都会での暮らしは何かと慌しくストレスを溜め込みやすいものだが、それでも公園や庭園などの緑に近い場所に住むことで疾病のリスクを回避できることが最新の研究で報告されている。
■自宅から公園への距離と乳がんの関係
ご存知のように女性にとって乳がんはもっとも厄介な疾病のひとつである。都会でストレスの多い生活を送っていれば疾病リスクも高まると思われるが、それでも住んでいる環境で乳がんのリスクがかなり変わってこることが指摘されている。
スペイン・バルセロナの研究機関「ISGlobal」をはじめとする合同研究チームが2018年8月にオンライン学術ジャーナル「International Journal of Hygiene and Environmental Health」で発表した研究では、3600人以上ものスペイン人女性を調査して住環境と乳がんの関係を探っている。
調査した女性のうち1738人が乳がん患者で、1900人が健康な成人女性であり、各人の社会経済レベル、ライフスタイル、運動習慣などのデータが集められ、その一方で居住地の地理的データと大気汚染の程度を示すデータも収集された。調査は2008年から2013年の間に国内10ヵ所の地域で適時行なわれている。
収集したデータを分析した結果、居住地から公園などの緑地への距離と乳がんの発症に関係があることが分かった。都市であっても家が緑地から近ければ乳がんのリスクが低くなるのである。あくまでも公園や庭園などの緑地であり、農地に近い住環境では逆に乳がんのリスクが高まっていることも確認された。
緑地に近い環境ほど大気汚染のレベルが低く、住民の運動の機会が増えることが乳がんリスクが低下する要因と考えられている。逆に農地では殺虫剤や除草剤などの影響で空気の汚染レベルが高まることで乳がんリスクもまた高まると考えられるという。
研究チームは緑地と乳がんの関係性についてはさらに研究を深めていかなければならないとしているが、身近な緑地の重要性と運動習慣の大切さがあらためて指摘されることになった。いつでもちょっとした散歩ができる緑に溢れた公園が近くにあることは、都市生活者にとってきわめて恵まれた住環境なのだ。
■室内植物がもたらす5つのメリット
近くに公園があるにしても、忙しくてなかなか立ち寄れないという向きも少なくないだろう。そこで考慮してみたいのが室内植物である。部屋の中でもある程度の植物に囲まれることで、公園に行ったことに準じる心身へのメリットがあるという。
1.空気を清浄する
ご存知の通り植物は光合成によって二酸化炭素を吸収して酸素を生産することで、部屋の中でいわば天然の空気清浄機として機能する。植物はまた水分も放出するので乾燥した季節には部屋の湿度を保つことに貢献する。
今日の我々はインドアで過ごすことが多く、そのぶん一酸化炭素をより多く吸い込み、各種のダニに囲まれ、内壁や家具から放出されるホルムアルデヒドなどの化学物質に晒される日々を送っている。植物を室内で育てることにより、こうしたネガティブな要因を緩和、解消できるのだ。
2.ストレスの低減
これまでのいくつかの研究でオフィスの屋内植物は従業員のストレスを緩和し、不安感を減少させることが報告されている。また同様に病院でも屋内植物のストレス緩和効果が指摘されている。
屋内植物は気分を持ち上げ、快適な雰囲気作りに貢献する。また植物の緑色が気持ちを穏やかに、そして爽やかにする効果があるとも言われているのだ。
3.生産性の向上
ストレスフルな職場での仕事は生産性の低下とモチベーションの喪失に繋がる。しかしながらオフィスなどの空間に植物を置くことで生産性を高めることができる。
植物の存在により従業員のストレスが緩和され、より能率的に仕事に取り組むことができるのだ。
4.雑音を吸収
あまりよく知られていないことだが、屋内植物は音声を吸収している。例えば外の通りの騒音や人々のおしゃべりなどの音声を植物の葉、茎、枝が吸収して音量を弱めるのだ。
大型店舗やホテル、病院などでは施設内に“落ち着ける場所”の存在が必須である。すなわち人が多い場所であっても緑に囲まれ静かでくつろげる場所だ。話し声、泣いている子ども、騒々しい足音などの騒音は、従業員の生産性を低下させ、また店舗や施設を訪れた体験にマイナスの影響を与えることがある。ここでも室内植物が大きな役割を担っているのだ。
5.好ましいインテリアになる
屋内植物は人々にとってよりウェルカムな雰囲気を演出する。たったひとつの植物が、殺風景で退屈な場所を暖かく魅力的な空間に変えることができる。
例えば一部の病院では建築家と協力してより多くの植物を配置したスペース作りに配慮している。これには、室内庭園、屋内植物、入院病棟から眺められる庭園の景色が含まれる。こうした取り組みは間違いなく、病院のベッドに閉じ込められたことに伴う苦難を和らげるのに役立つのだ。
アウトドアで自然に触れる機会が少なくとも、屋内植物を栽培することでかなりリカバリーできるようだ。
■都会で健康的に暮すための5つの助言
ある分析によれば、2050年までには世界人口の3分の2が都市生活者になると予測している。都会暮らしのほうが人間にとって普通の生活になるのだ。
刺激的で便利な都会での生活だが、一方で混雑や騒音、大気汚染などのストレス要因も多い。そこで米・南カリフォルニア大学の専門家らが、都会暮らしで心身の健康を保つために配慮したい5つのポイントを解説している。
1.必ず休憩をとる
テンポの早い都会での生活では、流れに乗れば仕事も早く進む。しかし時間を有効活用し過ぎることは長い目でみれば、“燃え尽き症候群”やうつのなどの落し穴もある。
スケジュールを詰め込み過ぎることなく、意識的に休憩時間を設け、数分間でもよいから深呼吸や瞑想をする習慣を持ちたい。
2.緑に触れる機会を増やす
前出の話題にも繋がるが、公園などで自然の緑に触れることでメンタルヘルスの健康を回復できる。
「自然の緑に触れることのメリットについてはいくつもの研究があります。自然に魅了されることで、何の努力もせずに心がリラックスして回復します」と同大学のトラビス・ロングコア助教授は語る。また気分がリフレッシュされることで、創造性が高まる効果もあるようだ。
3.じゅうぶんな睡眠時間を確保する
都会には“不夜城”の側面もあり公私にわたっていつまでも起きていられる。しかし心身の健康のためにはじゅうぶんな睡眠時間を確保しなければならない。
またパソコンのモニターなどから放出されるブルーライトを浴びると身体が今が“昼”であると認識するので、夜のPC利用は寝つきが悪くなるので気をつけたい。今はブルーライトの放出を抑えるスマホアプリもあるのでうまく活用してもよいだろう。
またアイマスクや耳栓など、安眠のためのグッズを利用することも有効だ。
4.身体を動かす
短時間でもよいので運動習慣を持ちたいものだ。外出した際には少し長めに歩くだけでもよい。電話での打ち合わせなどは安全な場所を歩きながら行なってみてもよい。
またヨガは瞑想も兼ねるのでストレス解消効果が高いといえるだろう。
5.新鮮な空気を吸う
大気汚染レベルの高い場所での仕事や生活では空気清浄機の導入を検討してみたい。まだ前出の話題のように屋内植物を配置してみてもよいだろう。
ジョギングは交通量の多い大通りなどを避けて、なるべく緑地などで行ないたい。場合によっては運動は部屋やジムなどの屋内に限定することも考えられるだろう。
都会暮らしにおいてこの5つを心がけたいものだが、忙しい生活の中ではすべての手筈を整えるのは難しいケースもあるだろう。そこで定期的にキャンプや温泉など自然に触れる旅を楽しむのもよい。忙しい都会暮らしで消耗してしまわないように気をつけたいものだ。
参考:「ScienceDirect」、「USC News」ほか
文=仲田しんじ
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