怠惰か熟慮か!? 仕事の天敵である“先延ばしグセ”の5つの理由

ライフハック

 仕事を次から次へテキパキと進めていくのはビジネスマン冥利に尽きることだろう。しかし残念ながらそんな日ばかりとは限らない。やむを得ない事情で中断を余儀なくされているのならば諦めもつくというものだが、どういうわけかその案件になかなか手をつけられずにダラダラと先に延ばしてしまうことはないだろうか。

 怠惰といわれてしまえばそれまでだが、決して仕事に熱意を欠いているわけでもないのに、ギリギリまで取り組まずに先に延ばしてしまう事態がどうして起るのか。そしてどうすればその先延ばしグセを止められるのか。これについて最近ではいろいろな研究が行なわれているようだ。

■仕事を先延ばしてしまう5つの理由

 期日がギリギリに迫ってこないと仕事に手を着けられない先延ばしグセは、ビジネスに多大な犠牲を生み出しているという。学業においても、課題にすぐに取り組まずに提出期限ギリギリになって慌てて行なう学生は、おしなべて成績が低いという統計もあるようだ。ではなぜ、我々は物事を先延ばしてしまうのか? その理由は5つあるという。

●作業環境
 常時ネットに接続された現代の職場環境では、ネットショッピングや動画閲覧などちょっとした欲望をネットですぐに満たすことができるため、ついつい物事を先へ延ばしてしまいがちになる。頻繁にメールやSNSをチェックすることも、仕事を中断させて遅らせる大きな要因だ。ネット利用を自制するしかないのだが、場合によってはネットに繋がない時間を設けることも検討に値するだろう。

●気が進まない仕事
 興味が惹かれず、退屈で気が進まない課題は、ついつい先延ばしになってしまうのは誰もが理解できるところだろう。これに対処するには、その課題を一気にやろうとするのではなく幾つかに分割してひとつずつ片付けることが考えられる。また“もしXが起きたらYをやる”と日頃からあらかじめ決めておく「if-thenプランニング」も効果的であるという。この場合、例えば「気が進まない仕事は火曜日と木曜日にやる」とあらかじめ決めておけば、ズルズルと引き延ばすことなく仕事に取りかかれるのだ。

●報酬や利益、不利益がかなり先の場合
 この課題をやったことによる報酬、やらなかったことによる不利益が、どちらもある程度先のことである場合、その課題が先延ばしになりがちになる。将来的に禁煙しようと考えている者が、毎回最後の1本だと心に決めてずっと吸い続けているのもこのケースだ。これを避けるには、課題を終えた後に“自分へのご褒美”をあげるなど、報酬がすぐに得られる仕組みを自分で設定してみてもよい。

●不安
 課題に何か不安を感じている場合もまた先延ばしになりやすい。失敗するのではないかという不安はもちろんだが、場合によってはやり遂げた後に期待が膨らむ予感もまたすぐに取りかかれない原因になるという。これもまた、自分で報酬を設定するなどの方策が有効だ。

●自分の能力に自信がない
 その課題が自分の能力では対処できないと感じた場合は、やはりなかなか手がつけられず先延ばしになりがちになる。もちろん本当に自身の手に負えないケースもあると思うが、たいていの場合は自己評価が低いことに端を発する。荷が重い仕事であってもなんとかやり遂げてうまく成功体験を積み重ねていけば事態は好転する。

 ついつい物事を先延ばしにしてしまうこれらの原因は、よく現状を理解することで解決できるものである。特に“自分で自分を褒める”ことも時には重要なことのようだ。

■前頭前皮質が物事を先延ばしにする?

 先に述べたように、ついつい仕事や物事を先延ばしにしてしまうのは、いくつかハッキリとした理由や原因があるのだが、より深くこの心のメカニズムを理解することで、何かとネガティブな先延ばしグセが、逆に生産性向上のためのツールにできるかもしれないというから驚きだ。いったいどういうことなのか。

『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』(上下巻、ダイヤモンド社)の著者、ナシーム・ニコラス・タレブ氏は先延ばしする心のメカニズムについて下記のように述べている。

「“非合理性”を研究してる心理学者にしろ経済学者にしろ、人間は周囲に危険を感じなくなった時にだけ、物事を先送りにするという、おそらくは本能に根ざした性向を持っていることを理解していない。例えばライオンの姿や隣家の火事を見たりした際や、ひどいケガをした後などに、私なら物事を先送りにしたりはしない」(『Antifragile: Things That Gain from Disorder』より引用)

 つまり物事を先送りにできるということは、当面差し迫った危険や危機を感じていないという“平和の象徴”でもあるということになる。そしてさらに突き詰めて考えれば、先延ばししてギリギリの“修羅場”を迎えることは、意図するとしないとに関わらず平和過ぎる状態にあえて波風を立てるという行為なのかもしれない。

 しかしなぜこんなに面倒な(!?)ことを人間はしでかしているのか? 自己啓発系情報サイトの「iDoneThis」の記事によれば、物事を先送りにするのは、脳の2カ所の部分がお互いに闘っている結果であるということだ。闘っている2カ所はそれぞれ大脳辺縁系と前頭前皮質である。

 視床下部や扁桃体、海馬などを含む大脳辺縁系は、感情や行動のコントロールをしているといわれている。空腹や喉の渇きを感じさせ、当人にすぐにその欲望を満たすように働きかけたりするといった、生存や危険回避など、現在直面している短絡的な要求の指示を出している部分だ。

 一方で前頭前皮質(PFC)は別名“考える脳”と呼ばれ、まさに人間を人間たらしめている部分だ。言語を操り、長期に及ぶ計画を立案することなどを得意とし、大脳辺縁系のようにその場限りの短絡的な利益を求めず、将来を見込んだ長期的な利益を探ってあれこれと考えているのだ。つまりその場で欲望を満たそうとする大脳辺縁系と、長期的な利益を思い描く前頭前皮質が脳内で相争うことで物事が先送りにされているのだ。そして結果として決定が引き延ばされているということは、前頭前皮質の活動が勝っていることの証でもある。

 アメリカの有名な起業家で投資家のポール・グレアム氏は自らのエッセイで、彼がこれまで出会った最も成功した人々の一部は、ひどく物事を先送りする人々であったことを記している。

「私が出会った最も印象的な人々はことごとく先延ばしグセのある人々でした。彼らは何かもっと重要なことを追求するがゆえに、物事を先延ばしにするのです」(ポール・グレアム氏)

 このように先延ばしグセは単なる怠惰というわけでもなく、“長期計画”に基づいた思慮深い行動であるという一面もありそうだ。物事をグズグズと引き延ばしていることは、悪いことばかりではなかったということになる。

■先延ばし案件を冷静に分析する

 グレアム氏などの言葉が本当であるとすれば、これらの成功者たちは先延ばしグセをうまく生かして物事をうまく進めているということになる。ではどうすれば、この先延ばしグセを仕事や生活で活用できるのだろうか。

 人間を人間たらしめている前頭前皮質が密かに(!?)行なっている先延ばし行動から我々は多くのものを学ぶことができ、考え方の流れを変えることができると記事では示唆している。もちろん単なる怠惰である疑惑も免れないのだが、先延ばし行動をうまく活用するには、まずは先延ばしにしている物事を正確に把握することが重要だという。つまりその先延ばしに見返りが生まれてくるのか、それとも単なる怠惰で終わってしまうのか見極めなければならないのだ。

 ではどうやって見極めればよいのか。その判定基準になるのか以下の5問の質問だ。これらの質問に良く考えて具体的に答えることで、先延ばし行動が“熟慮”なのかそれとも単なる怠惰なのがかわかってくるのだ。

1.先延ばしにすることで生じる長期的な利益は何なのか?

2.それらの利益がなくても課題に取り組めるか?

3.別種の課題を行なうことで、これらと同じ利益を達成できるのか?

4.代わりになる課題を達成することで同等の利益が得られるか?

5.その課題を他の人に委託して同じ利益が得られるか?

 先延ばしにしている案件が、取替えがきくものであると認めているのであれば、いっそのこと放棄して別の案件に取り組んでも良いということになる。一方で先延ばしはしているけれども、その案件が他には代え難いと感じているのならもちろん、ギリギリまで引き延ばしても遂行する価値があるものになる。

 そしてこのような文脈とはまったく違い、追い詰められないと実力を発揮できないため、ギリギリの状態に自分を追い込むという修羅場型(!?)の人々も一部では確実に存在しているだろう。ともあれ、何故か先送りしてしまいたくなる仕事をよく分析してみることで、いろいろな気づきがもたらされ、結果的に先延ばしグセが改められれば願ったり叶ったりだ。

参考:「Psychology Today」、「iDoneThis」、「Life Hacker」ほか

文=仲田しんじ

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