか。

 共同創業者で同社CEOのポール・トリブル氏はそもそも小売店での販売は一切頭になかったという。しかしレッドベリーのブランドが知られるようになると、いくつかの紳士服小売店からレッドベリーのワイシャツを仕入れさせてくれないかという声が寄せられることが増えてきた。彼らの顧客がレッドベリーのワイシャツを欲しがっているというのだ。

 その顧客がネット通販で購入すれば良いだけの話ではあるのだが、少し興味を持ったトリブル氏は2016年に20の小売店にシャツを仕入れて様子を窺ってみたのだ。その背景にはレッドベリーが小売店の売り上げを奪っているという批判の声もあったようだ。

 さらに2018年2月には社内でプロジェクトチームを作り、仕入れる小売店をさらに増やし、小売店でシャツがどのように売れているのかを詳細に調べた。小売店とは契約を結び、売れ行きに応じてマージンを支払ったのだが、いずれにしてもレッドベリー側の収益は極わずかなものであった。

 売り上げを分析した結果、小売業者はオンラインショッピングに売上をさほど奪われてはいないことが示されることになった。小売業者には毎月末に収支決算書が届けられるのだが、小売店販売におけるレッドベリー側の少ない利益を見れば、小売店側もレッドベリーに顧客を奪われているわけではないことを知ることにもなったのだ。

 そしてこれを逆に考えれば、小売店にはレッドベリーのまだ見ぬ顧客が眠っていることにもなる。

 こうして小売店の信頼を得たレッドベリーは仕入先を150店もの数に拡大。そして今では売り上げの30%を小売店販売が占めるまでになっているという。ネット販売と実店舗は敵対するものではなく、協力し合うことで新たな可能性が生まれてくる一例を示す話題になるだろう。

参考:「ScienceDirect」、「Australian Retailers Association」、「Entrepreneur」ほか

文=仲田しんじ

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