勉強後すぐに運動しないほうがいい!? 科学的な記憶力増進法3選

サイエンス

 刻々と状況が変化するビジネスの最先端では、かつて直面したことのない新しい事態に対処しなければならないこともあるだろう。齢を重ねて“頭が固い”人になってはいられないのだ。

■中高年期のカフェインと認知機能の関係が明らかに

 加齢による認知機能の低下は避けられないものではあるが、最近の研究ではコーヒーや紅茶などでカフェインを日常的に摂取している人々は、加齢による記憶力の衰えをかなり食い止めていることがわかっている。

 米・ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の研究チームが学術誌「Gerontology:Biological Sciences」に発表した論文では、コーヒーやお茶を飲む習慣のある女性は認知機能が衰えにくい傾向があることが報告されている。これは調査開始時点で脳機能にまったく問題のない6467人の閉経後の女性を10年にわたって調査したデータから判明した。

 実験参加者の女性は毎年認知機能テスト受け、その時の生活の状態を反映する詳しいアンケートに答えた。するとコーヒー、お茶、コーラなどで、1日261mg以上のカフェインを摂取している人は、認知機能テストの成績が下がりにくい傾向があることが分かったのだ。261mgのカフェインは、大きめのカップ(8オンスカップ)のコーヒー3杯分、紅茶ならティーカップ6杯分が目安となる。コーヒー好き、紅茶好き、そしてもちろん日本茶好きにとっては心強くなれる話題ではないだろうか。

 カフェイン摂取と認知機能維持の関係は、以前から指摘されていのたが今回、初めての大規模な調査によってその関係性が裏付けられることになった。また男性についてもこの傾向は報告されており、ヨーロッパ人男性を対象にした調査では、1日3杯以上のコーヒーを飲む男性はほとんど飲まない男性よりも10年後の認知機能の低下がゆるやかであったということだ。

 1日3~4杯のコーヒーを飲む習慣はなかなか好ましいということになるが、もちろん砂糖の量には留意したい。健康のことを考えるならブラックで飲むのがベストであることはいうまでもない。さらにカフェインの摂りすぎにも注意すべきである。コーヒーや紅茶を飲む習慣を持つ者が、それに加えて最近人気が高まっているエナジードリンクを飲む習慣をつけてしまうのは、カフェインの過剰摂取となって健康に悪影響を与えるリスクが高まるということだ。この2点に配慮して日常的に“お茶の時間”を楽しみたいものだ。

■学習後にすぐに運動しないほうがよい

 運動もまた記憶力と記憶の定着を向上させる効果があることが知られているが、最近の研究では学習後にしばらく時間を置いてから運動することで、さらに学習の効果が高まるという興味深い研究結果が報じられている。

 オランダ・ラドバウド大学メディカルセンターのギレン・フェルナンデス博士が主導する研究では、72人の実験参加者を3つのグループに分けて、記憶と運動、そして運動を行なうタイミングについての関連を探る実験を行なった。

 実験参加者は全員、90種類の写真とその位置を覚える学習を40分間行なった。Aグループは学習後、すぐにジムでマシン運動を35分間行い、その後休憩室で環境映像などを眺めながら静かに過ごした。

 Bグループはこれとは逆に、学習後に休憩室で4時間休んた後、35分間の運動を行なった。そしてCグループは学習後にまったく運動をせずにずっと休憩室にいた。ちなみに実験ではより正確なデータを取るために、各グループを2つに分けて、午前9時と正午の2回、それぞれの実験が行なわれた。

 実験参加者は2日後に再び実験室に集合し、先に学習した内容をどの程度記憶しているのかを明らかにする検証テストを受けた。すると、学習後にいったん休憩してから運動を行なったBグループの成績が最も良かったのだ。そして意外だったのは、僅差ではあるもののまったく運動をしなかったCグループの成績が2番目に良く、学習直後に運動をしたAグループが最下位であった。Bグループの優秀さは、検証テストの成績だけでなく、MRIによる脳の診断でも明らかになったということだ。

 Bグループは学習を終了して約4時間後に運動をはじめたのだが、この休憩時間内に記憶力の向上に関連していると考えられる神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンの生産がじゅうぶんに行なわれ、記憶の定着に有効に働いているのではないかと考えられるという。しかし、このメカニズムをクリアに裏付ける説明はまだ見つかっていないということだ。

 学習後、どのくらいの時間を置くのが“ベスト”なのかなど、まだまだ今後の研究が必要とされているが、記憶と運動の関係性がさらに詳細にわかることで、学校の時間割の作成などに活用することができる有望な研究であることは間違いないだろう。資格取得の勉強などを行なっている向きは少し気に留めておいてよい話題ではないだろうか。

■その時の“気分”で記憶力が異なってくる

 カフェインを摂取する習慣をつけることや運動することなどが、すでに日常生活の一部になっていれば問題ないのだが、そのどちらにもまったく無縁であれば、認知機能の維持向上のためとはいえ新たに習慣づけるのはそれなりにハードルが高いものになるだろう。

 しかしこれらの手段と比較すればかなり容易な記憶力増強法も発見されている。それは憶えておきたい物事にポジティブな気分で接することだ。いわば好奇心旺盛な態度で学習に取り組めば、おのずから記憶力は高まるということである。

 スペイン・バルセロナの研究機関、IDIBELL(Institute of Biomedical Research of Bellvitge)とバルセロナ大学の合同研究チームによれば、報酬を与えることで気分がポジティブになった状態で行なう学習においては記憶力が確実に向上するという。

 研究チームのハビエラ・オイアルツン氏によれば、記憶のメカニズムの重要なポイントに脳の分類(ソート)能力があるということだ。例えば犬を見て動物、石を見て物体、と見たモノを脳は瞬時に分類しているのだが、興味をひくモノであればそれだけ脳内に強い刺激が生じて忘れ難い体験となることは誰もが理解できるだろう。

 例えば帰宅への道すがら、普段と特に変るところがなければ周囲で何が起っていたのか後で思い出すのはきわめて困難だが、途中で吉報を告げる電話があったり、あるいは交通事故を目撃してしまったりした場合などは、その時のディテールを後からでも良く思い出せる。このような時は、出来事の内容に関わりなく、現実に強くコミットしようとして気分がポジィティブになっているのだ。そしてこのポジティブな気分の状態こそが、記憶力を向上させ、記憶の定着化を促しているということである。

 実験で参加者は「物体」と「動物」の2つのカテゴリーの画像を見てもらって次々に分類する作業を行なった。その際、「動物」画像があらわれてそれを「動物」に分類すると金銭的報酬が与えられるようにしたのである。すると予想通り、「動物」画像のほうをより良く記憶できていたということだ。金銭的報酬によって「動物」画像に対してポジティブな気持ちになれたことが大きな要因である。

 さらに面白いのは、ポジティブな気分で記憶したことの効果は24時間以内ではあまり見られず、一晩眠った後で目立って効果が現れたということだ。これは睡眠の間に脳の中で記憶の定着化が行なわれているからであるという。

 記憶のメカニズムから説明すれば、脳は長期記憶へと定着させる情報に優先順位をつけて上から順番に記憶しており、ポジティブな状態で受け取った情報ほど優先順位が高くなるということになる。もちろん起きている間じゅう、ずっとポジティブな気分でいることは出来ないし必要もないことだと思うが、重要な情報に直面する時には感性を鋭くし興味を持ってポジティブな気分で受け止めたいものである。

参考:「Psychology Today」、「Live Science」、「Science Daily」ほか

文=仲田しんじ

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