好きな人にちょっとしたプレゼント手渡したいと考えた場合、どんな品物を選ぶだろうか。祝福を演出する花束か、あるいは舌と目に訴えるスイーツか……。しかし最近の研究では、プレゼントを渡す側と受け取る側ではなかなか気づきにくい認識のギャップがあることが指摘されている。
■プレゼントを渡す側と受け取る側の認識のギャップ
プレゼント選びの最中に頭に思い浮かぶのは、渡す相手の笑顔や驚きの表情かもしれない。渡す側にとっては相手に喜んでもらえることが何よりの報いになるだろう。しかし最近の研究では、相手の喜ぶ顔が見たくてプレゼント選びをすると、皮肉にも受け取る側を満足させない商品チョイスになってしまうというから聞き捨てならない。
シンガポール国立大学と米・シカゴ大学の合同研究チームが2018年6月に心理学系学術ジャーナル「Psychological Science」で発表した研究では、プレゼントを贈る側と貰う側になかなか分かり合えない認識のギャップがあることを報告している。
研究チームはプレゼントの授受に関する6つの調査を行なっている。そこで見えてきたのは以下のようなことだ。
●バレンタインデーのプレゼントで男性の約40%はパートナーに対し、観葉植物ではなく花束を渡している。
●花束を貰って嬉しいのは女性の27.8%にすぎない。
●現金や読みたかった本を貰った場合、感謝の表現は控え目だがその後の満足度は高い。
●クリスマスプレゼントには実用的なツール、例えばコードレス電動ドライバーなどを貰ったほうが満足度は高い。
バレンタインの花束の件が象徴的な例になるのだが、男性は手渡したときのパートナーの笑顔を期待して花束を選び、実際に笑顔を見ることで満足を得ているという。もちろん花束を手渡されて悪い気はしないので女性のほうも“儀礼的”に笑顔は見せるのだろうが、その多くは本当はあまり満足していないということだ。
「良い行いであるにもかかわらず、プレゼントはしばしば間違って選ばれ、受け手は与えられたものに結局のところは満足しません。私たちの研究が示しているのは、渡す側が満足に欠けるプレゼントを選んでしまう主な理由は貰い手の明るい笑顔や喜びの表情を引き出すことに熱心になるからであり、実際には本当に価値のあるプレゼントにはそのような反応とは結びついていないということです」と研究を主導したアデル・ヤン博士は語る。
花束やスイーツの菓子折りを渡したときの反応はそれなりに大きいものになるが実際にはそれほどの満足感を与えてはおらず、逆に現金や実用品、読みたかった本など当人にとって本当に価値のあるものを貰った時の感謝の表現は控え目になるということだ。
もちろんお祝いや差し入れの意味で花束や菓子折りを買って渡すこともあるだろうが、喜ばれるのは一時的にであり、よもや見返りを期待してはならないということにもなりそうだ。
■良いプレゼントと悪いプレゼント
プレゼントにはさまざまな意味が込められ、貰い手側の印象もそれぞれだが、サイエンスに基づいた“良いプレゼント”と“悪いプレゼント”があるという。
●見栄を張る必要はない
高価な品をプレゼントすれは喜ばれるだろうと考えるのも無理はないが、これまでの研究で品物の価格と貰い手の満足度には関係性がないことが報告されている。品物の価格で見栄を張る必要はないのだ。
●“お中元”にしてはいけない
お中元やお歳暮の慣習も少しずつ衰退している昨今だが、サイエンス的にはこのお中元やお歳暮はプレゼントとしては最悪の部類のものであるという。親しい仲であればあまり問題はないのだが、いきなりこうしたプレゼントを贈られた友人知人の中には、何か侮辱されているような気分を抱く者が出てこないとも限らないということだ。なぜならありふれたギフト用の商品は個々の貰い手のことを考慮していないからだ。
●ギフトラッピングは避ける
贈答用の品物の場合、標準でギフト用包装になってしまう場合もあるが、なるべく過剰な包装は避けたい。2012年の米・カーネギーメロン大学の研究では、ギフトラッピングは中身の商品が好みに合っている場合にはプラス要素に働くが、商品が好みでなかった場合、ノーマルの包装の場合以上に不満足感が増すということだ。
●相手が欲しいものをプレゼントする
2011年のアメリカの研究では、プレゼントの贈り手側は突然のプレゼントの効果を過剰に大きく見積もっている一方で、貰い手側は突然渡される何かわからないものよりも、過去に表明した特定の物品をプレゼントされるほうが満足度が高いことが報告されている。
●ギフトカードや商品券を送る
ギフトカードや商品券の類は温かみが感じられない無愛想なプレゼントのような印象もあるが、貰い手側にとってはむしろ嬉しいものである。全米小売業協会の2015年の調査では最も貰って嬉しいプレゼントの1位がなんとギフトカードだったのだ。また別の研究では、ある意味で身も蓋もない話にはなってしまうが、人々の最も嬉しいプレゼントは現金であるという報告もある。
●体験をシェアできるプレゼント
貰い手側が欲しいものを渡すのがプレゼントの原則ではあるのだが、体験や興味関心を共有できるプレゼントは贈り手と貰い手の距離を縮めるものになる。例えば感銘を受けた本や気に入っている愛用の衣類やグッズ(もちろんいずれも新品)、各種の記念品などをプレゼントすることで、うまくいけば相手にとってより身近な存在になることができる。
●長く使える品物
日用品や消耗品、あるいは食品などのプレゼントは有難いことは確かだが、使い切ることで贈り手の印象も薄くなる。2016年のアメリカの研究では、人々は長く使える品物をプレゼントされることを好むことが報告されている。
プレゼントするのなら相手のことを考えて、貰う立場になって品物を選ぶことが肝要ということだろうか。
■バレンタインデーにしてみたい4つのこと
感謝や愛情を伝えるのにプレゼントは効果的ではあるが、あくまでも“モノ”は気持ちの補完物である。ライターのドーカス・チェン=トズン氏がバレンタインにぜひ行なってみたい4つことを解説している。
●体験を共有する
結局のところ人はモノを購入するよりも“体験”を購入するほうが満足できることが数々の研究からわかっている。日帰りの旅行やアミューズメント施設に出かけたり、各種のスポーツやアウトドアアクティビィなど一緒に体験を共有できる時間を過ごす。
●相手が最優先にしていることに応じる
ベストセラー作家で牧師のゲイリー・チャップマン氏によれば、パートナー間で愛を伝える5つの“愛の言葉”があるという。それぞれ、肯定すること、プレゼント、共に過ごす濃密な時間、奉仕の言動、身体接触の5つである。この中でどれがトップにくるのかは人それぞれで、パートナーがどれを最優先に考えているのかぜひとも知っておかなければならない。
そして相手が最優先にしている“愛の言葉”にじゅうぶんに応える日がバレンタインデーであるという。
●パートナーを最大限に気遣う
パートナーに与えることができる最も貴重な贈り物の1つは最大限の気遣いである。一緒にいる間はスマホを手放し仕事のことはいっさい考えずにパートナーとの会話を楽しみ、バレンタインデーを相手をフルに気遣う日にしてみたい。
●近いうちに一緒にしたいことの計画を立てる
バレンタインデー当日を特別には祝わず、近いうちに一緒に叶えたいアクティビティを計画する日にしてしまうのもありだ。旅行の計画を立てたり、コンサートのチケット予約をしてみたりと2人でじっくり話し合ってみるのもよい。これまでの研究でも、近いうちにレジャーなどの予定があると人は幸せな気分で日々を過ごせることが確かめられている。
カップルの絆を深めるのにプレゼントを活用してもよいが、結局のところは共に過ごす時間を有意義に過ごすことにあるのだろう。
参考:「Daily Mail」、「TIME」、「Inc.」ほか
文=仲田しんじ
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