自分の体型を肯定的にとらえるか、それとも否定的に見ているのかは相変わらず若い女性たちの間では大きな問題になっている。今日のSNS時代を迎えて“ボディイメージ”への懸念がますます高まっているのだ。
■SNSを利用する若い女性にメンタルヘルスのリスク
SNSを積極的に利用している若い女性ほど、自分の体型にネガティブなイメージを持ちやすいことが最近の研究で報告されている。自分の体型をネガティブに認識することは、そのままメンタルヘルスのリスクに直結することは言うまでもない。
カナダ・ヨーク大学の研究チームが2018年11月に「Body Image」で発表した研究では、実験を通じてSNSの利用と自分の体型の自己評価の関係を探っている。
実験に参加した18歳から27歳までの女子大生118人は事前に自分の体型に対する自己評価を計測するテストを受けてから2グループに分けられた。いずれの参加者もSNS(インスタグラムなど)にアクセスして、自分と同い年の女性で自分よりも“カワイイ”と思うユーザーを探す課題が与えられた。
その後、Aグループは当該のSNSにコメントを残すように求められ、一方でBグループは自分の家族にメッセンジャーアプリなどでこのSNSを紹介するように求められた。
一連の課題の後、参加者は再び自分の体型を自己評価するテストを受けたのだが、収集したデータを分析したところ、自分よりも“カワイイ”SNSユーザーとオンライン上で交流したAグループは軒並み自分の体型への評価が下っていたのである。一方で見つけたSNSを家族に紹介したBグループでは自分の体型の自己評価は実験前とほとんど変わっていなかった。
18歳から20歳代半ばの女性は最も外見を気にしているクラスターと考えられているが、今回の研究でSNSでの交流が増えることで、自分の体型や容姿に対する目が厳しくなっていることが示されることになった。
自分の体型へのネガティブな認識は過度なダイエットや摂食障害のリスクを高め、メンタルの健康に悪影響を及ぼす。SNS全盛時代の若い女性にはこうした“落し穴”があることは広く共有されなければならないだろう。
■ヨガで自分の容姿をよりポジティブに評価
SNSで他者と“比較”し、過度に外見についてナーバスになることでさまざまなネガティブな影響が及ぶリスクが指摘されているのだが、これに抗する有効な対策はないものだろうか。最近の研究では、自分の外見への不満感はヨガの実践によって和らぐことが報告されている。
米・フロリダ大学の研究チームが2019年1月にジェンダー研究系ジャーナル「Sex Roles」で発表した研究では、実験を通じてヨガが自身の外見に対するネガティブな認識を改善できることが示されている。
実験に参加した18歳から30歳までの若い女性75人(大半はサウスイースタン大学の女子学生)の半数が、週に2回のヨガ教室を12週間続け、瞑想法や呼吸法、ビギナー向けのポーズのレッスンを受けた。
12週間後、ヨガレッスンに参加者した女子大生たちは、それまでよりも自分の外見に対する不満度が減り、むしろ自分の容姿をよりポジティブに自己評価するようになっていたのである。そしてその分、化粧や身だしなみに要する時間も減ったということだ。
「ヨガは、若い女性が伝統的なメンタルヘルス治療に伴う心理的障壁や屈辱感がない形で身体活動に取り組むことができ、ボディイメージの不満を改善するために広く利用可能な方策になります」と研究チームは説明する。
今回の研究ではヨガによる減量効果や美容効果については検証の対象外だが、習慣的なヨガの実践で実際に外見に好ましい変化が訪れる可能性もじゅうぶんに考えられるだろう。心身の健康と前向きな気分をキープするためにヨガが有効に活用できるようだ。
■自然に触れることで自分の容姿の懸念が些末化
ヨガのほかにも満足できない自分の外見をポジティブに“受け入れる”有効な方法が最近の研究で報告されていて興味深い。その方法とは自然に触れることである。
英・アングリアラスキン大学をはじめとする国際的な合同研究チームが2018年3月に「Body Image」で発表した研究では、5つの実験を通じて自然に晒されることと、自分自身のボディイメージの関係を探っている。
実験の1つでは、参加者は一連の風景写真を見せられてそれを評価した。参加者は2つに分けられ、Aグループは湖や山や森などの自然の風景写真を見せられ、Bグループは都会のストリートや産業ビルなどの都市の風景写真を見せられた。
そしてこの一連の写真評価の前後に、参加者は自分の身体をどう見ているのかを明らかにする「ボディイメージ調査」の質問に回答したのだが、自然の風景を見せられたAグループは評価終了後に、自分の身体の見た目をそれ以前よりも著しく高く評価していることが浮き彫りになった。それが風景写真であるにせよ、自然に触れることで人は自分の体型がある程度好ましいものに感じられてくるのである。一方でこの変化は、都市の風景写真を見たBグループにはあらわれなかった。
別の実験では、写真ではなく実際に自然と都市の環境に触れるべく、163人(女性84名、男性79名)の参加者は2kmほどの散歩をした。ここでも参加者は2つに分けられ、Aグループは池や林、丘が広がる自然公園を散歩し、一方でBグループは高層ビルや倉庫、商店などが建ち並ぶ都市の中を歩いた。
この課題の前後にも「ボディイメージ調査」が行なわれたのだが、やはり自然の環境の中を散歩したAグループは自分のボディイメージの評価が散歩する以前よりも顕著に高まっていることが判明した。そして逆に都市の中を散歩したBグループは、自身のボディイメージの評価が散歩前よりも低くなったこともまた明らかになった。
どうして自然に触れると自身のボディイメージの評価が高まるのか? 研究チームによればそれには2つの理由が考えられるという。
1つは、自然に触れることによって、肉体面と精神面の間に距離が生まれることにあるという。自分の外見が好ましく感じられないのは主に精神面から来るものだが、自然に触れてフィジカル面が意識されることで、外見といいうような問題が瑣末な問題になってくるのだ。
もう1つは、自然に触れることで忙しい日常から解放され“静寂(cognitive quiet)”がもたらされることである。メンタルにもたらされた静寂は、自分自身を大切に慈しむというセルフ・コンパッション(self-compassion)に繋がるということだ。
さらには壮大なスケールの大自然に触れる体験は、日々の生活上の悩みや心配を取るに足らないちっぽけなものにするという働きもあるのかもしれない。落ち込んだり、何かとネガティブな思いに囚われた時などは束の間でも大自然に触れてみてもよいのかもしれない。
参考:「York University News」、「Springer」、「Anglia Ruskin University」ほか
文=仲田しんじ
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