お昼ごはんを食べてから6時間“も”経っていると感じるのか、まだ6時間“しか”過ぎていないととらえるかで、夕食の時間は違ってきそうだ。最近の研究では、どうやら食べ過ぎてしまう人は時間を長く感じるからこそ食事の間隔が短いことが指摘されている。そして結果的に摂取カロリーが増えてしまうのだ。
■肥満体型の人は時間を長く感じている?
1日の3食を早めの時間に摂っていると、結果的に夜食を食べたりして摂取カロリーが増えてしまうかもしれない。とすれば食事の間の間隔が長ければ食べ過ぎる可能性は低くなるとも言えるのだが、厄介なことに肥満の人ほど時間を長く感じる傾向があることが実験で明らかになっているという。つまり肥満の人は前の食事からもう○時間“も”経っていると感じてしまうのだ。
豪・タスマニア大学をはじめとする合同研究チームが2019年4月に「Journal of Health Psychology」で発表した研究では、実験を通じて肥満の人と標準体型の人との時間感覚の違いを探っている。
92人の肥満の人々と、182人の健康な標準体型の人々が参加した実験では、コンピュータディスプレイ上で黒い丸が緑色に変わるまでの時間を主観的にカウントする課題が行なわれた。色が変化するタイミングは1秒から12秒の間で、各回でまったくランダムに採用されていた。
収集したデータを分析したところ、肥満の人々は標準体型の人々に比べて丸の色が変化する間の時間を長く見積もっていることが判明した。つまり肥満の人々は時間を長く感じているのである。そしてこの肥満の人々の時間感覚が、食べ過ぎに繋がっていることを研究チームは示唆している。
2016年の米パデュー大学とコロラド州立大学の研究では、肥満の人々は目に見える目的地までの距離を、標準的な人々よりも遠くに感じていることも報告されている。今回の研究と合わせて、肥満の人々は距離を遠く感じ、時間を長く感じることで、徒歩で移動するモチベーションが削がれ、なおかつ短いスパンで食べ物を口にしやすいことが指摘されることになる。つまり生活習慣による肥満を招きやすいのだ。
仮にお腹がすいたとしても、水さえあれば24時間食べなくとも健康にはまったく悪影響はないといわれている。したがって肥満に繋がる生活習慣を見直す鍵はまさに時間と距離を“克服”することにあると言えるのかもしれない。
■郊外住人の肥満が世界的に増加している
ご存知のように都会にはあらゆる飲食店が軒を連ねていて、その中にはファストフード店などのようにちょっとした小腹を安価に満たす手軽な店も多い。少し気を抜いていれば食べ過ぎる環境が整い過ぎているのが都会だが、最近の研究では実は都市部よりも郊外に住む人々の肥満がグローバルな規模で増えていることが報告されている。
“生活習慣病”の研究ネットワークである「NCD Risk Factor Collaboration」が2019年5月に「Nature」で発表した研究は、地球規模で進行する肥満のトレンドの主たる要因は都市よりも郊外に居住する人々の体重増加にあることを報告している。
研究チームはこれまでの2000もの研究から、全世界112億人以上の人々のBMI値を1985年から2017年までの間、追跡調査した。1985年に比べて2017年では平均以上のBMI値の者が55%増えていたのだが、地域を細かく分けたところ80%以上増えていたのが郊外の低中所得層が住む地域であることが浮き彫りになった。特にラテンアメリカ、アジア、中東の郊外のエリアで肥満が増えていたのである。
これまでは概して郊外に住む住民のほうが健康的な生活を送っているものと考えられてきたが、この30年でグローバルに進行した工業化が郊外の人々の暮らしと生活を変えてしまったようである。
モータリゼーションの普及で郊外の人は都市の人々よりも歩かなくなり、郊外型ショッピングモールなどで食品を一度にまとめ買いすることで食事における加工食品の割合が増えて肥満に繋がりやすくなっているのである。また都市にあるようなスポーツ施設やジムなども郊外では少ないだろう。
これまで貧困国での食糧難が長らく問題になってきたのだが、今日では低所得国でも肥満が問題になりはじめているという。皮肉にも自然に囲まれた郊外の住民にも栄養と運動の正しい理解が必要とされているのだろう。
■主食がコメの国民は痩せている
ダイエット法にもその時々の流行があるようだが、このところ注目を集めてきたのが某肉体改造ジムでも取り入れられている低炭水化物ダイエット(低糖質ダイエット、ローカーボダイエット)だろう。
このトレンドの中でパンや麺類などと共に“敵視”されているのがコメだが、本当にコメの食習慣が肥満に繋がっているのだろうか。最新の研究ではコメに向けられた敵視はとんでもない“濡れ衣”であることを報告している。より多くお米を食べる国民ほど肥満が少ないのである。
同志社女子大学の研究チームが2019年4月28日に英・グラスゴーで開催された「European Congress on Obesity」の会合で発表した研究は、国民のコメの消費量と肥満の関係を探っている。
研究チームは136カ国の国民の食生活のデータを分析したところ、1日当たり少なくとも150グラムのコメを食べている国民は、世界の平均量(約14グラム)を下回った国の人々よりも明らかに肥満率が低いことが突き止められた。
研究チームはその国の平均教育レベル、喫煙率、総消費カロリー、医療費、65歳以上の人口の割合、および1人当たりの国内総生産を含むできるだけ多くの外部変数を考慮に入れたのだが、その中でもより多い米の消費割合が低い肥満率に有意に繋がっていることが明らかになったのだ。
研究チームによれば、1日にコメを50グラム増やすことで、世界の肥満を1%減らすことができると推定している。それは、6億5000万人から6億4350万人の成人の肥満を減らすことに相当するのだ。
パンや麺の原料である小麦の評価はひとまず置いておくとして、コメへの“敵視”はあらぬ疑いだったということになるのかもしれない。だからといってくれぐれも食べ過ぎには注意しなければならないだろう。
参考:「SAGE Journals」、「ScienceDirect」、「Nature」、「Medical News Today」ほか
文=仲田しんじ
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