夢の“未来食”の鍵を握るのはゴキブリと○○○だった!

サイエンス

 驚くべきことに動物の幹細胞から人工的に培養して作った人工培養食肉「クリーンミート」の販売が年内にもはじまるかもしれないということだが、もちろん我々にとっては肉だけでなく野菜も必要だ。だがご心配なく(!?)、“人工培養野菜”のほうも着実に研究が進んでいる。

■美味しくて栄養豊富な“人工培養野菜”

 食生活に欠かすことのできない野菜の安定供給は今後も引き続き食糧生産の要となる。しかしながら耕作地の開拓にはすでに限界に近いところまできていると思われるため、野菜類の増産はなかなか難しいと言わざるを得ないだろう。

 このまま推移すれば将来的に野菜はもはや庶民の手が出ない高級食材になってしまうのかという懸念が浮上してくる中、VTTフィンランド技術研究センター(Technical Research Centre of Finland、VTT)から明るい話題が届いている。PCCと呼ばれる植物細胞培養(plant cell culture)技術を駆使して“人工培養野菜”の開発に成功したのである。しかも食感も風味も良く、栄養価も高いということで“未来の野菜”としてきわめて有望であるという。

「増加する世界人口の食糧需要を満たすための十分な耕作地がないので、新たなソリューションの創出が喫緊の課題になっています。PCC(植物細胞培養技術)はその解決策として大きな可能性を持っています」と研究を主導したVTTのエミリア・ノードランド氏は語る。

 培養の元になっている植物はクラウドベリー、コケモモ(lingonberry)、ストーンベリーの3種で、ベリー類ということもあり風味は野菜というよりも新鮮な果物に近いということである。栄養成分も申し分なく、タンパク質は14~19%を占め、消化に良いことも実験で確かめられている。

 アミノ酸も一般的な大豆よりも高い値で含まれており、食物繊維の割合は21~37%にもなり、朝食に食べられるシリアル類よりも高い割合である。また不飽和脂肪酸やポリフェノールも豊富に含まれているということだ。

 この“人工培養野菜”の可能性は無限に広がっていると研究チームは力説している。人工培養野菜は単品で食べるほかにもあらゆる料理や加工食品の原材料になり、また扱いやすい“培養キット”が開発されれば、飲食店や自宅でも野菜が栽培できることになる。また今後の宇宙開発分野でも有望な食糧生産技術になるだろう。実際に我々の口にこの人工培養野菜が入るのは少し先の話にはなるが、将来の食糧事情にとって明るい話題であることは間違いない。

■究極の宇宙食は○○○だった!

“未来の食べ物”として注目を集めているのは人工野菜や人工肉ばかりではない。なんと“ウンコ”にも近未来のエコな食べ物としての期待が集められているのだ。

 人類の火星進出計画はすでに動き出しているが、スペースX社CEOのイーロン・マスク氏の説明によれば、火星旅行は片道3ヵ月かかるということで、滞在分を含めれば乗組員の食糧だけでもかなりの積み荷となってしまうことは否めない。

 そこで注目されているのが乗組員の“ウンコ”である。何らかの手段でウンコを再び食物として利用することができれば、宇宙船の積み荷に占める食糧の割合を大幅に減らすことができるのだ。

 NASA(アメリカ航空宇宙局)はかねてより、ウンコを食べる技術の開発に補助金を提供しているのだが、最近になってようやくひとつの可能性が見えてきたようだ。アメリカ・ペンシルバニア州立大学の研究チームが現時点で辿り着いた答えのひとつが“密封式シリンダーシステム”だ。

 長さ1.2メートル(4フィート)、直径の太さ10センチ(4インチ)のシリンダー状の器具の中に、人工的に作られた糞便といくつかの細菌を入れて封印すると、糞便が細菌によって分解されて別の微生物へと変貌を遂げる。そしてこの新たにできた微生物は食べられるのである。

 糞便の分解で放出されたメタンの影響で大量のメチロコッカス・カプスラタス(Methylococcus capsulatus)という微生物が生成していることを研究チームは発見した。このメチロコッカス・カプスラタスは家畜飼料に使用される微生物である。もちろん動物の食用になっているものであるからには人間も食べることができる。メチロコッカス・カプスラタスは52%がタンパク質で、36%が脂肪であるということだ。

 メチロコッカス・カプスラタスは、イギリスやオーストラリアで食べられている発酵食品のマーマイト(Marmite)やベジマイト(Vegemite)によく似た形状であることから、これらと同じようにパンに塗って食べたりすることが考えられるというが、どうしても元の姿を想像してしまう向きには別の食べ方のほうがよいのかもしれない!?

 実用化までには今後もかなりの研究を続けていかなくてはならないということだが、これまでは廃棄されるだけであったウンコが食用に活用できるということになれば宇宙開発の分野のみならず、さまざまな分野で有効活用できるものになるだろう。

■栄養豊富で腹持ちのよい夢の完全食“ゴキブリミルク”

 ウンコばかりではない。未来の食べ物としてはなんとゴキブリも大いに注目されている。

 2016年に国際的な研究チームがゴキブリ(Diploptera punctate)の腸内からタンパク質結晶(protein crystal)を発見して話題になっている。そしてこのタンパク質結晶は牛乳の4倍の栄養価があり、未来の食べ物の鍵を握る“食材”であると指摘されているのだ。

 今のところ、Diploptera punctateという種のゴキブリのみからタンパク質結晶が見つかっているのだが、それというのもこの種の特徴として、赤ちゃんの子育てに熱心であることと関係している。母親は赤ちゃんに栄養補給するために“母乳”を出すのだが、それがタンパク質結晶であり、いわばこれは“ゴキブリミルク”なのである。

 とはいっても抽出した“ゴキブリミルク”をそのまま人間が飲むことを考えているわけではなく、研究チームはこのタンパク質結晶の成分を分析して実験室で再現する試みを行なっているということだ。

「このタンパク質結晶はタンパク質、脂質、砂糖を含んだ“完全食”です。そしてタンパク質の中にはすべての必須アミノ酸が含まれています」と研究チームのサンチャリ・バナジー氏は語る。

 高タンパク、高栄養であるばかりでなく、“腹持ちがよい”こともこのタンパク質結晶の特徴でもあるということだ。タンパク質が消化されると、結晶は消化を続けるために同等の速度でより多くのタンパク質を放出するため消化の時間が長引き、満足感が長続きするのだ。

 腹持ちがよくて栄養価にも優れるということは、食事の量と回数を減らせる可能性も出てくる。ということはやはり宇宙開発の分野でも有効に活用できる“宇宙食”になるかもしれない。食事の量と回数が減れば積荷が少なくて済むことにもなる。

 しかしこの“ゴキブリミルク”の製造が完成した暁にはやはり名称は変更したほうがよいのかもしれない!?

参考:「VTT」、「ScienceDirect」、「Science Alert」ほか

文=仲田しんじ

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