SNSの普及もあってか“ソーシャル”という言葉の重さが増している感があるが、どうやら脳には“ソーシャル脳”の状態がありそうだという。ソーシャル脳を持った人が、新たな出会いで新たな友人を多く獲得しているというのだ。
■“ソーシャル脳”ではウロコルチン3が盛んに分泌
初対面の人との交流がどうしても苦手だという向きは少なくないが、新たな交流を拡げていくことはビジネスパーソンとしては避けては通れない課題でもあるだろう。しかし一方で新しい出会いを歓迎して人脈を次々に開拓していく者もいる。この差は単に性格的な資質の問題なのだろうか。最近の研究では、社交的な“ソーシャル脳”の存在が指摘されている。
イスラエル・ワイツマン科学研究所と独マックス・プランク研究所の合同研究チームは2016年の研究で、マウスの脳からストレスを制御するメカニズムを特定した。これこそが脳をソーシャルにする要素であり、初対面の出会いが苦手かどうかを左右するものであるということだ。
マウスを使った実験では、マウスを“ソーシャル迷路”に放った。この迷路には今までの仲間のマウスもいれば、これまで会ったことのないマウスもいる。研究チームはこの“ソーシャル迷路”で初対面のマウスに出会った時のマウスの脳の活動を観察した。すると“出会い”の際に、ある一群のマウスの脳の内側扁桃体でウロコルチン3(Urocortin-3)が盛んに分泌していることを突き止めた。
研究チームは次にマウスに小さなカメラを撮りつけて、迷路の中での移動の様子を録画して行動を分析した。するとこのウロコルチン3が活発に分泌しているマウスほど“ソーシャル”であり、新しい出会いに積極的で、初対面のマウスとより多く交流をしていることがわかったのだ。つまりこのウロコルチン3の分泌が多いと社交的な“ソーシャル脳”になるのだ。
研究者が意図的にマウスのウロコルチン3の受容を阻害してみると、そのマウスは集団の中から出ることがなくなったということだ。そして研究チームはこのメカニズムは人間にも適応されると考えている。人間の場合には、新しい出会いだけでなく、実家を出てひとり立ちする行為や離婚や転職、引越しなどの判断に深く影響していると考えている。今後のどのように研究が深められていくのか気になる話題だろう。
■大人になってからの友だちの作り方6選
ウロコルチン3の研究で初対面の出会いをなるべく避けたいという引っ込み思案な性格や、逆に生活に支障を及ぼすほどの多情多感な心性などが、将来的には“治療”できるものになるのかもしれない。
しかしながら新たな出会いで親密な関係を築くことは相手があることでもあり、特に大人になってからは基本的には難しいことだろう。そこで大人になってからの友だち作りのための有効な6つの方策が考えられる。
1.クラブ活動やアクティビティに参加する
正攻法とも言えるが、コミュニティで行なわれている各種の趣味サークルに参加したり、スポーツクラブに所属したりすることで同好の士のつながりが生まれる。同じ趣味を持つ者同士の関係が友情に発展しやすいのはある意味で当然だろう。もちろんボランティア活動などでもよい。
2.関係を発展させる
強く求めればそれなりに出会いはあるはずだが、その出会いを発展させたいと望むのであれば、その次の展開を積極的に仕掛けていくことが求められる。ある意味では恋愛と同じだろう。出会いの時の会話で話題になったことや、相手が口にした気になる言葉などから次の話題を考えてみたり、実際に何かを目的にした“デート”を提案してみてもよいだろう。もちろん、自分自身もオープンマインドな態度でことに当たらなくてはならない。
3.“常連客”になる
自分が心地良いと感じられる飲食店の常連客になることも、友だち作りの常套手段といえるものだが、これは普段の日常生活の中で他者と関わり合えるチャンネルを持っておくという意味になる。リラックスできる環境であるからこそ、出会いのやりとりも自然なものになり無理のない形で友情を深めていけるだろう。
4.弱みを見せる
いっさい自分の弱みや悩みを見せずにコミュケーションを続けても、感情的な親密さは深まらないといわれている。正攻法の手段と比較すれば難易度の高い“作戦”だが、自分が見せた弱みに相手が反応して協力、支援を表明してくれればお互いの距離はグッと縮むことになる。また“高等テクニック”としては、あえて不得意な分野のアクティビティに参加してみるという方法もある。見かねて助けてくれる人が現れたら、その人とは親密な関係になりやすいだろう。
5.子どもとペットを活用する
小さな子どもがいるということは、無条件で各種の父兄会への参加資格を持っていることになる。こうした集まりに出席するだけで数多くの出会いに恵まれるだろう。同じような歳の子どもを持っているという共通点があるため話題も尽きない。また同じくペット(特に犬)のオーナーであれば、ペットの話題はもちろん一緒に散歩したりすることもできるのでお互いの距離はすぐに縮まる。
6.職場の同僚に心を開く
店舗や工場やオフィスで働いていれば1日8時間以上、週40時間以上、年間にすれば2880時間以上の時間を共に過ごしているのが職場の同僚だ。家族よりも長い時間、同僚と同じ空気を吸っていることになる。したがって新たな友人を探すのであれば、まず最初に候補に挙がってくるのが仕事仲間ということになる。社風によっては内部に派閥があったり、激しいライバル関係にあったりする場合もありなかなか難しいケースもあるだろうが、違う部署の者や取引先なども含めれば意外なところから“有力候補”が見つかるかもしれない。
■旧知の人物との交流再開を検討してみる
とはいっても、ゼロから新しい友だちを作るというのは基本的には難しいものだ。そこで浮上してくるのは、今は関係が“塩漬け”になってしまっている旧友、旧知の人物との交流を再開してみることだ。
いわゆる“ケンカ別れ”や“絶交”した人物との関係再開は慎重にならざるを得ないものの、“塩漬け”になっている関係は多くの場合、単純にお互いが属する環境が変ってしまったことに起因しているだろう。つまり学校卒業や転居、転職などをきっかけに自然消滅してしまった関係だ。
連絡先を忘れてしまったという場合でも、今はSNSがかなり普及しているので、検索したり人づてで聞いてみたりすればかなりの確率で旧知の人物を特定できる。そしてもちろん、お互いに共有している過去があるので、まったく新しく出会う人物よりも話題は多い。逆にそこにつけ込んで何かよからぬことを画策するケースもあると言えるのだが、例えばSNSの活動状況などを辿ってみればその人物の現在までの経緯も少しはわかってくるだろう。
新しい出会いを求める一方で、SNS全盛の時代だからこそこうした旧知の人物との交流再開も検討するに値するのかもしれない。
参考:「Weizmann Institute」、「Life Hacker」ほか
文=仲田しんじ
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