女性の活躍と昇進を妨げる“ガラスの天井”は破れるのか?

サイエンス

 日々SNSに投稿されている女性のセクシーな自撮り写真には思わず目を奪われるが、こうした写真を自発的に投稿する女性というのは目立ちたがり屋かナルシストなのか。それとも“ファン”のためのサービスとして行なっているのだろうか。最近の研究では女性のセクシーな自撮り写真の背景には男女の経済格差があることを指摘している。

■男女間経済格差が女性たちをセクシーにする

 セクシーな格好をしている女性が多い地域はそれだけ女性の性を“モノ化”し女性差別が強いという印象を受けるかもしれない。しかし最近の研究ではセクシーな自撮り写真は女性の性がモノ化されているというよりも、男女の経済格差を乗り越えようとする女性の自発的な努力であること指摘している。

 豪・ニューサウスウェールズ大学の研究チームはツイッターとインスタグラムに投稿されている6万8000点ものアメリカ人女性のセクシーな自撮り写真の撮影場所(位置情報)に着目し、全米の5567の都市と1622のカウンティ(郡)の男女の経済格差の程度を示すデータを収集した。

 セクシーな自撮り写真の位置情報と各地域の男女間経済格差を照らし合わせてみると、女性のセクシーな自撮り写真は男女間経済格差が大きい地域でより多く撮影されていることが判明したのだ。

 当初の想定では、女性差別が根強く残る地域でこうした自撮り写真が多く撮影されているのだと考えられたが事実はそうではなかった。女性差別ではなく、男女間経済格差が女性たちをセクシーにしていたのである。

 また男女間経済格差が大きい地域ほど、女性向けの美容院やアパレル店などの女性の外観に関わる産業が盛んであることもまた明らかになった。これは恋愛市場における女性同士の競争が激しいことを示唆するものでもある。

 今日の社会では“美”は一定の価値を持っているので、女性たちは男女間の経済格差を乗り越えるために“美”を最大限に利用している。その結果、女性のセクシーな自撮り写真も多く投稿されることになるのだ。

 世界113ヵ国の女性の自撮り写真と男女間経済格差を照合した研究でも同じ結論に達したということだ。

 世の淑女にとっては周知の事実なのだろうが、女性にとって“美”は能力や学歴や人脈に勝るとも劣らない重要なスペックであることがあらためて確認される研究結果になった。

■“ガラスの天井”は破れない?

 能力や業績に関わらず組織内で女性やマイノリティの昇進を妨げる見えないバリアは“ガラスの天井”と呼ばれ、ヒラリー・クリントンをはじめとする決して少なくない数の女性リーダーが口にしている。

“ガラスの天井”の話題はなかなかギャップが埋まらない男女間の所得格差にも通じる話になるが、2018年8月にシカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスから発表された研究では、性別間の経済格差が埋まらない3つの理由を解説している。

●高収入に繋がる学位を取得しない
 1980年代からアメリカでは女性の40%が大学を卒業し、30%を切る男性の大卒率を優に越えている。しかし女性は大学で高収入な仕事に通じる専攻を選ばない傾向があるということだ。より良いキャリアのために大学に行くという女子学生は案外少なかったのだ。

●リスクを嫌う
 男女平等であるとはいえ、親や社会から教え込まれた男性観、女性観というのものは存在する。男の子は勇気を持っていろんなことに挑戦することを求められ、女の子はあまりリスクを取らないように教え込まれるケースが多い。リスクを取る覚悟はビジネスでの意思決定や交渉にポジティブに働き成功を呼び込むものになる。一方で女性はビジネスにおいてもリスクを回避しがちなのだが、この男女のマインドセットの違いが10%もの収入格差を生み出しているということだ。

●不均衡な家事負担
 “主夫”という言葉が違和感を感じなくなってはきているが、全体的にみればそれでもまだまだ女性のほうが不釣合いな分量の家事を引き受けている。高収入の仕事ほどスケジュールが厳格で柔軟な働き方ができないといわれており、家事との両立はきわめて難しい。研究ではさらに、妻のほうが収入が高いカップルは関係継続が難しくなり往々にして離婚に結びつくことが報告されている。個人差はあるとは思うがそう簡単に“主夫”にはなれていない実態があるのだ。

 日本でも“働き方改革”が提唱されているように、家事育児を妨げない柔軟な働き方が企業側に求められている。それでもこうした3つの理由で男女の収入の格差が埋まることはすぐにはあり得ないということだ。

 研究を主導したマリアンヌ・バートランド教授によれば、たった1つのポリシーでは“ガラスの天井”を突き破ることはできないが、今後の各種の技術の進歩が大きな希望になっているという。

「将来“ガラスの天井”がどのようになるのかを予測する際、最大の未知数要因が技術の役割です。多くの技術トレンドが女性にとって正しい方向に進んでいることは間違いありません。人工知能などの次の技術的な変化が職場をどう変えていくのか、まだ誰も予測できていません」(バートランド教授)

 すぐには無理でも将来の技術革新で“ガラスの天井”は破れ、男女間経済格差が埋まる方向に進んでいくことは間違いないようである。

■フェイスブックの利用状況で地域の男女格差がわかる

 技術革新で男女の所得ギャップが埋められることを最もよく説明してくれるのが各種のSNSの利用実態である。男性よりもうまくSNSを活用して有意義な活動を行なっている女性が多いのはご存知の通りだ。また実際に収入を得ている女性YouTuberも多い。

 そして女性が活躍する性別格差の少ない社会がフェイスブックの利用状況でわかるという研究が最近になって報告されている。フェイスブックを活用している女性が多い国ほど、男女平等で性別格差が少ないのである。

 オーストリア・ウィーンの研究機関「Complexity Science Hub Vienna」とウィーン医科大学、スペインのマドリード・カルロス3世大学の合同研究チームが2018年6月に「PNAS」で発表した研究ではフェイスブックの利用データからその地域の男女間格差を予測できることを報告している。女性のフェイスブック利用が高い地域ほど、男女間格差が少ないのだ。

 研究チームは世界217ヵ国、150万人のフェイスブックユーザーの利用実態を調査して、フェイスブック利用の男女格差がそのままその社会的、経済的な男女格差を反映していることを突き止めた。

 フェイスブックのアクセスにおける平等が経済的男女格差を解消するのに役立つかもしれないと解釈でき、女性は男性よりもフェイスブックから恩恵を受けていると研究チームは説明している。

 ちなみにフェイスブック利用の男女格差が最も大きかったのは上からチャド、イエメン、バングラデシュである。これらの国ではフェイスブックユーザーのほとんどが男性だ。

 一方で女性の利用率が最も高かったのが旧共産圏のモルドバとベラルーシで、これらの国々では女性ユーザーのほうが多い。日本もほんのわずか(-0.03)に女性ユーザーのほうが多い国になっている。この点では日本はあまり男女格差がない国ということになる。女性がSNSを活用して男女格差を縮めているのだとすれば、やはり“ガラスの天井”を突き破るのはITをはじめとする技術革新ということになりそうだ。

参考:「PNAS」、「The University of Chicago Booth School of Business」、「PNAS」ほか

文=仲田しんじ

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