失敗体験で得られる10のメリット

ライフハック

 SNS全盛時代を迎えているが、不特定多数の人々との交流をあまりしたくないという人もいるだろう。それほど親しくない人々との交流を避ける気質は特に幼少期には問題視されてくるのだが、最近の研究でこうした気質の人々は人前でのミスを恐れる傾向があることが指摘されている。

■人前でミスしたくない気持ちが社交不安障害へ繋がる

 学校や職場などでの交流への不安感は、症状が重くなると社交不安障害(social anxiety disorder)となる。特に児童期のこの症状は学業などにも支障をきたし、知育の発育にネガティブに働くものであるとされている。

 したがって子どもの社交不安障害の可能性にいち早く気づいて対策を講じることが求められるのだが、その兆候となるものに幼児期の行動抑制(behavioral inhibition)があげられている。行動抑制とはいわゆる“ひっこみ思案”や“恐がり”と形容される非社交的な性格特性である。

 米・メリーランド大学カレッジパーク校をはじめとする合同研究チームが2017年12月に「Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry」で発表した研究では、107人の12歳児が参加した実験が報告されている。

 107人の児童はいずれも幼少期に行動抑制と診断されていたのだが、実験ではEEGと呼ばれる帽子タイプの脳波測定機器を装着した状態で「フランカー課題」に挑んでもらった。フランカー課題とは例えばモニターに現れる矢印の向きを素早く答えるといった単純ながらもスピードが求められる課題である。そしてこのフランカー課題を観客がいる状態と、自分以外誰もいない状態の2パターンで行なってもらった。

 フランカー課題でミスをすると、脳内でエラー関連陰性電位(error related negativity:ERN)という脳波パターンがあらわれるのだが、今回の実験を分析した結果、研究チームは行動抑制と観客がいる状態でのミスへの過剰反応に強い結びつきがあることを見出したのだ。つまり行動抑制の気質をもつ児童は、観客がいる状態でミスを犯すことを過剰に恐れているのである。

 社交不安が生じるメカニズムの1つは、ソーシャルな状況における過剰な自意識とミスの誇大視であり、社交不安を持つ個人にとっては、失敗することに対する過度の恐怖は、進行中の社会的相互交流を妨げて損うことになると研究チームは説明する。

 幼少の頃からスポーツや習い事をはじめる子どもも少なくないが、後のメンタルヘルスの健康のためにも、子ども時代の失敗には寛大になるべきなのかもしれない。

■“はらわた”の感覚を信じる

 ミスを恐れることなく常に堂々としていたいものだが、迷った時の判断は何をよりどころにすればよいのだろうか。最近の研究では迷った時の判断は“はらわた”の感覚に従えばよいことが指摘されている。

 米・フロリダ州立大学とイリノイ大学の合同研究チームが2018年3月に「Physiology」で発表した研究では、脳と胃腸を双方向で結ぶ迷走神経(vagus nerve)が、間違った行動に警告を与える働きがあることを報告している。

 迷走神経とは副交感神経の一部で、延髄から胸部以下の心臓および胃腸などの各臓器に繋がっている神経系だ。研究チームによれば、この迷走神経は我々の感情と気分、そして意思決定に強い影響力を及ぼしているという。

「断腸の念」や「胃が痛い」など日本語にも感情を内臓で例える表現があるが、英語では「はらわたの感覚(gut feeling)」という、いわば生理的な“第6感”を指す言葉がある。研究チームはこのはわらたの感覚は迷走神経からもたらされる感覚であり、しばしば我々に警告メッセージを送ってくれる有難い働きがあると説明している。

「はらわたの感覚を神経科学で解き明かすことは私の一生のテーマであり、日々貴重な教訓を学んでいます。迷走神経のフィードバック信号はとても防衛的であり、注意を促してくれます」と研究チームのリンダ・リナマン氏は語る。

 リナマン氏によれば危険な状況や不穏な物事に直面した時に迷走神経は胃腸の違和感などのシグナルを発して当人に警告を与えるということだ。突然胃がむかついたり、気持ち悪くなったりしたときは何か危険が身に迫っていないかどうか確認してみたほうがよさそうだ。

■失敗体験で得られる10のメリット

 身を危険に晒すような誤った判断はしたくないものだが、ささいなことでミスをしないかといつも不安でビクビクしていても詮無いことだろう。

 ミスを完全に排除することはできない以上、ミスする場合もあることは常に頭の片隅に置いておいて、すばやくリカバリーできるようにしたいものだ。そしてミスは自分の成長に役立つものにもなり得る。ライフコーチのクリスティ・リム氏がミスすることで得られる10のメリットを解説している。

1.知識が得られる
 冒したミスを検証することで今まで知る機会がなかった知識が得られる。ミスは学びの機会になるのだ。

2.創造性が刺激される
 物事がうまく行かなかった時は、これまで考えてこなかった新たな発想を考えるチャンスになる。ミスしたからこそ創造的になれるのだ。

3.粘り強さを学べる
 ミスをしてそこから立ち直る経験をすることで粘り強さを学べる。ミスがなければ安全地帯に留まったままでフレキシブルさが失われていく。

4.人間性を教えてくれる
 人間だからこそミスをするのであり、ミスをすることで人間性の大切さが学べる。我欲を追求してギャンブルに出ることの愚かさに気づくのだ。

5.その後の参考になる
 ミスをして得た知見はその後の貴重な参考になる。“引き出し”が増えることで新しい試みをする際に役立つ。

6.新たな発想が生まれる
 ミスがもたらす最も役立つ恵みの1つが、新たなアイディアの獲得である。ミスによってこれまでの自分の範疇を越えた発想が求められてくるのだ。

7.自信に繋がる
 次は同じミスはしないということが自信に繋がる。この自信はミスによって自分が成長したことの証である。

8.賢くしてくれる
 ミスを振り返ることで物事を多角的に眺めることができるようになる。ミスをしなければ単眼的な見方のままになる。

9.戦略的思考が可能になる
 ミスの経験を積むことで新たな試みをより具体的に計画できるようになる。机上の空論に終わらないイノベーションに挑戦できるのだ。

10.自分自身をよく知ることができる
 ミスをすることで自分がどんな人間であるのかを思い知らされることになる。これまで自分では気づかなかった弱点や欠点を認め、それを克服する具体的な指針を見出せるのである。

 最近の研究では学習過程においてミスをしたほうが効果的に新しいことを学習できることも指摘されている。ミスから多くのことを学びたいものである。

参考:「ScienceDirect」、「Florida State University」、「Lifehack」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました