嘘つきや詐欺師には間違っても近づきたくはないものだが、ある種の人々はこの詐欺師に思わず注目してしまうという。驚くべきことに“詐欺師”を必要としている人々がいるというのである。
■“詐欺師”を必要としている人々がいる?
いわゆる“オレオレ詐欺”や組織人の汚職、横領などのニュースが絶えない昨今だが、普通は誰しもそうした詐欺師や嘘つきと接点を持ちたくはないものだ。しかしその一方で詐欺師に惹かれ、ある意味では必要としている人々もまた存在するというのは興味深い。
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスとジョンズ・ホプキンス大学の合同研究チームが2019年5月に「Organizational Behavior and Human Decision Processes」で発表した研究では、実験を通じて人を欺く能力が、場合によってはビジネスの世界での有能さとして認識されていることを報告している。
実験ではまず人々が各種の職業にどのようなイメージを持っているのかを探っている。抽出した32の職業についてその“売り込み度(selling orientation)”、つまりセールスの能力が必要とされる度合いを人々に評価してもらった。
回答データを分析した結果、売り込み度の高い職業に投資銀行業、広告代理店業、セールスマンが挙げられ、逆に売り込み度の低い職業に、コンサルタント業、NPO運営業、会計士がリストアップされた。続いてこの後、これらの職業に携わる人々の嘘つき度(詐欺師度)、あるいは誠実度を評価してもらった。
最後に実験参加者にはこれらの職業に携わる人が成功する可能性、有能さ、そしてもしあなたが経営者だった場合には雇用したいかどうかについての回答が求められた。
収集した回答データを分析したところ、人々の認識として詐欺師的人物は売り込み度の高い職業で成功しやすく、同じく詐欺師的人物は誠実な人物よりも仕事面で有能で、成功しやすいと見られていることが明らかになったのだ。
そしてもし売り込み度の高い業種の経営者であった場合、誠実な人物よりも有能な詐欺師的人物を雇用する気持ちが強いこともまた判明した。つまりある種の経営者からは詐欺師的人物が必要とされていることになる。
研究チームはこうした人々の認識が、依然として現在のビジネスの現場から時にはトラブルとなる詐欺的な売り込み商法がなくならない原因であると指摘している。顧客から長期的な信頼を勝ち得るためには、詐欺師まがいの販売や営業に頼ることがあってはならず、またこうした人物を雇うことを厳に戒めなければならないと警告している。
ある種の“ブラック企業”がなくならないのもこうした背景があるからだろうか。詐欺師と有能なビジネスマンの違いを見分けられる目を持ちたいものだ。
■見つめ合った状態ではウソがつきにくい
“目は口ほどにものを言う”という言葉あるように、“目”は見る者に強い印象を与える。防犯ステッカーとして有名ないわゆる「見てるぞステッカー」には歌舞伎役者のような目のイラストが描かれているのはご存知の通りだ。このように強いインパクトがもたらされる鋭い視線を受けながら話すと、ウソがつきにくくなることが最近の研究で報告されている。
フィンランド・タンペレ大学の研究チームが2018年11月に「Consciousness and Cognition」で発表した研究では、お互いに目を見つめ合いながら話すことで、詐欺的な言辞が減ることが報告されている。相手から目を見られ、結果的に目を見つめ合いながら行なうコミュニケーションではウソがつきにくくなるのだ。
19歳から37歳の51人が参加した実験では、1対1で面と向かって行なう“ウソつきゲーム”がプレイされた。相手側からは見えないノートPCのスクリーンに表示された丸印の色をお互いに相手に伝えるのだが、正直に伝えても良いしウソの色を言ってもよい。そして相手の発言が本当なのかウソなのかを交互に判断するのである。相手のウソを言い当てたとき、自分のウソを相手に信じさせたときには得点となり、その逆は減点となる。そしてゲームの最中に2人の対戦者はどれくらいアイコンタクトを行なっているのかも観測された。
一連のゲームプレイのデータを分析したところ、お互いの目を見つめている状態では、丸印の色についてウソを言う確率が顕著に低くなっていることが突き止められた。相手からジッと目を見られ、結果的に見つめ合った状態ではウソをつきにくくなっているのである。
研究チームは相手の目から脳はさまざまな情報を読み取ろうとするので、それだけで脳のリソースが使われてウソをつく“余裕がなくなる”と説明している。ウソをつけば後から辻褄を合わせたりする必要も生まれてくるため、それなりに脳を働かせなければならない。したがって目を見ながらウソをつくと脳にかなりの負担になるのである。
ウソをつかれたくないと思えば、先方の目をなるべく見るようにすれば相手はウソを言いにくくなるということになる。しかし逆にウソをつく側は、大変ではあるが相手の目を見ることを前提にウソをつけば信用されやすくなるとも言える。聞く側以上に話す側のほうから積極的に目を合わせてくる場合には注意が必要なのかもしれない。
■初対面で誤解されかねない3つのボディランゲージ
相手の目をあまり見ないで話したり、逆に不自然なまでに強い視線を投げかけると相手に不信感を与えるかもしれないのだが、当人にはそんなつもりもないのに、相手に思わず不信感を抱かせてしまう“仕草”もあるという。対人交流スキルについての著作と記事を手がけている作家のバネッサ・バン・エドワーズ氏が、初対面の相手に誤解を抱かせてしまうリスクのある、ありがちなボディランゲージを3つ解説している。
●手を隠すこと
初対面の人物には顔を中心とした外見にまず目が向くが、我々の脳は相手の手もまたよく見ているということだ。話すときに手振りが多い人もいるが、実際に脳には話者の手や指の動きから意図を汲み取ろうとするメカニズムもあるという。
したがって腕を組んで手を隠したり、ブランケットの下に入れたり、ポケットに突っ込んだりなどしていると、意図を読み取りにくくなり、不審や懸念を招きかねないということだ。
エドワーズ氏によれば手は常に相手に見せることが原則で、大きなボールを両手で抱えるかのように、手の平を上にして45度の角度で傾けて見せるのが基本であるという。こうすることでオープンな性格だと認識され、より信頼されやすくなるということだ。そして会議やプレゼンなどでは身振り手振りを多く交えることを心がけてみたいということである。
●無意識で行なう“自己癒し”の動作
ちょっとした刺激やストレスを受けた時、あるいは何か手持ち無沙汰だったりする時に、無意識的にしてしまう動作があるかもしれない。例えば爪を噛んだり、鼻をすすったり、頭をかきむしったりといったこの種の動作は“自己癒し(self-soothing)と呼ばれ、当人はほぼ無意識で行なってしまうのだが、初対面の人からすれば気になったり、不快に感じたりするリスクがあることを良く理解すべきである。したがってまずは自分がどんな“自己癒し”行為を行なっているのかを正確に把握することが重要だ。
そしてエドワーズ氏によればこうした“自己癒し”を初対面の人物に会う前や、会議での発表の前に前もってトイレなどで存分に行なってしまうことを推奨している。
●フェイク笑顔
なるべく好印象を与えたいとの思いから、初対面の人物に対して笑顔で接したいと考えるのは人情ではあるだろう。しかし我々は無理に作った笑顔である“フェイク笑顔”には敏感に気づくことができ、無理に笑顔を作っているとわかればその“戦略”は逆効果になる。一説では“本物の笑顔”は我々の87%が特定できるという。裏返せば“フェイク笑顔”もかなり正確に気づくことができるのだ。
エドワーズ氏によればどうせバレるのであれば初対面の人物の前で“フェイク笑顔”を見せるべきではないという。実際に何かネガティブなことがあって、自分が暗い表情をしていることを自覚している場合は、いっそのこと手短にそれを正直に伝えてしまってもよいのかもしれない。
初対面だからといって自分を飾ることなく接することで、結果的には信頼関係が築けるということだろうか。
参考:「ScienceDirect」、「ScienceDirect」、「CNBC」ほか
文=仲田しんじ
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