やったぶんだけ実力がつく、本当の意味で身になる学習とはどんなものなのか。最近の研究では本当に身になる学習は、本気を出しても85%までしか正答できない課題に挑むことであるという。
■最適な学習は“85%ルール”にあり
小学校1年生が6年生の勉強をしてみても難し過ぎてチンプンカンプンになるだろうし、逆に6年生が1年生の勉強をしてみれば簡単過ぎて拍子抜けするだろう。この場合、どちらの“勉強”にも学習効果はまったくなく、完全な時間の無駄だったことになる。
最適な学習とはどのような学習になるのか? 米・アリゾナ大学をはじめとする合同研究チームが2019年11月に「Nature Communications」で発表した研究では、最適な学習は“85%ルール”に則っていることを結論づけている。つまり本気で取り組んで85点を取れる課題が最も学習効果が高いというのだ。
研究チームは、さまざまな分野の単純なタスクをコンピュータに教える一連の機械学習実験を行った末に、いわゆる“85%ルール”に辿り着いた。単純なタスクというのはたとえば、手書き数字の写真を奇数と偶数に仕分けたりするシンプルな課題である。
今回の研究はコンピュータは、正答率85%の課題に挑むことで、最も早く効率的に学習できることを証明するものになったのだが、研究チームによればこれは人間にもあてはまるはずであるということだ。
たとえば、放射線科医がレントゲン写真を見て腫瘍を発見するスキルをイメージするとわかりやすいという。
誰が見ても一目瞭然なレントゲン写真ばかりを使って正解率が100%になる課題と、一方で初心者にはほとんど見分けるのが不可能で、あてずっぽうで回答したため正答率が50%になる課題は、そのどちらも学習効果はほぼ何もないことになる。
本気で見分けようと取り組んでも、15%は不正解になる難易度の課題は、答え合わせをした後に不正解だったレントゲン写真を検証することで、実力がアップしていくことになる。各種の資格は“級”が設定されているものが多いが、勉強の際には現在の自分の実力よりもほんの少し上のレベルの問題に取り組むことで、効率的な学習ができるのかもしれない。
■効果的な4つの学習テクニック
学生時代の勉強では蛍光ペンには大いにお世話になったいう向きも少なくないと思うが、ハーバードメディカルスクールの精神科医であるデイビット・トポール氏によれば、蛍光ペンを使った学習は実際にはほとんど効果がないと言及している。
同じようにテキストへのアンダーラインなどもほとんど意味がないと指摘するトポール氏だが、そうしたことをするよりも以下の4つの学習テクニックがより有効であると解説している。
●単語カードを活用した学習
学んだ重要なトピックについて、単語カードの表裏に質問と答え(Q&A)をこまめに記入する。常に携えて定期的に自分に出題することで、記憶から知識を取得し続けることができる。繰り返すことで記憶が定着し、逆にこれまで学んでいないことを特定することができる。
●学習とチェックテストの間隔を空ける
学習した内容を覚えているのかチェックしてみるテストは大切だが、徐々にその間隔を空けることで、新たな学習も捗り1冊のテキストを効率的にマスターしていくことができる。
●復習は順番に行わない
いったん学習した内容において、復習する際には再び順番通りに行うのではなくランダムに行うことで、記憶した情報を運用する能力が向上するということだ。
●学習でも“なぜ?”を常に自分に問う
“丸暗記”は直前の試験対策としては即効性のある学習方法だが、将来的な学習の幅を広げるためにも、常に“なぜ?”を自分に問い続けることでさらに理解が深まる。
たとえば読んだ文章の内容について「今学んだ新しい事実は何か」と自問し、 さらに「これらの新しい事実はすでに知っている事実とどのように関係しているのか」、「内容の主なテーマは何か」「これらのテーマはなぜ重要なのか」などの問いを自分の中で発することができる。
このように学習を単調に行うのではなく常に自分に出題し、時間を置いて復習し、“なぜ?”と問いかけることで“試験勉強”を超えた未来志向の学習に繋がるのだと言えそうだ。
■記憶力を高める4タイプのフードアイテム
良好な記憶力を保つには、もちろん健康な脳の状態と、総じて心身のコンディションを良好に保つことが求められる。脳と心身の健康のためには適度な運動も重要だが、それに勝るとも劣らず重要なのが食べ物だ。記憶力を良好に保つ4つのタイプの食品があるといわれている。
●アブラナ科野菜
野菜全般は脳の健康に資するが、特にブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科野菜(cruciferous vegetable)が良好な記憶力の維持・向上のためにも奨励される。ケールやカラードグリーンもよいということだ。
●ベリー類
特にブラックベリー、ブルーベリー、チェリーなどの色が濃い品種は、アントシアニン(anthocyanins)や記憶機能を高める効能があるフラボノイド(flavonoids)が豊富である。一握りのベリーをスナックやシリアルに混ぜたり、焼き菓子の具材として混ぜて楽しんでもよい。新鮮なものはもちろん、冷凍ものや乾燥したベリーやチェリーからこれらの効能を享受できる。
●オメガ3脂肪酸
サケ、クロマグロ、イワシ、ニシンなどの魚介類と藻類に豊富な脳の健康に不可欠なオメガ3脂肪酸(omega-3 fatty acids)とドコサヘキサエン酸(DHA)は、記憶力の維持・向上のためにも適切に摂取したい。1週間に2度ほどは食事を魚介中心のメニューにすることが推奨されている。魚が苦手な向きにはDHAのサプリメントも有効だ。
●クルミ
クルミは心臓の健康に良い影響を与えることでよく知られているが、認知機能を改善する可能性もまた秘めている。日中の空腹を満たすために一握りのクルミをつまんだり、細かく砕いてオートミールやサラダに加えたり、野菜炒めに混ぜるタンパク源として活用してみてもよい。
もちろんこれらのフードアイテムを食べたからといって明日、すぐに記憶力が高まるわけではないが、食習慣として続けることで脳の健康にポジティブな影響を与えることになる。長期的な視点に立って継続的にこれらのフードアイテムをうまく摂取していきたいものだ。
参考:「Nature」、「Harvard Health Publishing」ほか
文=仲田しんじ
コメント