たいていの男性の目に魅力的に映るであろう“お色気”ムンムンの女性は、やはりホルモンのレベルが高いということなのだろうか。最近の研究で女性の外見的魅力と女性ホルモンの関係が探られている。
■女性ホルモンは美しさに影響しない?
男性の目には女性ホルモンのレベルが高い女性が魅力的に映っていると考えるのは至極まともなことだろう。パートナー選びという観点からも女性ホルモンのレベルが高い若い女性は生物学的にも子孫を残せる可能性が高く、利己的な遺伝子にとって生存戦略上有利な選択となる。
しかし本当にそうなのか? 英・グラスゴー大学をはじめ、アメリカ、中国、オランダ、スイスの合同研究チームが2018年7月に発表した研究はこの問題に挑むものになっていて興味深い。
実験では平均年齢21歳の249人の女性のそれぞれの写真を撮影し、ウエストからピップの曲線を示すウエスト・ヒップ比(waist-hip ratio)を計測し、加えて唾液サンプルを回収した。
唾液サンプルからは代表的な女性ホルモンであるエストラジオール(estradiol)とプロゲステロン(progesterone)のレベルが測定された。そして別の参加者のグループに写真の人物の魅力を評価してもらった。
それぞれのデータを分析した結果、研究チームは高い値のエストラジオールとゲステロンのレベルは特に外見的魅力に結びついてはいないことを突き止めた。またエストラジオールの値はウエスト・ヒップ比にも無関係であることが判明したのだ。
女性の外見的魅力は女性ホルモンのせいではなかったことになる。ひとつだけ弱い関係が認められたのは急カーブを描いた魅力的なウエスト・ヒップ比の女性はプロゲステロンのレベルが高いということだ。
女性ホルモンはボディラインに若干影響を及ぼすかもしれないが、顔を中心とした外見的な魅力には関係ないという結論が出されたのだ。しかし今日の女性はご存知のようにメイクもファッションもバラエティ豊富であり、その点からもどんな女性に魅力を感じるのかについてはますます細分化されている側面もありそうだ。
■女性ホルモンは男性の好みを変えない?
では女性の視点からはどうなのだろうか? つまり女性ホルモンのレベルが高い女性はより男らしい顔つきの男性を好ましく見ているのだろうか。
生理が終わる排卵日の直前は妊娠の確率が高まるといわれているが、女性ホルモンの分泌も盛んであるという。したがって生物学的にもこの時期に男性ホルモンのレベルが高い男性と交渉を持つことは確かに子孫を残す確率を高めるものにはなる。しかしそうだからといって男性の好みの変化をもたらすほど女性ホルモンの影響は大きいのだろうか。前出の研究チームはこの問題にも取り組んでいる。
研究チームは584人の異性愛者の女性に一連の男性の顔写真を2枚1組で提示し、ロマンティックなパートナーを選ぶ観点から好みのほうの男性の写真を選んでもらう実験を行なった。そして女性たちの唾液がサンプリングさてそれぞれのホルモンのレベルが計測された。
男性の顔写真はいずれも少し画像加工されており、やや女性的な顔立ちにしたものと、男性性をやや強調した写真があらかじめ用意されていた。
回答データと唾液サンプルを分析したところ、女性のホルモンレベルは男性の好みに影響を与えてはおらず無関係であることが判明したのだ。ホルモンレベルの高い女性が特に男らしい男性を好んでいるわけではなく、ホルモンのレベルに関係なく参加した女性は総じて男らしい顔つきの男性が好んでいたのだ。
一般的に男らしい男性が女性に好まれてはいるものの、排卵日が近づいたからといって普段よりももっと男らしい男性が好きになるわけではないということになる。
また同じく女性ホルモンが含まれた経口避妊薬(ピル)を飲んだからといって、男らしい男性にいつもより魅かれるわけでもないことになる。数々の新しい研究でこうした女性の性に対する“誤解”が払拭されているようだ。
■出産で父親のホルモンレベルにも変化
出産は女性の身体にさまざまな変化をもたらすが、新たな研究では出産は父親にとってもホルモンレベルの著しい変化を招くことが報告されている。
米・ノートルダム大学の研究チームが2018年9月に「Hormones and Behavior」で発表した研究では、米インディアナ州のサウスベンドにある病院「Memorial Hospital」で出産を待つ298人の父親のホルモンレベルを計測する調査を行なっている。ちなみにこの病院はユニセフ(UNICEF)から“赤ちゃんフレンドリー”な病院に指定されている。
研究チームは妻の出産を待つ夫の出産時の前後1時間のコルチゾールとテストステロンのレベルを計測し、翌日の同じ時間にもこれらのホルモンを計測した。コルチゾールは別名“ストレスホルモン”と言われストレスを受けると分泌が促進されるホルモンで、テストステロンは代表的な男性ホルモンである。
この調査に協力した父親はその後、出産当日から2カ月~4カ月の時点で赤ちゃんの養育(チャイルドケア)にまつわるアンケート調査に回答した。つまり育児をどれほど行なっているのか、その実態を自己申告したのである。
収集されたデータを分析した結果、妻の出産の直後に父親のコルチゾールのレベルが急激に高まっていることが浮き彫りになった。父親にとって妻の出産は“ストレス”ということなのだろうか。
しかしこのケースでのコルチゾールレベルの上昇は単純なストレスということではなく、研究チームによれば子育てへの準備を整えるものであるという。出産直後の父親は我が子を守ろうとコルチゾールのレベルを上げて用心深くなっているのだ。
そして出産2日目のホルモンレベルの変化も興味深いものになった。2日目にテストステロンのレベルが下がっていた父親は、出産から2カ月後から4カ月後の間、献身的な育児を行なっていた傾向が明らかになったのである。妻の出産の翌日にある意味でやや“女性化”した父親はその後育児に積極的になるということになる。
出産は母親のみならず父親の身体にも変化をもたらしているということで、つくづく出産は夫婦にとっての“一大イベント”であることを思い知らされる話題だろう。
参考:「ScienceDirect」、「Association for Psychological Science」、「University of Notre Dame」ほか
文=仲田しんじ
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