数年前からの“ダイオウイカ”の人気はひと段落したようだが、まだまだイカの話題は尽きないようだ。
■美しい“ガラスイカ”の動画が話題に
イカ好きならば身が透き通った新鮮なイカの刺身には思わず胸を躍らせてしまうだろうが、まさに透き通るボディの小さな“ガラスイカ”の動画が話題だ。“ガラスイカ(Glass squid)”とはサメハダホウズキイカ科 (Cranchiidae) の約60種の俗称で、そのほとんどの種でボディが透明であることに由来した名だ。
透き通るボディの小さな“ガラスイカ”
なによりも透明なボディが美しいのだが、透明であることでまさに丸見えになっている色鮮やかな内臓にも目を奪われる。このオレンジ色の内臓は消化器官であると共に浮力の調節も行なっている。
海洋の専門家でもなかなか目にする機会がないという、まさにガラス細工のようなガラスイカは、函館や福岡の新鮮で透明なイカ刺しの料理写真とはまた違った美しいビジュアルだ。見て食べて楽しめるイカブーム(!?)はまだまだ続きそうだ。
■イカの研究で生まれた「自己修復プラスチック」
刺身で食べても料理しても美味しいイカだが、スルメや酢イカなどの加工食品としても楽しめるのはご存知の通り。もともとは駄菓子の“よっちゃんイカ”だが、大人になってからはお酒のツマミにしているファンも少なくないだろう。
思わず“乾き物”で一杯やりたくなってくる話題になってしまったが、昨年にはイカからヒントを受けたまさにスルメのような強固なプラスチックが開発されている。このプラスチックは硬いばかりでなく、割れたり傷ついたりしても時間が経てば生物のように“自己修復”して傷が治るというから驚きだ。
ペンシルベニア州立大学の研究チームが昨年9月に学術誌「Scientific Reports」で発表した研究では、イカの足(触手)の吸盤にある「環歯」の構造を分析して、自己修復する強力なプラスティックを開発したことがアナウンスされている。イカは身体の自己修復能力が高く、特に吸盤にある環歯は傷ついても速やかに復元するといわれている。研究チームはイカのDNAを分析して、環歯を復元する働きを担う遺伝子コードを解明した。この発見をもとに、自己修復機能を持ったタンパク質を作ることに成功し、それを溶媒剤で固め、自ら傷を治す能力を持ったプラスチックを開発したのだ。イカから着想を得たからというわけではないだろうが、その見た目はまさにスルメである。
イカから着想を得た「自己修復プラスチック」
研究論文と共に公開された動画では、切断されたプラスチックが少量の水で再び結合し、以前と同じ強度に回復する驚きのシーンが収められている。実用化にはもう少し研究が必要とされているが、例えば海底ケーブルの保護コーティングの素材にしたり、医学や医療機器の分野での活用が期待されているということだ。食べて美味しいだけでなく、イカは新素材の開発にも役立っているのだ。
■衛星の海中を探査する“イカ型ロボット”
各分野からひっぱりダコ(!)のイカの人気ぶりだが、なんと近い未来には宇宙に進出するかも知れない!? 将来の宇宙探査を目指し、なんともユニークなイカ型ロボットの開発が模索されているのだ。
NASA(アメリカ航空宇宙局)は毎年、未来を切り開く斬新なアイディアを広く一般から募って選考するアイディアコンペ、NIAC(NASA Innovative Advanced Concept)を催しているが、米・コーネル大学の研究者チームが提案したのは木星の第2衛星である「エウロパ」を探査するための“イカ型ロボット”だ。
エウロパの海を泳ぐ“イカ型ロボット”
木星の第2衛星であるエウロパの表面は氷で覆われているのだが、厚さ3m以上はあるその氷の層の下には深さ数十kmから百数十kmにわたる海があると考えられている。つまり星全体が地球の北極のような衛星なのだ。そして海の中には生命が存在する可能性も示唆されていることから、キュリオシティなどのような地上探査機だけでなく水中探査機の開発も必要とされてきているのだ。そこで登場したアイディアがこの“イカ型ロボット”である。
コーネル大学の研究者チームは、イカやウナギのようにフレキシブルな動きで水中をきわめて省エネルギーで泳ぎまわる探査機を開発すべくこの“イカ型ロボット”のアイディアを練り上げた。
イカは未来の宇宙に向けて羽ならぬ“イカ耳”を羽ばたかせることにもなった。これからもイカたちのイカした(!?)活躍が続きそうだ。
参考:「Scientific Reports」、「Gizmodo」ほか
文=仲田しんじ
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