前向きで健康的な生活が充実した人生や社会的成功に結びつくことは明らかだろう。満足のいく結果を目標に何事にもポジティブに取り組みたいものであるが、一方で最悪の結果を想定してみるのも悪いことではないという。ある種の悲観主義は当人の自信を高めているというから興味深い。
■悲観主義者は自分に自信を持っている!?
リーズナブルで手軽なフィットネスジムが街角に増えるなど、何かにつけて人々のポジティブ志向、健康志向が目立つ世の中になっている。書店に入っても相変わらず健康や自己啓発に関連した本の存在感が強い。
ポジティブな考え方を持ち健康的な生活を送ることに反対する人はおそらく皆無だろう。しかしこの世のポジティブ志向を少し考え直してみたくなる最新の研究が報告されている。ある種のペシミスト(悲観主義者)は仕事などで高いパフォーマンスを発揮し、悲観的ではありながら自分に自信を持っているというのだ。
そのクールな悲観主義者は「防御的ペシミスト(defensive pessimist)」と分類されるもので、その特徴は常に最悪の結果やシナリオを想定してことに当たる人物であることだ。防御的ペシミストは物事を悲観的にとらえることで集中力を高めて成功を呼び込むことができるというのである。
2008年に発表された研究では、実験参加者にパズルの課題に取り組んでもらったのだが、予想される最悪の成績をイメージした後のほうが解答において高いパフォーマンスを発揮していることが報告されている。
結果を楽観的に考えてポジティブに物事に対処することも有効ではあるが、楽観主義者の「最後はどうにかなる」という態度が裏目に出て、場合によっては現実を直視しないケースも起り得る。それとは逆に防御的ペシミストの場合、そもそもが最悪の結果を想定しているのでリアルな現実を無視せずに受け入れられ、そのぶん物事の細部を詳細に把握できるため、より客観的で分析的な戦術を講じることができるという。そして実際に高いパフォーマンスを発揮することができて、結果的に自分への信頼感と自信を勝ち得るのだ。
健康面でも長い目で見れば防御的ペシミストのほうが有利である。それもそのはずで、自分の健康に悲観的であるからこそ、うがいや手洗いも自然に増え、身体に異常を感じればすぐさま病院に行く傾向が防御的ペシミストにはあるということだ。
確認しておきたいのは防御的ペシミズムは決してネガティブシンキングや心配性ではなく、常に最悪の事態を想定することで高いパフォーマンスを発揮するための“戦略”であるということだ。“ポジィティブ志向”が全盛の世の中にあって、たまには悲観的になってみれば意外な“気づき”がもたらされるかもしれない。
■“ポジティブシンキング”のリスク
仕事でもプライベートにも前向きでありたいものだが、常にポジティブでいられるわけでもないだろう。いわゆる自己啓発本の中には、いつも自分を前向きの状態に保つ“ポジティブシンキング”を提唱しているものも少なくないが、こうした“ポジティブシンキング”は危険であると禅のマスターが批判している。
日本語の“和尚”の名で知られる宗教家であり禅のマスターでもあるオショウ氏(バグワン・シュリ・ラジニーシ氏)はかつて“ポジティブシンキング”の危険性を手厳しく批判して注目を集めた。
「ポジティブシンキングの哲学は、信頼できない存在になることを意味しています。それは不誠実なのです。この考えは見たものを否定することを意味していて、あなた自身はもちろん他人を欺くことなのです」(オショウ氏)
常にポジティブでいるということは、影響を受けてネガティブになりそうな物事や出来事を無視することであり、感情を偽ることに繋がっているとオショウ氏は指摘しているのだ。
「物事のネガティブでダークな部分を見ないようにしているからといって、それらが消えてなくなるわけではありません。それは自分を欺いているだけであって、この現実を変えることはできません。ネガティブさとポジティブさは同じくらい人生に存在し、両者はお互いにバランスをとっています」(オショウ氏)
オショウ氏によればポジティブさというのは、今直面している運命を受け入れて慈しみ、結果や目的に関わらず至福を味わっている瞬間であり、決して意図的に味わうものではないということだ。意図的なポジティブシンキングは現実を受け入れることを拒み、自分の感情を磨耗させてしまう危険な考えてあるという。そして明敏な精神状態は極端な感情に関わることはないのだと説明している。
いわゆる“自己啓発”の代名詞ともいえ、一時代を画した“ポジティブシンキング“だが意外なことに今、この思考法がメンタルに及ぼす影響に厳しい疑惑の目が向けられているようだ。
■週に7時間半以上の運動で心臓病のリスクが高まる
健康的かつポジティブなライフスタイルに欠かせないのが運動ということになるが、この“運動神話”にも少しばかり再考が求められる研究が報告されている。週に7時間半以上の運動で心臓病のリスクが高まるというから穏やかではない。
冠動脈石灰化(coronary artery calcification)は各種心臓疾患の前触れとなるサインだと言われているが、イリノイ大学の研究チームが先ごろ発表した研究では、長い期間に及ぶ強度の高い運動が白人男性の冠動脈石灰化リスクを高めていることを報告している。
研究チームは3175人の成人の健康状態を25年間追跡したCARDIA(The Coronary Artery Risk Development in Young Adults)のビッグデータを分析して運動習慣と冠動脈石灰化の関係を探った。対象の人々は運動習慣によって3グループに分けられ、Aグループは週に150分以下の運動習慣、Bグループは週に150分前後の運動習慣、そしてCグループは週に450分以上の運動習慣をそれぞれ持っている。
分析の結果、運動に熱心なCグループはAグループよりも中年期における冠動脈石灰化の発症リスクが25%高くなっていたことが判明した。そしてさらに厄介なことに、このCグループの白人男性に限定すると冠動脈石灰化の発症リスクが86%にも高まるという。一方で黒人男性や女性には運動習慣の影響はほとんどなかったということだ。現状では白人男性限定ではあるが、週に7時間半以上の熱心な運動は中年期以降の心疾患リスクを高めることになる。
したがって研究チームは激しい運動が習慣になっている人々は運動時間を週150分前後に減らすことを推奨している。もちろん運動そのものを止めるべきではないことは言うまでもない。アスリートならいざ知らず、運動に熱心になり過ぎることにも少し再考が求められているのかもしれない。
参考:「ScienceDirect」、「Osho News」、「NCBI」ほか
文=仲田しんじ
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