少子化対策の鍵を握るのは高速インターネット回線!? 高速ネット回線を導入すると高学歴女性の妊娠率が高まるという興味深い研究が報告されている。
■女性活躍社会の鍵は高速インターネット回線か
多様な働き方を可能にするという「働き方改革法」がこの4月から順次施行されている。法案導入の意図の中には女性の活躍も含まれているが、そこで鍵となるのが高速インターネット回線であるという。
イタリア・ミラノのボッコーニ大学の研究チームが2019年3月に「Population Studies」で発表した研究では、インターネット回線と妊娠率の関係を国家レベルのデータを参照して分析している。
研究チームはドイツの1万2000の家族と、2万人の人々の公式データを分析し、25歳から45歳までの働く高学歴女性において、自宅に高速インターネット回線を導入する前と後では、妊娠率が7.2%から8.7%に上昇していたことを報告している。
そして研究チームによればこの影響は第二子を出産する可能性も高めているということだ。高速インターネット回線が少子化対策にも貢献していることになる。
高学歴の女性は職場でネット回線を活用している可能性が高い。そして自宅にも高速インターネット回線を導入することで平均して仕事の3割を在宅で行なうことが可能になるという。こうして結果的に家で過ごす時間が長くなりプライベートな活動を行なう機会も増えてくることから、妊娠の確率が高まるということだ。
しかしながら現場スタッフや作業系の仕事に就いていて、仕事では直接インターネットを使っていない女性にはこの効果は適応されず、ネット回線を導入してもしなくてもこのクラスタの妊娠率は6.3%で変化はなかった。
ネットの普及によって柔軟な働き方ができるようになれば、それまではパートタイム勤務であった女性がフルタイムの正社員として働ける道も拓けてくるだろう。高速ネット回線の普及は女性のライフワークバランスに多大な影響を及ぼしていることを改めて確認させてくれる話題といえるだろう。
■産休はできるだけ長いほうかよい?
働く女性が妊娠すれば当然いったんは仕事を中断することになるだろう。正社員で働いている女性の多くは産前産後休業、いわゆる産休を取ることになるが、出産のためにどれくらいの期間休むのがいいのだろうか。これについて我が子の知育の発達のためには、できる限り長い産休を取ったほうがよいことがサイエンスの側から指摘されている。
米・ペース大学とフォーダム大学の合同研究チームが2018年1月に「International Journal of Child Care and Education Policy」で発表した研究では、育児休暇の長さと「母子相互作用(mother-child interactions)」の関係を探っている。
子育てにより母と子が自然にふれ合い母子の絆を深めていくことを母子相互作用と呼び、この時期の愛着(アタッチメント)の形成が、後の人的交流スタイルに影響を及ぼすと考えられている。
研究チームはアメリカ国内の3850組の母子の出生時から幼稚園入園までの期間を追跡調査したデータを分析した。さらに生後9ヵ月の時点で「NCATS (Nursing Child Assessment Teaching Scale)」による観察評価を行い、2歳の時点では「Nursing Child Assessment Teaching Scale」による観察を行った。
収集したデータを分析したところ、産休の長さが母子相互作用に間接的に影響を及ぼしていると研究チームは結論づけた。
母親が出産後により多くの時間を子どもと過ごすことができれば、母親は我が子をよりよく知るようになり、子どものニーズを理解し、そしてより安全な愛着を形成することができるということだ。そしてこの影響は労働者階級の母子においてさらに強くなった。
アメリカでは労働者は1年の間に12週間まで連続して休むことができる権利であるFMLA(Family and Medical Leave Act)が法律によって守られているが、研究チームは今回の研究結果は産休に際してはさらにFMLAを延長することなどを検討する機会を与えるものになったと主張している。生まれたばかりの乳児にとって母親とのふれあいはきわめて重要な意味を持っているということだろう。
■父親の育児休暇も家族全体にとって重要
できる限り長い産休が必要だと言うのは簡単だが、多くにとっては経済面での懸念が拭い去れないかもしれない。そこで検討されてくるのが有給の産休ということになるだろう。
産休に有給休暇を活用する具体的な措置については、それぞれの個別的な条件によって異なってくるのだろうが、実はアメリカはOECD加盟国の中で唯一、国レベルでの何らかの“有給”の産休制度がない“産休後進国”である。
2012年の米合衆国労働省のレポートでは、産休(正確には無給休暇であるFMLA)において経済的な公的援助を受けた人の割合は全体の15%に留まっている。産休を取った者の60%が経済的に苦しくなったと申告し、約半数はお金が続くならもっと長く産休を取りたかったと回答している。つまり経済面で苦しくなり、3ヵ月未満で仕事に復帰するワーキングマザーがかなりいるということになる。
2007年にグーグルは有給の産休の期間を12週間から18週間に伸ばしたのだが、制度導入後には産休後の女性社員の離職数が50%減少したことが報告されている。出産後の女性社員は産休後にさまざまな理由で結果的に離職する割合がそれなりにあったのだが、産休を長くしたことで有能な女性社員の離職に歯止めがかかったのである。これはもちろん企業にとっても良いことだ。
またいくつもの研究で、有給の産休によって新生児の健康にポジティブな影響が及び、知能の発達にも好影響を及ぼしていることが報告されている。
母親の産休はもちろんのこと、父親の有給の育児休暇もまた乳幼児の成長にきわめて好影響を与えることもまた各種の研究で報告されている。
そしてコロンビア大学の2007年の研究では、妻の出産後に2週間以上の育児休暇を取った父親は、その後もより育児に積極的になることが報告されていて、もちろん父子の絆もより深まることになる。
さらに2010年のスウェーデンの研究では、8歳までの子どもの面倒をみるための父親の育児休暇中に、妻の収入が7%増加していることが報告されている。ちなみにスウェーデンでは政府の手当を受けるためには、子どもが8歳になる前に父親が少なくとも2ヵ月の育児休暇を取らなければならない。この期間がワーキングマザーのキャリアの上で大きな意味を持ってくるということかもしれない。
日本ではまだまだハードルが高い父親の育児休暇もまた家族の生活の満足度(well-being)にきわめて重要であることが示される話題になったと言えるだろう。
参考:「Taylor Francis Online」、「Springer」、「Business Insider」ほか
文=仲田しんじ
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