大空を自由落下する究極のスカイスポーツであるスカイダイビングは恐怖か快楽か? 最近の研究でスカイダイビングはギャンブルと同等の快楽であることが報告されている。
■スカイダイビングは高ストレスだが楽しい
バンジージャンプやスカイダイビングを考えただけでも背筋が凍りつくという向きもあれば、自分から積極的にこうした体験を求めようとする人々もいる。スカイダイビングを楽しむ人々にはどのような生理学的現象が起っているのだろうか。
アイオワ州立大学とボーイズ・タウン・ナショナル・リサーチ病院の合同研究チームが2019年4月に「Biological Psychology」で発表した研究では、スカイダイビングを体験した18歳から50歳までの44人の参加者を対象に生理的反応とホルモン的反応を分析する興味深い実験を行なっている。
研究者チームは、高度4000メートルから飛び降りるスカイダイビングの前後で参加者の唾液サンプルを何度も収集した。唾液のサンプルからは代表的な男性ホルモンであるテストステロンと、別名“ストレスホルモン”と呼ばれるコルチゾールの濃度が測定され、加えて参加者にはスカイダイビングの前後に心拍数をモニターする機器が装着された。
収集したデータを分析した結果、スカイダイビング体験に近づく過程でテストステロンの値も、コルチゾールの値も共に上昇し、心拍数も高まっていることが突き止められた。そして性格特性において刺激を求める人ほどこの反応が顕著にあらわれた。
テストステロンは我々が目的および報酬を達成しようという動機づけを後押しており、スカイダイビングをしたい、あるいはしても構わないという人にとってテストステロンはスリリングな報酬となっているのだと研究チームは説明している。
スカイダイビングによってコルチゾールのレベルが上昇すれば身体はストレスを感じるのだが、男性ホルモンであるテストステロンもまた上昇することで、スカイダイビングがスリリングで楽しく刺激的な体験になるのである。そしてこの反応はレベルは違えども女性にも、そしてあまり刺激を求めない男性にも見られたということだ。
今回の研究は、ギャンブルなどリスクを取って報酬と楽しみを得る行為の理解に役立つものになり、薬物依存やギャンブル依存の新たな治療法の開発に繋がるということである。
■初デートはスカイダイビングに匹敵するドキドキ感
かくもスリリングで刺激的なスカイダイビングだが、これに匹敵するドキドキの体験があるという。それは初デートだ。
英・ウルヴァーハンプトン大学の研究チームは、実験参加者に心拍数を計測する携帯型の機器を装着してもらい、さまざまなアクティビティを体験してもらう実験を行なった。アクティビティには例えば室内スカイダイビング、ジップライン(ワイヤーロープの傾斜を滑車につかまって滑り降りる遊び)、そして初対面の人物とデートするブラインドデートなどがあった。
最も心拍数が上がる体験だと想定された室内スカイダイビングは平均111拍/分だったのに対し、なんと初デートはそれに近い106拍/分であった。物理的な危険に晒されない初デートだが、なんとスカイダイビングと同じくらいのドキドキ体験なのである。
加えて研究チームは2000人のイギリス人に初デート(ブラインドデート)についての調査を行なっている。
54%が初デートはスリリングな体験であると認めており、6人に1人は相手に最初に対面する瞬間のスリルが楽しいと打ち明けている。
さらに3分の1は初デートに際して緊張に負けて“すっぽかし”たいと迷ったことがあると申告し、45%は初対面の相手との会話がスムーズに運ばずに悪戦苦闘した経験を持つという。
初対面の会話で10人に1人は話を円滑にするためにちょっとしたウソをついたことを認めており、3人に1人は恥ずかしさで赤面したことがあると告白している。このようになかなか一筋縄ではいかない初デートなのだが、それでも78%は初デートで相手に親しみを感じさせられたと報告している。スカイダイビングに匹敵するドキドキ体験が味わえる初デートだが、クセになるとまた別の問題が起りそうでもあるが……。
■スカイダイビング的活動で初デート気分が味わえる
スカイダイビングと初デートが同じドキドキ感であるということは、スカイダイビングで初デートの気分が味わえ、初デートでスカイダイビングのスリルが堪能できることになる。
セラピストのデジレー・スピーリングス氏は、つき合いが長いカップルはスカイダイビングの“スリル”を利用することで、つき合いはじめた頃の新鮮なドキドキ感が取り戻せる可能性を指摘している。
実際にカップルで一緒にスカイダイビングをするというよりも(もちろんしてもよいが)、ちょっとしたスリルを味わえる“変化”を取り入れることで、カップルの関係に新鮮な“息吹”を呼び込むことが期待できるのである。
「散歩コースを変えたり、入ったとのないレストランを試してみたりすることで“マンネリ”を打開できます。何か違うことをするだけで、パートナーとの間に“興奮”を作り出すことができます」(デジレー・スピーリングス氏)
スピーリングス氏はカップルのカウンセリングにおいて、現実的に可能な“死ぬまでにやってみたいこと”をそれぞれ10個考えてカードに書き出してもらう課題を行なっている。
そのリストにはまさにスカイダイビングやバンジージャンプなどが入るケースもあれば、好きな歌手のライブに行ったり、訪れたことのないテーマパークに行くことなどもあり得る。
合計で20個集まったカードを袋に入れ、1週間に1度でも定期的に袋から1枚カードを引き抜いて、書かれてあるアクティビティをカップルで前向きに検討してみることをスピーリングス氏は推奨している。
スピーリングス氏によれば、新しいことを一緒に体験することで、スリルを味わう時に出るホルモンの分泌が盛んになり、初デートのドキドキ感を取り戻せるということだ。いくつになってもドキドキ感やワクワク感、そしてときめきを忘れてはならないようだ。
参考:「ScienceDirect」、「University of Wolverhampton」、「ABC News」ほか
文=仲田しんじ
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