ストレスを感じる要素に満ちた作業環境では良い仕事をするのは難しい。しかしながら最新の研究では、適度な不安や懸念が作業のパフォーマンスを向上させるケースがあることを報告している。
■職場での心配事がパフォーマンスを向上させる!?
気を紛らわすものや不安を抱かせるものがない環境で伸び伸びと仕事に励みたいものだが、もしストレスがまったくない状況になったら仕事に身が入るだろうか? 最新の研究では適度なストレスや懸念が逆にモチベーションと生産性を高めることが指摘されている。
カナダ・トロント大学の研究チームが2018年4月に学術ジャーナル「Journal of Applied Psychology」で発表した研究では、職場での心配事(workplace anxiety)は必ずしも常に悪いものではなく、時には作業パフォーマンスを向上させる働きをもたらしていることを明らかにしている。
職場でのストレスは作業能率の低下や従業員の人間関係を悪化させたりとさまざな問題を引き起こすのだが、研究チームは職場の心配事を2つに分けることでより、職場のストレスのより深い理解に取り組んだ。1つは個人の性格によって受け止め方が違う心配事で、もう1つは具体的な課題に関連した心配事である。
どのような種類の職場の心配事がどのような結果をもたらすのか、またどのようなタイプの従業員が特定の懸念にストレスを感じやすいのかなどを分析・研究した結果、一部の従業員は職場の心配事や懸念によって、仕事のパフォーマンスを向上させていることが判明した。
ストレスをモチベーションに変えることのできる従業員は、EI(心の知能)指数が高く自分を律することができる性格特性を携えた人物だ。
「結局のところ、もし心配事がまったくない環境に置かれたら、パフォーマンスを重視しなくなって、仕事へのモチベーションを失うでしょう」と研究を主導したボニー・チェン助教授は語る。
また研究では具体的に職務においてどのような要素がストレスになっているのかをいくつか特定している。それによればサービス業での「常に笑顔でいること」や、シビアな納期の設定、組織図の頻繁な変更などが職場のストレスの“主犯格”ということだ。
組織に向けてのアドバイスとしては、経営側は従業員の自信を高めるための講習会を定期的に開催したり、機材や道具を見直すことなどが提案されている。ストレスとうまく付き合いながら日々の仕事に励みたいものだ。
■ネガティブシンキングの3つの効能
心配事や懸念を完全に排除しようとしなくてもよいことになるのだが、最悪の事態をも想定する“ネガティブシンキング”も思いがけない効能があるという。ライターのAJ・ウォルトン氏は意思決定に有効に機能するネガティブシンキングの3つのコツを解説している。
1.選択肢を狭める
ポジティブシンキングでは選択肢は広ければ広いほど良いということになるが、ネガティブシンキングでは選択肢をなるべく狭めていく。選んだものが少ないほど、そこへ時間と労力を集中的に投入できることになる。
どれほどバスケットボールが好きで将来はブロ選手になろうと熱心に練習しても、明らかに身長が低ければまず間違いなく“無駄な努力”に終わるだろう。バスケットボール選手になる選択を排除していたならば、その練習時間をほかのことに使えたのである。
夢を諦めるということではなく、自分にとって意味と意義のあることに時間と労力を割いたほうが実りある結果に繋がりやすい。
2.期待は低く
ポジティブシンキングのもうひとつの大きな落し穴は、何かにつけて期待が膨らんでしまうことである。しかし期待が膨らんでも現実は変わることはない。そして往々にして失望感を味わうことになるのだ。
したがってネガティブシンキングでは期待はなるべく低く持っておくことで意味のない失望感を感ぜずに済む。期待が満たされたかどうかを幸福感の判断基準にすることをやめることができれば、不幸の最大の発生源から解放されることになる。そして目の前の現状のもので満足することを学ぶのである。
夢は大きく理想は高く、というのは健全でポジティブな発想ではあるのだが、何事においても期待や予断を持たずに事に当たれば、過程と結果をありのままに楽しめるのだ。
3.“最悪シナリオ”を詳細に検証する
リスクを無視し、見落としがちなポジティブシンキングに対し、ネガティブシンキングでは“最悪シナリオ”をなるべく詳細に検証することでリスクに備える。
そもそもリスクをとる行為は、往々にしてそのリスクの危険性を軽視しているからこそとれるものだ。したがってネガティブシンキングではリスクをとる以上は、“最悪シナリオ”を正確に見定めることが重要だ。
ポジティブかネガティブかという態度そのものが結果に影響に及ぼしているわけではないが、成功のために計画を練るにあたって、現実を軽視したポジティブシンキングを採用するのは確かに愚かなことだろう。
極論すればネガティブシンキングというよりもリアリスト思考ということになるのだが、この3つの点を考慮することで、面白いことにネガティブシンキングは積極的かつポジティブな意味合いを帯びてくるのである。
■「ファ●ク」を連発する人はボキャブラリーが豊かで表現力に優れていた
ネガティブな言葉の代表格と言えば「ファ●ク」や「シ●ト」、日本語ならさしずめ「クソッ」、「ちくしょう」といった悪態の言葉の数々だ。アメリカのドラマを見れば、ある種の登場人物からこうした言葉が連発する光景を目の当たりにするが、その人物のファンでもない限りは総じて良い印象を受けることはないだろう。
そして何かにつけてこの種の言葉を口にする人物はボキャブラリーが貧困で頭が悪いのではないかという疑惑が生じても不思議ではない。しかし驚くべきことに、こうした悪態の言葉を頻繁に口にする人物は、イメージに反してボキャブラリーが豊かで言語運用能力に優れていることが2015年の研究で報告されている。
アメリカのマリストカレッジとマサチューセッツ・カレッジ・オブ・リベラル・アーツの合同研究チームの最初の実験では、18歳から22歳の43人(男性13名、女性30名)に対して、60秒間の間にできるだけ多くの悪態の言葉を口にしてもらった。各人のスコアを記録した後、同じように今度は60秒間でできるだけ多くの動物の名前を口にしてもらった。そして最後に言語表現の流暢度を測定するテスト(FAS)を受けてもらった。
2回目の実験では、18歳から22歳の49人(男性15名、女性34名)に対して、今度は筆記で60秒以内に悪態の言葉をできる限りたくさん記してもらった。続いて動物の名前も60秒間でできる限り多く筆記してもらい、最後は同じようにFASテストを受けてもらった。
収集したデータを分析した結果、口頭であれ筆記であれ悪態の言葉を多く表現できたものほど、全体的な言語運用能力が高い顕著な傾向が浮き彫りになった。表向きはタブーとされている“四文字言葉”を躊躇なく表現できる性格特性と、言語流暢性との間にポジティブな関係があると結論づけられたのだ。
「頻繁な“四文字言葉”は、ボキャブラリーの貧困さをカバーするというよりもむしろ、優れた言語運用能力の指標と考えたほうがよさそうです」(研究論文より)
さらに悪態の言葉を多用する人物は、言葉の微妙なニュアンスの違いを使い分けていて、表現力も豊かであるということだ。
もちろん実験参加者も少なく、制限のある研究結果にはなるが、頻繁にネガティブな悪態をつく人物ほど実は知的であるとすればなかなか興味深い話題である。だからといって、公の場で品格を疑われる言動はくれぐれも避けたいのものだが……。
参考:「University of Toronto」、「Lifehack」、「ScienceDirect」ほか
文=仲田しんじ
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