初見の人物はその“第一声”で印象が決まる!?

サイエンス

 見た目の第一印象は人物評価においてきわめて大きな役割を果たすといわれているが、その“第一声”もまた実に重要であることがサイエンスの側から報告されている。我々は初対面の人物のたった一言の声でその人物を評価・判断しているというのだ。

■“第一声”で印象が決まる

“第一声”を聞いただけでその人物の印象の大部分が決まってしまうことが最近の研究で報告されている。

 スペインのポンペウ・ファブラ大学の研究チームが2019年1月に「Scientific Reports」で発表した研究では、挨拶の言葉だけでその人物のパーソナリティーを判断してもらう実験を行なった。

 279人のスペイン人男女(平均年齢20歳)が参加した実験では、録音された64人のスペイン人の「オラ(Hola)」という音声と、同じく64人のスコットランド人の「ハロー(Hello)」の音声を聞いてそれぞれの声の持ち主の性格特性をジャッジする課題が行なわれた。評価する性格特性は信用度、支配力、有能さなどである。

 それぞれの“第一声”に対する参加者の評価はきわめて似通っていて、聴き手にとっての外国語(英語)の音声でも参加者の評価は似ていた。かつての研究では、我々は母国語を話している話者の方が知的で親切、さらに有能に感じられるという報告もあるのだが、今回の研究では少なくとも挨拶というソーシャルな発言においては外国語話者においてもその印象には違いがないことを示している。

 進化人類学的に我々は初対面の者に出会った時に、その人物に“近づくのか離れるのか”を素早くジャッジしているといわれている。この時の判断材料はビジュアル面が占める割合が大きいが、声もまた重要な判断材料になっているのだ。たった一言の挨拶の言葉だけで、信頼できて温厚で魅力的な存在であるのか、それとも支配力が強く攻撃的で敬遠すべき存在なのか、そのどちらであるのかを参加者はすぐさま判断していたのである。

 したがってソーシャルな発言から受けるその人物の印象には言語や文化を越えた普遍的な要素があることが示唆され、その一方でソーシャルではない発言については言語や文化的バックグラウンドによる認識の違いがあることも示されることになった。ともあれ我々は“第一声”にきわめて敏感で素早い評価を下しており、そしてもちろん自分の発言もそのように周囲からジャッジされていることも忘れてはならないだろう。

■子どもは母親の声で目覚めやすい

“第一声”は何かと大きな意味を持つものであることが指摘されているのだが、直接命に関わってくる声が避難勧告などの警報を告げる声だ。例えば就寝中の夜中に起きた火災では目覚めるのが遅れるほどに被害に遭う確率は当然高まる。

 特に子どもは成人より眠りが深く、音声だけではなかなか起きられないことから、親をはじめ周囲のサポートが必要になる。米・オハイオ州立大学医学部の研究チームが2018年10月に小児科系ジャーナル「Journal of Pediatrics」で発表した研究では、就寝中の子どもたちに有効なアラーム音声を探る実験を行なっている。

 5歳から12歳の児童176人が参加した実験では、子ども部屋を模した研究室で実際に眠った子どもたちが4つの音色の火災警報器でどのように目覚めて避難するのかを観察した。

 警報機の4つの音色とは、警告アラーム音のみのものと、母親の3パターンの声であった。3パターンの声はそれぞれ、母親が子どもの名前を呼ぶ声、「起きなさい! 逃げなさい!」と叫ぶ声、そして名前も避難勧告もどちらも含まれた音声であった。

 実験の結果、アラーム音だけではなかなか起きられないことが明らかになった。母親の声では子どもたちの90%が目覚めたのに対し、アラーム音で起きられたのは53%にとどまった。そして5分以内に避難して部屋を出た確率は、母親の声の場合は85%で、アラーム音では50%に過ぎなかった。

 人間の脳は自分の名前を呼ばれると特定の反応を見せることから、母親に子どもの名前を呼ぶ音声が用意されたのだが、名前を呼んでも呼ばなくても、母親の声に対する反応に違いはみられなかったということだ。

 目覚まし時計でも単純なアラーム音は子どもにはあまり有効ではないということになる。こうした研究を通じて、子どものみならず大人にとっても効果的な警報メッセージが特定できれば防災に役立つだろう。

■明瞭に話せば相手の記憶に残りやすい

 単純な音声よりも人間のボイスメッセージはより我々の注意を喚起するのだが、スピーチなどでより効果的に話した内容を印象強く憶えてもらうにはどうしたらよいのか。それはハッキリと明瞭に話すことであると最近の研究で報告されている。

 テキサス大学オースティン校の研究チームが2018年11月に「The Journal of the Acoustical Society of America」で発表した研究では、話し方のスタイルが聴き手の記憶にどのような影響を及ぼしているのかを実験を通じて探っている。

 実験ではそれぞれ30人の英語ネイティブと非ネイティブの参加者に、話者によって口頭で72の短いセンテンスの文言が伝えられた。センテンスは例えば「祖父がコーヒーを飲んだ」や「少年が重い椅子を運んでいる」というような、あまり印象深くないニュートラルな内容である。

 話者は文言を読み上げる際に、話し方を2つのパターンで行なった。1つはなるべくはっきりと正確な発音でゆっくり明瞭に話すスタイルである。もうひとつは家族に話すようにカジュアルで力を抜いた話し方である。

 話者から一連の文章を聞かされた参加者は、その後文章を思い出してもらう課題に挑んだ。手がかりとなる文中の単語がひとつ伝えられ(例えば祖父、少年)、文章全体を思い出して書き記すことが求められたのだ。

 回答データを分析した結果、ネイティブでも非ネイティブでも明瞭に話した話者から聞かされたグループのほうが文章をよく憶えていることが判明した。同研究チームの以前の研究である「明瞭に話された文言の内容はよりよく理解できる」という研究結果にも沿うものにもなった。

 研究チームによれば、力を抜いて発音に気を配らずに早口で語られる話の内容は理解するのにより多くの脳のリソースを必要とするので、記憶定着に割ける“脳力”がそのぶん減っているからであると説明している。

 この研究結果は口頭で人に話を伝える立場にある人には広く参考になる話題となるだろう。さらに明瞭に話すことは話者本人の記憶力も向上させている可能性もあるということだ。気心の知れた仲間とのリラックスした会話であればともかく、社会生活の中ではわかりやすく明瞭に話すことが求められているようだ。

参考:「Springer Nature」、「Elsevier」、「Acoustical Society of America」ほか

文=仲田しんじ

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