野菜が苦くて苦手だという人は、ひょっとするときわめて味に敏感な“スーパーテイスター”かもしれない。
■野菜の苦みに敏感な“スーパーテイスター”
野菜は毎日しっかり食べたいものだが、苦手でどうしてもあまり食べられないという向きもあるだろう。美味しい野菜を食べた体験がないからだという手厳しい指摘もあるかもしれないが、そこには遺伝的な要因もあるようだ。
米・ケンタッキー大学医学部の研究チームが2019年11月にペンシルベニア州フィラデルフィアで開催された「アメリカ心臓協会」の学会で発表した研究では、味覚遺伝子の塩基配列のあるパターンで、苦みにも敏感に反応する“スーパーテイスター”になることが報告されている。そしてこのスーパーテイスターは野菜の摂取量が少ない傾向があるというのだ。
苦味を感じる味覚遺伝子である「TAS2R38」において、PAVと呼ばれる異変体のコピーを2つ持つ人は、特に苦みに敏感で苦い食べ物を敬遠する傾向があることを研究チームは今回の研究で突き止めている。
研究チームは175人(平均52歳、70%以上が女性)を対象に調査を行い、収集したデータを分析した結果、PAV型の遺伝子を持つ人は、食べた野菜の量が参加者の下半分にランクされる可能性が2.5倍以上になることが判明した。しかしながら塩、脂肪、砂糖の摂取量には特に影響を及ぼしてはいなかった。
スーパーテイスターの人々は、野菜を食べる際にドレッシングなどを多く使うのではないとも思われたのだが、実際にはそんなことはなく、単純に野菜の摂取量が少ないだけであった。
研究チームは今回の研究で、スーパーテイスターに向けた野菜の味付けや調理法を探り、またどの野菜であればスーパーテイスターにも比較的容易に食べられるのかを検証することを思い描いている。野菜が苦手だという人は、自分にあった野菜の摂取法を探ってみるべきなのだろう。
■我慢して食べているとそのうち好物になる?
遺伝的に苦みに敏感な人がいることはわかったが、それでも後天的に味の好みを変えられる可能性があることが最近の研究で報告されている。食習慣によって唾液中のタンパク質が変化し、苦手な食べ物が美味しく感じられることがあるというのである。
米・ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究チームが2019年7月に「Chemical Senses」で発表した研究では、食品に含まれるタンニン酸やキニーネによって、唾液のタンパク質の構成が変化し得ることを報告している。そして唾液のタンパク質構成が変化すると、食品の味が実際に変化するのである。
唾液は約1000個の特定のタンパク質を含む実に複雑な液体なのだが、味覚受容体細胞と相互作用して食べ物の味に影響を与えているといわれている。つまり、同じ物を食べても唾液のタンパク質の構成が違えば感じられる味も異なっているのである。
特定の食べ物を食べ続けることで、唾液のタンパク質の構成が変わり、それまでは苦手だった食べ物が美味しく感じられる可能性があるということになる。確かにたとえばビール好きの多くは最初からビールを美味しいと感じてはいなかっただろう。
ブロッコリーやピーマンが苦手という人もいるだろうが、食べ続けていれば唾液が変化し、そのうち美味しく感じられ好物になるかもしれないのだ。ブロッコリーの食習慣を持つことができれば健康上の大きなメリットになるだろう。
ただしどのくらい“我慢”して食べ続ければ唾液に変化が訪れるのかについては詳しくはわかっておらず、ひとまず食べ続けていくしかないようだ。食べていればその美味しさに気づく“感動の瞬間”が訪れるのかもしれない。
■コーヒーは味よりも気分で好まれる
味の好みには遺伝的要因もあり、しかしながら後天的に変えられる可能性もあることが示唆されているのだが、そもそも我々が飲食物を選択するのは味や食感がすべてではないという研究も報告されている。苦いブラックコーヒーを好む人は、人一倍苦さを感じつつも、苦いコーヒーを飲んで気分が良くなっているのだという。
米・ノースウェスタン大学をはじめとする合同研究チームが2019年5月に「Human Molecular Genetic」で発表した研究では、実験を通じて飲食の好みは必ずしも味わいを求めているのではなく、気分を高めるためでもあることを指摘している。
UKバイオバンクに登録された33万6000人を対象に研究チームは飲料の好みを探るアンケート調査を行い、ブラックコーヒーやビール、赤ワインといった飲料を好む“苦党”と、砂糖や人工甘味料入りの甘い飲み物が好きな“甘党”に分類し、対象者の遺伝子データをゲノム解析した。
収集したデータを分析した結果、味の好みを左右しているのは味覚遺伝子の特性ではなく、精神活性に関係していることが突き止められた。つまり味を好んでいるのではなく、ポジティブな気分にさせてくれるという理由でその飲み物を選んでいるのである。
たとえばブラックコーヒー好きは遺伝子的にも苦みを感じやすい傾向があるのだが、その苦さを嫌うのではなく、その苦さによって気分が高まるが故にコーヒーを愛飲しているのだということだ。
確かにお酒の好みでは、味のあるなしできれいに分かれそうにも思える。味の好みは一筋縄ではいかないことを実感させてくれる話題ではないだろうか。
参考:「American Heart Association」、「Oxford University」、「Northwestern University」ほか
文=仲田しんじ
コメント
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