就寝中に起るホラーな“心霊現象”の原因は?

サイエンス

 一生忘れられない強烈な内容の夢もあれば、その日のうちに忘れてしまう印象の薄い夢もある。その違いはどこにあるのだろうか。

■印象強く記憶に残る夢を見る条件

 睡眠中には多かれ少なかれ何らかの夢を見ているといわれているが、しっかりと鮮明に記憶に残っている夢もあれば、すぐに忘れてしまう夢も多い。また、まったく夢を見なかったと感じられる日もあるだろう。神経科学者のマシュー・ウォーカー氏がこの疑問に答えている。

 睡眠にはいわゆるレム睡眠とノンレム睡眠があるが、記憶に残る夢はレム睡眠時に見ているといわれている。レム睡眠時は眼球がきわめて早く動いており、脳が活発に活動している。そして脳が活発に動いているからこそ、見ている夢は鮮明で幻想的で物語的で、より実際の記憶に基づいたものになるため、印象強く記憶に残るのである。

 眼球と脳が活発に動いているレム睡眠だが、身体のほうはその脳の活動を妨げないために深くリラックスした状態にあり疲労の回復が行なわれている。赤ちゃんの眠りは5割がレム睡眠だといわれている一方、成人のレム睡眠は睡眠時間の5分の1程度である。

 レム睡眠時の脳活動をfMRIでモニターしてみると、扁桃体(Amygdala)と海馬(hippocampus)の活動が特に活発であることが確認されている。扁桃体は情動反応の処理と記憶において主要な役割を持っており、海馬は脳の記憶や空間学習能力に関わっているとされ、この2つは脳の記憶と感情の中枢であるといえる。ウォーカー氏によれば、レム睡眠が長くなればなるほど、その時に見ていた夢は記憶に残るということだ。

 夢を憶えているかどうかのもう1つの要因は、寝覚めるタイミングである。レム睡眠時に夢を見ている時に目覚まし時計などで起された場合、今まで見ていた夢の内容をよく思い出せるものになる。逆に目覚ましなどはセットせずに完全に自然に任せた眠りから目覚めた場合は、夢をまったく見ていなかったと自覚されることが多いという。よい夢のためにも質の高い睡眠を心がけたいものだ。

■ベッドでの“心霊現象”の原因は?

 睡眠中の我々をある意味でクリエイティブにしてくれるレム睡眠だが、なんと“心霊現象”の一因にもなっているというから興味深い。

 いわゆる“かなしばり”や“幽体離脱”など、睡眠中に起る異変に悩まされている人々がいる。その中には部屋の中に何らかの存在を感じたり、何かが宙を舞っていたり、あるいは何かが胸の上に乗ってきたりする“心霊現象”を訴える声もある。さらに死んだ父親がすぐそばに立っていたり、場合によっては少しの間に宇宙人に誘拐されたと主張する人々もいる。

 なにかと興味深いこれらの“心霊現象”だが、サイエンスの側からの説明では、それらの現象の多くは睡眠麻痺(sleep paralysis)に起因するものとされている。睡眠麻痺はちょうどこのレム睡眠時に何らかの拍子に意識が目覚めてしまうことで起きる。レム睡眠時は身体中の筋肉は完全に弛緩した状態であるため、この時に目が覚めて意識が戻ってもすぐには身体を動かせないのだ。

 英・ケンブリッジ大学と米・カリフォルニア大学サンディエゴ校の合同研究チームが2017年2月に発表した研究にうよれば、睡眠麻痺に起因する“幽体離脱”体験では、ミラーニューロンの“誤作動”が生じているということだ。

 ミラーニューロンは別名“モノマネ細胞”とも呼ばれる脳神経細胞で、他者の行動を見て自分のことのように感じる働きがある。睡眠麻痺によってこのミラーニューロンが“誤作動”し、まるで自分の肉体から離れて浮遊している感覚が引き起こされるという。

 どうすれば厄介なこの睡眠麻痺を防げるのか。そのためには一にも二にも睡眠衛生(sleep hygiene)を整えることが肝要であるという。睡眠衛生とは、質の良い睡眠を得るためのコンディションと環境を整えるテクニックである。

 快適な寝具や遮音や遮光といった環境面の整備に加えて、自分に合った“入眠儀式”を見出すことも重要であるということだ。いきなり寝床に入るのではなく、寝る直前にカモミールティーを飲んでリラックスしたり、短時間の読書や瞑想、ヨガをしたりと自分なりの効果的な“入眠儀式”が持てれば睡眠の質の向上に大いに貢献するだろう。

■睡眠と夢に影響を与える6つのメニュー

 眠る直前まで物を食べることは避けたいものだが、空腹状態での就寝もまた睡眠のクオリティを下げるという。低血糖の状態で就寝すると、ぐっすり眠れないなどの睡眠障害が起りやすくなることが過去の研究で確かめられている。

 質の高い睡眠のためにはどんな物を食べ、何を避けるべきなのか。ライターのリリー・フェイン氏が睡眠と夢に影響を与える6つの食べ物を解説している。

1.ピーナッツバターとジャムのサンドイッチ
 ピーナッツバターとジャムのサンドイッチは主にアメリカやカナダなどでは子どもたちの定番のおやつである。就寝前にもし空腹であるのならば、このサンドイッチを少量食べることでぐっすり眠れるようになる。

 気分を安静にする神経伝達物質・セロトニンは良い睡眠のために欠かせない存在なのだが、ジャムの糖分、ピーナッツバターのタンパク質、パンの炭水化物の組み合わせがセロトニン分泌にきわめて有効に働くのだ。

2.ターキー(北京ダック)
 皮付きのローストダックなどはアミノ酸の一種であるトリプトファンが豊富に含まれていて良質な睡眠へと誘ってくれる。

 トリプトファンはセロトニンをつくる素になり、加えてタンパク質が豊富な食べ物は眠気を誘発する。しかしもちろん食べ過ぎれば消化器官に負担をかけてしまうので、就寝時間が近いほど少量にとどめるべきである。

3.チーズをはじめとする乳製品
 もちろんチーズなどの乳製品は栄養面で優れた食品だが、残念ながら寝る前には控えるべき食べ物であるということだ。

 決して身体に悪い食べ物ではないのだが、2015年の研究で、実験参加者の多くがチーズを含む乳製品を寝る前に摂取すると、眠りが乱れがちになり“悪夢”を見やすくなることが報告されている。特に牛乳でお腹がゆるくなる人は注意が必要のようである。

4.ステーキ
 ステーキは新陳代謝を高め、体温が上昇するので寝る前に食べるには適していない。体温が上昇した状態で就寝すれば睡眠が乱れやすいからである。

5.チョコレート
 チョコレートを寝る前に食べて良いのがどうかについては実は係争中の案件だ。これはチョコレートにはカフェインをはじめさまざまな化学物質が含まれていることによる。あるものは睡眠に良く、あるものはそうでもないという“玉虫色”の解釈になるのである。したがって確実に眠りたい場合は避けるべきなのかもしれない。

6.辛いモノ
 辛い食べ物は新陳代謝を活発にすると共に消化不良の原因になる。消化不良の状態で就寝すると“悪夢”を見やすいことが過去の研究でも示唆されている。

 もちろん激辛メニューを堪能した後にすぐに就寝しようと考える人はあまりいないだろうが、手軽に食べられる激辛スナック菓子などをくれぐれも寝る前に口にしないようにしたい。食べ物にも留意して質の高い睡眠を享受したいものだ。

参考:「Business Insider」、「NCBI」、「Bustle」ほか

文=仲田しんじ

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