“常連客”の97%はある日何も言わずに突然離れていく

ライフハック

 企業はもちろん各種の事業主や商店主などにとって常に頭を悩ませるのが“顧客離れの”の問題だ。今後もずっと“お得意さん”だと思っていたお客でもある日を境に、ぱったりと利用がなくなってしまうことも少なくない。最近の研究では“顧客離れ”の前に特有の“予兆”があることが突き止められている。

■静かに去って行く顧客の“前兆”とは

 例えば商店や飲食店などで何らかの目に見えるトラブルが発生し、その日を境に常連客が離れることもあるだろう。しかしある調査によれば、97%の“常連客”はある日何も言わずにひっそりと利用をやめていなくなっているという。

 もちろんそこには何からの理由があるのだろうが、事業主にとってはあまりにも突然のことなので、まさに後の祭りということになってしまう。せめて離れていく直前に何らかのサインがあればそれに気づいて手の施しようもあるだろう。新たな研究ではこうした静かに去って行く顧客に、その前兆となる行動があることを指摘している。

 米コロンビア・ビジネス・スクールと英ロンドン・ビジネス・スクールの合同研究チームが2018年1月に「Marketing Science」で発表した研究では、チャーン(churn)と呼ばれる短期間に次々と同種のサービスを乗り換える「移り気な」顧客の行動を分析している。

 チャーンには2パターンあり、“退会届”を提出する明確なチャーンと、何らの理由で突然に接触を断って“自然消滅”する静かなチャーンに分類できる。研究チームはこの2つのチャーンのオンラインでの行動を詳細に分析することで、利用停止の直前の行動に何か変化があるのかを探っている。

 分析の結果、明確なチャーンは“退会届”を出す前に、当該のサイトへのアクセスが増えていることが突き止められた。

「明白なチャーンの人々には、そのサービスの離脱に先立って、アクセスが増える傾向があることを見出しました。これは彼らが受け取った電子メールを開き、同社からの通信を読むことを意味しますが、実はこの時点で“顧客”ではなくなっています。満足しているのに退会することはありませんから」(研究チーム)

 それまでは定期的な利用をしていた“常連客”が、ある日急にアクセスを増やした場合、それは近日中の退会のサインである可能性があるということになる。そしてこの後に退会する決意が固まってしまえば、それを食い止めることはまずできないということだ。

 しかしサインに気づいて決意が固まってしまうまでにいち早く対策を講じることができれば、顧客を繋ぎ止められる可能性もあるという。手をこまねいている場合ではないのだ。

 どうして“退会”する直前にアクセスが増えるのか? それはおそらくサービスの詳細や条件を今一度よく確認しているからだろう。飲食店においてもこれまで週1程度の利用客がやや頻繁に来るようになった場合、それは単純に店が気に入っているのではなくさまざまな細部を確かめに来ているかもしれず、その後パタリと来なくなることもじゅうぶんあり得るのかもしれない。

■“お得意様”維持の4つのポイント

 一般的な小売業であれ、サブスクリプション型ビジネスであれ、顧客離れは何としてでも回避したいものだ。ある研究によれば、新規の顧客を獲得するためのコストは、現状の顧客を維持するコストの7~8倍かかるという。ビジネス継続の鍵となる顧客数の維持ついて、4つのポイントをビジネス系ライターのメーガン・トツカ氏が解説している。

1.顧客をより詳細に知ること
 人間は他者によりよく理解されたいという本能的な欲望を持っている。そこで提供側が顧客に伝えるべきは「我々はあなたのことをよく知っています」というメッセージである。そして実際に顧客のことをより詳細に理解すべく努力しなければならない。同程度の商品・サービスを選ぶ場合、お客は自分のことをより知っている業者を選ぶのはある意味で当然である。

2.顧客にしゃべらせること
 顧客が嫌うのは無視されることと、レールに乗せられて購入を急かされることだ。逆に顧客が好むのは自分の話を聞いてもらえているという感触である。したがって提供側は顧客にむしろ口を開かせて話を聞くことで顧客満足度を高めることができる。

 そこで定期的に顧客に対して商品やサービスについてアンケート調査を行なったり、意見を募ったりすることで顧客の口を開かせて結びつきを強化し関係を深めていきたい。

3.サプライズの演出
 丁寧なマナーで期待に応じることがビジネスの基本であり、顧客もそれを見込んでいるのだが、ややもすれば消費活動がマンネリになって有り難味が薄れてくる。そこで時には“サプライズ”を演出することで、顧客に新鮮な驚きを与え記憶に深く刻んでもらうことでロイヤリティーが持続する。バースデイプレゼントや各種の抽選や懸賞などを積極的に企画してみてもよいだろう。

4.カスタマーサービスの充実
 直接の収益にはならないカスタマー業務だが、今日のビジネスにおいては最も重要なもののひとつである。フェイスブックとツイッターの活用と更新はもちろん、頻繁に尋ねられる問い合わせであるFAQ(Frequently Asked Questions)を詳細に作りあげてサイトに掲載したり、定期的な動画投稿やライブ動画なども顧客の獲得と維持に結びつくだろう。

 バーゲンセールを利用するその場限りの購入者はリピーターにならない限りはビジネスの拡大には結びつかないという。セールで販売数は増えるものの、集客に費やしたコスト以上の収益が見込めずに赤字になるケースが多いということだ。したがって“お得意様”を大事にすることはビジネスの継続において優先すべき課題であるようだ。

■クレーマーを“お得意様”に変えるには

 商品やサービスで購入者を失望させることは最大の顧客喪失の原因だろう。ガッカリして静かに去っていくお客もいる一方、“お叱り”の電話やメールをしてくる顧客もいる。しかしこうして意思表示をしてくるお客は、将来の“お得意様”に変わる可能性があるともいわれている。カスタマーサービス支援会社「HelpOnClick」のサイトでは、失望した顧客を“お得意様”に変える段階的な5つの取り組みを解説している。

1.注意深く話を聞く
 同社の商品やサービスのどこに失望し、どんな懸念を持っているのか注意深く話を聞く。いわゆる“モンスタークレーマー”といった一筋縄ではいかないケースもあるだろうが、悪意からではなく率直に何が残念であったのかを伝えてくるお客はむしろ貴重な存在である。

 言っているクレームが理解してもらえていると感じた時点で、彼らの怒りの大半は収まることになり、新たな関係を築くきっかけとなる。そのためにも、話を微に入り細に入りよく聞くことが肝要だ。

2.顧客の側に立つこと
 カスタマーサービス担当者は会社の代表ではあるが、そのマインドセットは“顧客ファースト”にあらねばならない。顧客第一という態度が伝わることで、クレーマーの怒りも鎮まり、解決に向けた建設的な話し合いをはじめることができる。

3.先に謝ること
 こうしてクレームを伝えなければならなくなった事実に対してすぐに謝意を述べる。お客のほうにも非があるケースであっても、先に謝罪することで話がより本論に入りやすくなる。

4.迅速な取り組み
 クレームの具体的な内容を理解し、適切な謝罪がなされてからは、問題を解決するための適切な措置をできる限り早く取ることが重要である。問題を解決するための手順を説明し、その輪の中に顧客を“参加”させる。

5. 先を見越す
 顧客が製品やサービスに関して懸念され得る問題が明らかになった場合、クレームが入る前に先手を打って対処したいものだ。商品やサービスの購入者にいち早くメールなどで使用した感想を尋ねたり、問題の対処法を伝えるなど、常に先を見越した措置を心がけたい。各種SNSなどで常に顧客とのコミュニケーションのパイプを開いておくことも重要である。

 苦情を訴える顧客を適切に対処することで、クレーマーを“お得意様”へと変えられる可能性が生まれてくる。クオリティの高いカスタマーサービスがますます重要視されてくる話題だろう。

参考:「INFORMS」、「Forbes」、「HelpOnClick」ほか

文=仲田しんじ

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