孤独を感じやすい遺伝子がある!?

サイエンス

 孤独は心身にさまざまなネガティブな影響を及ぼすといわれているが、最近の研究で孤独と肥満との間の遺伝子レベルの深い結びつきが報告されている。

■孤独を感じやすい遺伝子がある!?

 2018年からイギリスの政府当局には「孤独担当大臣」のポストが設けられ、国をあげて孤独の問題に取り組むイギリスだが、もちろん日本やアメリカを含めて先進各国でも社会的孤立が大きな社会問題になっている。

 最近の研究では孤独は遺伝子レベルの現象でもあることが報告されている。孤独感を強く感じるかどうかは、遺伝的な条件も左右していることになる。

 英・ケンブリッジ大学の研究チームは、UKバイオバンクに保管されている45万2302人のゲノム情報を解析して、孤独に関わる15の遺伝子領域を特定した。孤独は遺伝的な現象でもあったのである。

 研究チームはまた孤独と肥満が遺伝子的に深い結びつきがあることも発見した。孤独が原因で肥満になることもあれば、肥満が孤独を引き起こすこともあるのだ。これは孤独と肥満の改善策を講じるうえで重要な知見になる。

 孤独は周囲の環境と当人の人生経験に基づいていると考えられることが多いが、今回の研究は遺伝子もまた孤独に一役買っていることを示していると研究チームは説明する。

 研究チームの見積もりでは、孤独を感じる傾向の4~5%は遺伝によるものであると考えられるという。しかしながら研究チームは「“孤独遺伝子”が存在する」という言い方はしたくないということだ。あくまでも遺伝的要因だけで孤独を説明することはできず、環境や経験と組み合わさった複合的な現象であるという。

 食事以外にスナック菓子などをついつい食べてしまう言い訳に「口が寂しくて」という言い方をすることもあるが、遺伝子的にも寂しさと摂食行為に深い関係があることもまた明らかになっている。口寂しさにつられて食べ過ぎることがないようにしたいものだ。

■長期間の孤独状態で脳が変化する

 孤独に関係しているのは遺伝子ばかりではない。社会的孤立は脳を変化させてしまうことが最新の研究で指摘されている。

 カリフォルニア工科大学の研究チームが2018年5月に学術ジャーナル「Cell」で発表した研究では、マウスを用いた実験で、長期的な社会的孤立(孤独)が、脳内で特定の化学物質の分泌を促進することを報告している。この化学物質が多く分泌されることによって、攻撃的になる一方で不安に怯えやすくなるという。つまり常にビクビクして周囲に気を配り、その反動でちょっとしたことでも他者に対して攻撃的になるのである。

 また2週間孤独な環境に置いたマウスは、24時間孤立させたマウスに比べて、驚かせた際に動きが止まる時間が顕著に長いことも確認された。つまり長く孤独を余儀なくされていたマウスはビックリして“固まる”時間が長くなるのだ。

 長期間の孤独によるストレスで脳内の扁桃体と視床下部で分泌が促進される化学物質はタキキニン/ニューロキニンB(Tac2/NkB)と呼ばれる神経ペプチドである。

 研究チームは2週間孤独のマウスにニューロキニンBの受容を阻害する薬を処方したところ、攻撃性や不安感といったネガティブな症状が取り除かれ、また逆にノーマルのマウスにニューロキニンBを投与したところ、長期間孤独のマウスと同じように攻撃性と不安感の症状を見せたということだ。

 また2週間孤独のマウスの扁桃体にタキキニンを阻害する薬を処方したところ、不安感は取り除かれたものの高い攻撃性はそのままであった。一方で視床下部にタキキニンを阻害する薬を処方した場合は、高い攻撃性は除去されたものの、不安感には変わりはなかったという。

 研究チームはこれまで精神的な疾患の治療についてはセロトニンやドーパミンといった脳内神経伝達物質が注目されてきたが、これらは別名“脳内麻薬”とも呼ばれ、その副作用は予断を許さない。したがって研究チームは脳内におけるタキキニン/ニューロキニンBの働きを詳しく知ることで、副作用の少ない効果的なストレスの解決策を開発できるということだ。もちろんマウスを使った実験がそのまま人間にすべて適用できるとは限らないが、孤独に起因するストレスの改善に新たな光明が差してきたことは確かだろう。

参考:「Nature Communications」、「Cell」ほか

文=仲田しんじ

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