困っている人を見かけて素通りできない人の心理が明らかに!

サイコロジー

 明らかに道に迷っている風であったり、バッグの中の物を路上に散乱させてしまっていたりする人物を街で見かけた場合、あなたは助けの手を差し伸べるだろうか。それが「余計な親切」にならないのかどうかはケースバイケースだが、ついつい手助けしてしまいがちな心優しい人物の心理学的メカニズムが最近の研究でつまびらかにされている。

■見知らぬ人にも親切な人々は友人に恵まれている!?

 何かにつけて悲観的な思考をしがちな人や、心配性の人々も確かに存在する。しかしあえてドライな言い方をしてしまえば、どんなに悲観的であっても自殺をしないで生き続けている限り、わずかではあるにしても将来に何らかの希望を見出していることになるだろう。

 そして実際、社会生活を送る多くの人々には一般的に楽観主義バイアス(Optimism bias)が備わっているとされている。楽観主義バイアスとは漠然とした将来に対して「何とかなるのだろう」、「自分だけは大丈夫」と感じる基本的な思考スタイルである。

 そしてこの基本的な楽観性は、学習においてはポジティブな物事や出来事からはより強い影響を受ける一方、ネガティブなものは無視して影響から免れようとする傾向にも通じている。これを「グッド/バッド・ニュース効果」と呼ぶ。ロンドン大学とオックスフォード大学の合同研究チームが2018年1月に「Psychological Science」で発表した研究では、人間が持つこうした基本的な楽観性が他者の扱いにどう影響しているのかを探った実験を報告している。

 人が基本的に楽観主義者であるとはいっても、富をはじめとする諸条件によってその程度は違ってくるのはある意味で当然だ。一般論として貯金額が多かったり仕事が順調であったりすれば、そうでない人よりもより楽観的になれるだろう。こうした違いは他者を扱う際にもあらわれてくるのかどうか、研究チームは1100人もの実験参加者に対して5つの実験を行なってこの問題の解明に取り組んだ。

 実験では例えば、参加者に友人の不幸を想像してもらった。旅行中に荷物を紛失したり、がんに罹ったり、重要な会議に出席できなかったりというような、友人の生活上の不幸をイメージしてもらってから、個々の具体的な“不幸”がどの程度の確率で起り得るものなのかを評価・採点してもらったのだ。

 こうして友人の不幸を「人ごとではない」ものとして共有した参加者に、研究チームはその友人に個々の不幸が起り得る実際の確率を伝えたのだ。参加者は伝えられた友人の個々の不幸について、それが自分の見込みよりも高かったのか低かったのかに一喜一憂することになる。グッドニュースとバッドニュースをそれぞれ味わうのだ。

 この一連のプロセスを体験してもらった後、再び参加者は友人の不幸について、それが起きる可能性を評価・採点した。こうして収集したビッグデータを分析したところ、他者(友人)についても楽観主義バイアスが働いていることが明らかになったのだ。つまり友人のグッドニュースを聞かされた案件ではより楽観が強まっていたのである。

 これを代理楽観主義バイアス(Vicarious optimism bias)と名づけ、この値が高い人物は友人はもちろん、困っている見ず知らずの人であっても支援の手を差し伸べる可能性が高いということだ。友人から良いニュースを良く聞かされている人物は、困っている人を見かけてそのまま見過ごすことはできないということになる。どうらやら街中の親切な人々は友人に恵まれている存在であるようだ。

■ネット利用時に気をつけたい認知バイアス

 車を運転すると人格が豹変するという、往々にして困った人々がいるが、これはネット上にも存在しているという。つまり普段の人格と“ネット人格”がかなり異なる人々だ。そしてこうした人々はたいていの場合、各種の認知バイアスを伴っているということである。以下、代表的な認知バイアスに簡単に触れてみたい。

●優越性バイアス(Illusory superiority bias)
 我々の多くは何事において自分は平均より優れていると思い込む傾向があり、これは優越性バイアス(Illusory superiority bias)と呼ばれている。オンラインの言動では、特にこの優越性バイアスが強く出やすいということだ。

 かつてスタンフォード大学が行なった有名な研究では、MBA(経営学修士}課程を履修中の学生の83%が自分の成績は平均以上であると考えていることが判明している。また一般的ドライバーの93%が自分の運転テクニックは平均以上であると考えていることも明らかになった。

 加えて、かつてのドイツの研究ではネットユーザーの大半がオンライン上では自分が天才的IT技術者と同等の存在であると考えており、78%のネットユーザーは危険性のあるリンクにアクセスすることはリスクを伴うものであることを知っていながらも、45%は“フィッシングメール”に騙されて悪意のあるサイトにアクセスしてしまうという実態が浮き彫りになっている。

●正常性バイアス(Normalcy bias)
 自分にとって不都合な情報を無視したり、軽く考えてしまう一般的な特性のことを正常性バイアスと呼ぶ。楽観主義バイアスに似ているが、ネガティブな物事を積極的に無視するニュアンスが強い。

 ネット利用の観点からこの正常性バイアスを鑑みると、「自分が被害を受けることはない」とばかりにセキュリティをおろそかにしてしまうことなどがあげられる。

●情報カスケード(Information cascade)
 経済行動学で用いられる情報カスケードとは、自分で独自に評価しようとせず、信頼の置ける先人の評価をそのまま鵜呑みにする行動である。例えばAmazonで商品を選ぶ際、「ベストセラー1位」を深く検討もせずに選んでしまう行為などもこれにあてはまるだろう。

 そしてオンライン活動における情報カスケードは、容易に行動を読まれてしまうというリスクに繋がる。

●感情バイアス(Emotional bias)
 心地良い感情をもたらすほうを選びがちである傾向を感情バイアスという。人情という観点からは誰しも納得できるバイアスだろう。

 より魅力的な人物を好み、より確かな経歴のある人物を信用し、かつての成功例に基づいて行動することはある意味では人間の習性ともいえるが、いわゆる“フィーリング”を優先させた判断には大きな落とし穴があることもまた一面の事実だろう。

 今日の高度情報化社会の中では、完全にバイアスのない感情を排した意思決定を行なうことはきわめて困難であるが、我々が普段考えているよりも多くのバイアスが判断に影響を及ぼしていることをこの機会に確認しておいても損はないだろう。

■新たに“リスト入り”した認知バイアス「スポット効果」とは

 前述のほかにも、自分にとって好ましい仮説や信念を補強する情報ばかりを集め、反証する情報を無視しようとする傾向である確証バイアス(Confirmation bias)や、自分が所有しているものを実際よりも高く評価してしまう授かり効果(Endowment effect)などもまたメジャーな認知バイアスに数えられる。

 そしてこうした主な認知バイアスのリストに新たな“ルーキー”が登場している。スポット効果(SPOT effect)と命名された認知バイアスだ。スポット効果の“SPOT”は、spontaneous preference for their own theoriesの頭文字を取った略語で、人は自分が一度信じたものをずっと信じ続ける傾向があることを示す認知バイアスである。いわば優越性バイアス、確証バイアス、授かり効果の3つを織り交ぜた“自己中心系”の認知バイアスである。

 イギリス・サウサンプトン大学の研究チームが2016年に「Quarterly Journal of Experimental Psychology」で発表した研究では、ユニークな実験を紹介してこのスポット効果の存在を実証している。

 研究チームは実験参加者に、我々の太陽系から遠く離れた生命体が存在する惑星「ワグワールド」の話を語り伝えた。そして参加者は次の2つのうちどちらかをイメージすることを求められた。

●A:ワグワールドにはニフィティスという捕食動物と、ルッピティスというその餌になる生物の2種類の生物が棲息している。

●B:Aのワグワールドの状態はアレックスという人物が主張しているものである。

 この2つの前提のどちらかを選んだ上で、参加者はワグワールドについての追加情報を7つ、順番に知らされることになる。その新たな情報は、「捕食動物のニフィティスの体はルッピティスの2倍以上ある」という前提をサポートするものもあれば、「ルッピティスは死んだニフィティスを食べている」といった最初の前提を揺さぶりかねない情報もあった。そして参加者はそれらの新情報を聞かされるたびに、最初の前提が正しいのかどうかを評価・採点をしたのだ。

 採点データを分析したところ、新しい情報を教えられたとしても、Aの前提を選んだ者は、最初の考えを変えない強い傾向があることがわかった。つまり他の誰か(アレックス)の受け売りではなく、自分がダイレクトに信じている物事はそのぶん、ほかの相反する追加情報を知らされたにせよ信念が揺らぎ難いことが判明したのだ。そしてこうした自説に固執する心理的傾向をスポット効果と名づけたのである。

 それぞれの個人が物事を自己中心的に考える傾向があるというのはある意味で自然なことではあるが、慎重な判断が求められるケースにおいてはこういた認知バイアスの存在を意識してみても良いのだろう。

参考:「SAGE Journals」、「Huffington Post」、「NCBI」ほか

文=仲田しんじ

コメント

タイトルとURLをコピーしました