“副業先進国”アメリカのWワーカーの実態とは?

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 いわゆる「働き方改革」における一連の流れの中で、ご存知のように正社員の副業を解禁している民間企業が増えている。長らく日本の企業文化にはなかった“ダブルワーク”だが、副業を持つことで勤労者の生活にどのような影響を及ぼすのか? 一足先にWワークが普及しているアメリカの研究が注目を集めている。

■Wワーカーは複数の仕事に優劣をつけていない

 最近の調査によればアメリカ人勤労者の720万人が2つ以上の仕事を掛け持ちしているという。特に男性勤労者の50%が2つ以上の仕事に従事しているのだ。月夜の時間にも働いているという意味でムーンライター(moonlighters)と呼ばれるWワーカーは平均に週46.8時間の労働をしており、アメリカ人の平均労働時間である38.6時間よりも8時間以上も長く働いていることになる。

 米・ボールステイト大学の研究チームが2018年5月に「Journal of Business and Psychology」で発表した研究では、こうしたWワーカーの実態を調査している。研究チームはWワーカーのそれぞれの仕事に対する勤労意欲(work engagement)を調査することに加え、実際の勤務態度を専業労働者と比較した。

 研究の結果、Wワーカーは複数の仕事に優劣をつけていないことが浮き彫りになった。「副業」はメインではない仕事を意味する言葉だが、イメージに反して多くのWワーカーはどちらの仕事も同じように“メイン”であると考えている傾向があるのだ。

 したがってWワーカーはどちらの仕事に対しても高い意欲を持ち、勤務態度についても専業の社員に何ら変わるところはないということだ。企業側がWワーカーは勤労意欲が低く職務を怠りがちになるのではないかと考えるのも無理はないが、実際にはそんなことはなかったのだ。企業にとってWワーカーを雇用することに懸念を挟む必要はないことになる。

 しかしWワーカーのリスクは別の所にあった。それは家族への影響である。総労働時間が長いWワーカーは当然のことながら家族と一緒に過ごす時間が少なくなる傾向にあるため、家族との軋轢が発生しやすくなっている実態もまた今回の研究で明らかになった。

 こうした実態から研究チームは企業はWワーカーを雇用することに何ら懸念を抱く必要はないものの、彼らの家族生活について配慮し、労働時間に制限を設けたり有給を取りやすくするなどの措置が企業には求められていると提言している。

 副業を解禁することで皮肉にも“モーレツ会社員”が復活してしまうのは本末転倒ということにもなるだろう。これからWワークが本格化する日本社会にあって気に留めておきたい話題だ。

■趣味と実益を同時に叶える副業

 報酬がそれほど良くなくとも副業として就業希望者が絶えない職種があるという。それはジムやフィットネスクラブなどのインストラクターだ。

 豪チャールズ・スタート大学のジェニファー・サペ氏とクイーンズランド工科大学のグレンダ・マコナチー氏の合同研究チームは、1993年から豪クイーンズランドのジムやフィットネスクラブで働くインストラクターを調査している。

 ジムやフィットネスクラプなどのインストラクター職は、総じて賃金をはじめ待遇や労働条件があまり良くない職種であると見なされているのだが、それでもなぜか就業希望者が多いという。希望者の大半はパートタイム勤務を希望する副業としての就業希望者だ。

 研究チームが2008年と2009年に再びアンケート調査をしたところ、お金を稼ぐことを目的にフィットネス産業に従事している者はたった5%しかいないことが浮き彫りになった。それどころか、フィットネス産業従事者の58%は年に1000ドル(約11万円)以上の“自腹”を切って、ウエアやシューズ、スポーツ傷害保険などの費用を自己負担していることも判明した。つまりインストラクターであり続けることのコストを認めているのである。

 なぜ副業としてのインストラクター職に人気が集まるのか? もちろんジムで身体を動かすことが単純に好きであり、人に教えることも好きだということがまず第一にくるだろう。研究チームがさらにインストラクターたちから話を聞くとあるひとつのモデルが浮かび上がってきた。それは最初は会員としてジムに通っていた、いわば“卒業生”であるということだ。つまり自分の“成功体験”を人々に伝えて賞賛を受け、フットネスの世界の中での地位向上に繋げたいという思いもまた、インストラクターを副業に持つ理由になっているのだ。ある意味ではもはや仕事という概念から逸脱する副業であるとも言える。

 こうしたジムのインストラクターのような社会的な承認欲求を満たす副業は、ほかにも各種の講師やモデルやエキストラ、ダンサーなど探せばいろいろと見つかりそうだ。お金のために余計に働く必要のない恵まれた人々はこうした副業で趣味と実益を同時に叶えてみてもよいのかもしれない。

参考:「Springer」、「JSTOR Daily」ほか

文=仲田しんじ

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