情報の洪水の中で素早く“高打率”の意思決定をするためには?

サイコロジー

 買い物にもさまざまなケースがあるが、高級ショッピングモールと庶民的な地元商店街とではどちらのほうがサイフの紐が緩むだろうか。

■高級店モールと地元商店街、サイフの紐が揺むのはどっち?

 ショッピングや飲食に際して、気前が良くなる時もあれば、サイフの紐が固くなる時もある。その理由は多岐に及んでいると考えられるが、かなりの影響をもたらす要素として挙げられるのが、その直前にインプットされた関連情報である。

 ニューヨーク大学の研究チームが先日発表した研究では、数々の料理メニューに妥当な価格をつけてもらう実験が行なわれている。

 実験ではまず、30種類の料理メニューの画像を実験参加者に見せ、それぞれの料理の妥当だと思われる値段をつけてもらった。個々人の好みによってばらつきはあるものの、一番高いメニューから一番低価格のメニューまで、おおよその傾向が浮き彫りになり、データを集計して順位がつけられた。

 次の実験では、参加者に最初に低価格メニューのワースト10を見せてから、次に同じく30種類の料理メニューに妥当な価格をつけてもらったのだ。すると最初に何も見せなかったときの値付けよりも高い価格をつける傾向が判明した。つまり最初に低価格メニューを見せられると、ほかの料理の価値が高まっているということになる。

“逆もまた真なり”で、今度は最初に高価格メニューのトップ10を見せてから30種類のメニューに価格をつけてもらったところ、いずれの価格も一番最初の実験よりも低くなることがわかった。最初に“高級メニュー”を見せられることで、ほかの料理が全体的に安いものに感じられてきているのである。つまり直前にインプットされた情報が、価値の評価に影響を及ぼしていることになる。

 したがって高級ショッピングモールや高級レストラン街などを見て回っていると“目が肥えて”サイフの紐が固くなってしまうのかもしれない。あるいは逆に庶民的な地元商店街などを歩いた後はなんだか気前が良くなって、ついついいろんなモノを買ったり食べたりしやすくなったりも!? ショッピングや外食においてこうしたバイアスがあることを頭の片隅に入れておいても良さそうだ。

■街中のほうが魅力的に見える

 直前に知った情報から影響を受けるばかりではない。我々は同時に周囲にあるものからも大きな影響を受けているのだ。

 ロンドン大学ロイヤルホロウェイの研究チームが2016年に発表した研究では、魅力的な人物は単独でいるよりも人混みの中にいたほうがより魅力的に見えることが指摘されている。

 美人コンテストなどに代表される“美の基準”には客観的なガイドラインがあると一般的には考えられている。しかしその基準は“文脈”次第でかなりぼやけたものになることが最近の研究で報告されている。

 研究によれば、人物の外見的魅力は決して定まったものではなく、かなり揺れ動いているものであることが主張されている。平均的な魅力の人物の顔も、あまり望まれない顔の人々の中にあっては単独で評価されるよりも魅力的になるということだ。

 実験参加者はさまざまな人物の顔写真を見せられてその魅力を評価したのだが、評価が高かった魅力的な人物の顔は、単独で見せた時よりも複数の顔が同時に写っている画像のほうが評価が高かったのである。つまり周囲によって魅力が引き立てられているのだ。

 人々は魅力的でない人物の顔が視界に入ることで“批判的”な気分になるという。そしてより魅力的な人物へと視線が誘われ、その魅力をより高く評価していると説明できるということだ。

 もちろん、これもまた“逆もまた真なり”であることが考えられ、この実験では考慮されてはいなかったが、例えば美男美女ばかりの場所に足を踏み入れた場合、平均的な魅力の人物の評価はさらに下がるのかもしれない。

 いずれにしてもこのように“美”もまたかなりの程度、相対的なものであることが再確認されることなった。そして我々がいかに他者を第一印象でイケているかイケてないか、可愛いか可愛くないかを即断しているのかが浮き彫りになったとも言える。こうした認知のメカニズムはある意味で自然に行なわれるもので仕方ない部分もあるが、人物の魅力について柔軟な解釈をする態度を持ちたいと思うがいかがだろうか。

■“高打率”の意思決定のための助言5

 直前に受け取った情報からも、周囲に同時にある情報からも大きな影響を被る我々の意思決定なのだが、どうすればこうしたバイアスからフリーになれるのか。

 神経科学の知見によれば、脳は複数の意思決定においてどれが重要であるのかについての優先順位をつけられないという。ということは、日々の多くの意思決定において、瑣末な事柄の決断に追われて重要な案件を考慮するじゅうぶんな時間が確保できない可能性もあることになる。情報の洪水の中でよりよい意思決定を行なうためにコンサルティング企業「Quantum Media」のCEOであるアリ・ゾルダン氏が5つの助言を解説している。

1.あえて“フィーリング”で選ぶ
 瑣末な事柄の意思決定において厳密に比較検証したり経済合理性を追求するのは多くの場合、時間の浪費に繋がる。たとえば何十種類とある品揃えのボールペンから1本を選ぶような場合、素早く“フィーリング”で選んでしまってもなんら問題はないだろう。

2.選択肢をどんどん狭めていく
 品揃えの多い店やオンラインショッピングなどでは、漠然と選ばずに選択肢をどんどん狭めていくことが求められる。価格帯やサイズやデザイン、色など迷わずにどんどん選択肢を狭くしていくことが効率的な意思決定に繋がる。

3.詳しい人から助言を求める
 自分がその分野の専門家であるならばともかく、不慣れなジャンルにまつわる判断においては信頼のおける友人に助言を求めたり、その道の専門家の意見を参考にするなどして、自分1人だけで判断する割合をなるべく減らすことが肝要だ。

4.タイムリミットを設ける
 意思決定において最大の“敵”のひとつがダラダラと堂々めぐりにアレコレと考え込んでしまうことだ。1つの判断に時間を取られればほかの案件にも影響を及ぼすことになる。したがってタイムリミットを設けて決断する癖をつけるようにしたい。制限時間を設けることで決断に至る過程により真剣になれる。

5.過去の“成功パターン”を念頭に置く
 重要な意思決定においては先例にとらわれない慎重な決断が求められるが、瑣末な案件においては過去にうまく行った判断の“成功パターン”に当てはめてみることで効率的な意思決定ができる。例えば“いい買い物”をした体験をいつでも思い出せるようにしたい。とはいえ必ずしも毎回“いい買い物”ができるわけではないが、その場合でも意義ある教訓が得られてその後の意思決定に有効に働くだろう。

 その後の人生を左右するような重大な意思決定にはじゅうぶんな時間をかけて取り組みたいものだが、一方であまり重要ではない判断についてはミスすることもあり得ることを織り込み、できる限りスムーズな素早い意思決定が求められているのだろう。ある意味で“パーフェクト”であろうとすることはいったん諦めて、情報の洪水の中で“高打率”の意思決定をしていきたいものだ。

参考:「PNAS」、「SAGE Journals」、「Inc.」ほか

文=仲田しんじ

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