“女子の理系離れ”を食い止める秘策とは?

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 政府による“女性活躍推進法”の取り組みもあり女性の活躍がますます期待されている昨今だが、このところ女子生徒の教育について気になる研究が相次いで報告されている。

■女子児童が6歳に気づくこととは?

 女子児童は5歳から6歳になるどこかの時点で性差を強く意識していることが研究によって指摘されている。しかもその認識は男性のほうが女性よりも知的能力の面で優れているという、今や時代錯誤のジェンダー観なのだ。

 米・ニューヨーク大学の心理学者、アンドレイ・シンピアン氏らの合同研究チームが2017年1月に「Science」で発表した研究では、400人あまりの学童(男女半々)を調査して「頭の良い人間」のイメージが女子児童の5歳と6歳では大きく違っていることが報告されている。

 実験では生徒たちに対して、素晴らしい学問上の功績を残した人物の逸話を語り聞かせた後に、その人物の性別を推測してもらうなどの実験を3種類行なっていいる。たとえばこの“学問上の偉人”の性別については、5歳の学童においては男女それぞれ自分の性別だと考える傾向があった。しかし6~7歳の女子児童はこの“偉人”が女性であると考えるのは2~3割に留まり、ジェンダー観の大きな変化が見られたのである。つまり5歳から6歳の1年間の間に、男性のほうが知的に優秀であると考える女子児童が多数派になってしまったということだ。

 6歳の時点で数学の成績に秀でた女子生徒ももちろんいるが、自分の能力は棚に上げて潜在的には男子のほうが知的能力が高いと考え、女子生徒が過小な自己評価をしている傾向が浮き彫りになったのだ。これはつまり、現在の学業の成績が必ずしも実際の知的能力を反映しているものではなく、本物の才能と成績はあまり関係のないものであると“達観”しているということでもある。その意味では女生徒のほうが“大人びている”ということになるのだろうか。

「このような(男尊女卑的な)考えは早い時期にあらわれ、男女共にその後の学業の方向性に影響を与えています」と研究チームの一員であるアンドレイ・シンピアン氏は英紙「The Guardian」に話している。

 英・ケンブリッジ大学の物理学者、アテヌ・ドナルド教授(ちなみに女性)は、もし我々が性別面でバランスのとれた職場環境を求めるのであれば、児童教育での男女平等政策がまだまだ不十分であることを指摘している。

「親たち、教育者、そしてメディアは旧態依然としたジェンダー観を根絶すべくさらに尽力しなければなりません」(アテヌ・ドナルド教授)

 21世紀に入ってすでにかなりが経った時代の先進国の子どもたちであっても、このような旧態依然としたジェンダー観を早いうちから抱くようになってしまうのというのはやはり残念なことであり対策が必要なのだろう。

■“女子の理系離れ”は15歳で加速する?

 女子児童は5歳から6歳の間に性別に対する大きな認識の変化が訪れる傾向がわかったのだが、その次には15歳前後でも見過ごすことのできない心理的な変化が生じていることも指摘されている。多くの女生徒は15歳前後で理系学問への興味を失っているというのだ。

 マイクロソフトがヨーロッパ12ヵ国の1万1500人の女子生徒に対して行なった調査で、いわゆるSTEM(科学、技術、工学、数学の頭文字)と呼ばれる理系の科目について、11歳の時点ではじゅうぶんな興味関心を持っているのにも関わらず、15歳の時点で急激に興味を失っている実態が明らかになった。

「社会が求めている旧態依然な男女観と、見本となる女性の活躍の少なさが、今でも理系の職業から女性を遠ざけています」と語るのは、研究をサポートしたロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの心理学者、マーチン・バウアー教授だ。

 15歳はまさに思春期真っ盛りということもあるのか、女子生徒は人文科学系科目への興味も同じように失っているのだが、その後しばらくすると文系学問ヘの興味が盛り返してくる傾向もわかっている。しかし残念ながら理系学問への興味は失われたままであるということだ。

 男女共同参画に積極的に取り組んでいるマイクロソフトであっても、同社の女性従業員の割合は28%にとどまり、エンジニア部門での女性従業員は18%とまだまだ理想とは大きなギャップがある。

 15歳前後という年齢は、おぼろげに大人の社会の構造がわかりはじめる頃でもあり、エンジニアなどの職業に実際に女性が少ないことをはじめ、女性と職業の関係を認識しはじめる頃でもあるだろう。そして基本的に女子生徒は、ある意味で当然のことではあるが男女が平等に扱われていると思われる職場への就業を希望する。つまり、エンジニアなどの理系の職業は男女が平等に扱われていないようなイメージを女生徒は抱いているということでもある。

 そして男子生徒に比べて女子生徒は、実際のエンジニアから現実の職場の状況についての話を聞かされる機会が少ないことも“女子の理系離れ”の一因であるとも考えられているようだ。解決のための“王道”はビジネスの現場で活躍する“お手本”となる女性エンジニアの数が増えることであるが、一方で学校や家庭が女子生徒の11歳から15歳の4年間の教育に特に配慮して何らかの策を講じることもまた求めらているということだ。

■“女子の理系離れ”を食い止める女子校の存在

 オーストラリアでは12年生(高校3年生)の女子生徒で「高等数学」を履修しているのはわずか6.7%に過ぎず、「中級数学」も17.5%に留まっている。“女子の理系離れ”はヨーロッパのみならずオーストラリアでも問題になっているのだ。しかしそこに希望は残されているという。女子校の存在だ。

 メルボルン大学の研究者をはじめとする合同研究チームが昨年に発表した研究によれば、女子校に通っている女子生徒は、共学に通う女子生徒よりも数学をはじめとする理系の科目に自信を持っている傾向が明らかになったという。“女子の理系離れ”を食い止めるにあたって女子校の存在感が大きく増したことになる。

 研究チームはオーストラリア内の共学校と、男子校、女子校に通う生徒を幅広く調査している。共学校において算数科目に対する自信と成績を調べたところ、4年生(小学4年生)時点においては男子生徒も女子生徒も実際の成績相応の自信を持っているのだが、8年生(中学2年生)の時点では、男子生徒のほうがより自信を深め、女子生徒はたとえ成績が良くても自分の数学の能力を過少評価している傾向が浮き彫りになった。男子生徒が実力以上に自分を過大評価している可能性もあるのだが、いずれにせよ数学における自信の男女のギャップが広がったのだ。

 しかし女子校に通う女子生徒については、共学で見られる数学に対するネガティブな態度はあらわれてこなかった。そして実際に他の調査では、女子校に通う女子生徒のほうが、共学に通う女子生徒とよりも理系科目の成績が良い傾向が確認されたという。しかしこれについては、女子校に通う生徒はより裕福な家庭の子どもであり、それが成績を高める主要因になっているとする反論もある。

 とはいっても女子校で教鞭を執る教師たちには、女子校の生徒のほうが理系の難しい問題にも冒険心を発揮して果敢に挑んでいる傾向が感じられるという。そしてこれはやはり男子生徒からのステレオタイプな男女観に基づく心理的プレッシャーがないからだろうと説明している。

“女子の理系離れ”を食い止め、社会における女性の活躍を促進し、さらにはいまだに社会に残る旧態依然たるジェンダー観を取り除いていくためにも、女子校の存在意義はまだまだ続くということだろう。

参考:「The Guardian」、「Microsoft」、「Sydney Morning Herald」ほか

文=仲田しんじ

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