リアルな出会いもネット上でのコンタクトも今や同列に語られる時代になっているが、真剣な出会いを求める人にとって常にリスクになっているの相手の“身元詐称”だろう。特にオンラインの出会いでは個人情報や金品を盗む目的で“出会い”を演じる詐欺師たちもいる。このような犯罪に遭わないないよう細心の注意を払いたいものだが、こうした出会い系の詐欺に陥ったものの意外な結末を迎えた女性のストーリーがちょっとした話題になっているようだ。
■出会い系“なりすまし”詐欺被害の意外な顛末
フランス生まれでイギリス在住のエンマ・ペリエさんは2015年の時点でそれまでのパートナーと別れ独り身になった。カフェでバリスタとして忙しく働いていることもあり新たなパートナー候補と出会う機会がなかなかなく、それまでは敬遠していた出会い系サイトに初めて登録したのだ。
ペリエさんのプロフィールが公開されると、すぐさま有力なパートナー候補が見つかった。プロフィール写真がきわめてハンサムな34歳の電気工事士、ロニー(ロナルド・シクルーナ)氏だ。ロニーの母国はイタリアで現在はイギリスのウェスト・ミッドランズに住んでいるという。こうしてペリエさんとロニーの“交際”がはじまった。
イタリア語も少し話せるペリエさんは、ある日試しにイタリア語でロニーにメッセージを送ってみたという。ペリエさんにとっては英語もイタリア語も共に外国語である。しかしイタリア人である彼はどうやらイタリア語が苦手のようで、ロニーの母はイギリス人でイタリア人の父も家の中ではほとんどイタリア語を話さなかったからだという。ここで少し疑惑を抱けばよかったのかもしれないのだが、彼の説明にペリエさんは納得した。
その後もメッセージのやりとりは続き2人の間の結びつきは深まり、2人は出会い系サイトのプロフィールを消去して真剣につきあうことなった。時折通話の機会も持ち、遂に「愛してる」とお互いに言いあう仲になったのだが、“交際”がはじまって半年が過ぎようとしても2人が実際に会う機会はなかなか訪れなかった。
お互いに空いている日を確認し合いデートのセッティングを何度も試みたものの、最後はどうしてもロニーの仕事の事情でキャンセルになってしまっていたのだ。しかしそれでも2人の交際は続いていく。
職場の親しい同僚にロニーの存在を打ち明けたペリエさんだったが、同僚はまだ一度もデートしていないことを不審に思い、ロニーのプロフィール写真を調べてみるように彼女にアドバイスしたのだった。
そしてこのロニーのプロフィール写真を画像検索してみると、すぐにこの人物がアデム・グゼルというトルコ人俳優のものであり、彼のFacebookに掲載されている写真であることがわかったのだ。そして“ロニー”は実は53歳の建設業の人物であることもわかり、この1年近い“熱愛”は破局を迎えることになる。
すっかり気落ちしたペリエさんだったのだが、自分のような犠牲者が増えないためにも、このトルコ人俳優に「あなたの写真が悪用されています」と通知するメールを送った。返信を期待するはずもないメールであったが、なんとしばらくするとこのトルコ人俳優のアデムから突然メールが届いたのだった。
メールの内容は今ロンドンに来ているのでどこかで会えないかというものだった。その夜2人はロンドンの街でデートをしてすぐに打ち解け、初対面だというのにキスさえする仲になったということだ。メールを受け取ったアデムは気になってペリエさんのSNSを調べていたのだった。そして現在、2人はパートナーとして結ばれている。“災い転じて福となす”を地で行く話だが、間接的に出会い系サイトがきっかけになった出会いである点がなんとも皮肉であり興味深い。
■“身元詐称”が疑われる言動&特徴7例
残念ながらこうしたハッピーエンドはあくまでも偶然であり、オンライン上での“身元詐称”や他者への“なりすまし”による被害は後を絶たない。2016年のアメリカの調査では、新たに登録されるプロフィールの実に10%が“フェイク”であるという調査結果も報告されている。
虚偽のプロフィールで接触したユーザーにさまざま影響を与えようとする行為はキャットフィッシング(Catfishing)と呼ばれ、ますます深刻な問題になってきている。
2012年にはノートルダム大のフットボール選手であるメンタイ・テオ選手のTwitterアカウントが何者かによって勝手に作り上げられ、実在しない恋人が白血病に斃れた旨が書き込まれた。その翌日の試合でテオ選手は大活躍してチームを勝利に導いたことで、この一件は天に召された彼女に捧げた勝利であると“美談”としてメディアで報じられたのだが、しばらくして“彼女”は実在の人物ではなくすべては作り話であることが判明したのだ。
また10年にも及んでイギリスに実在する女性とその友人たちの写真を使っていくつものSNSを運営していたケースが2015年に報告されている。この女性は街で見知らぬ者から知らない名前で親しげに話しかけられることが多かったという。中には彼女の恋人だと主張する男性も現れる始末で、発覚しなければさらに深刻な事態を招く可能性もあっただろう。
そのアカウントが“なりすまし”であるのかどうか見抜く力がすべてのネットユーザーに求められているとも言える。そこでコンテンツマーケティングの専門家であるサラ・ベルド氏が“身元詐称”や“なりすまし”を見抜く7つの指針を紹介している。当該のアカウントの人物に次のような言動や特徴があった場合に疑いを持つべきであるという。
1.出会って間もないうちに関係を急速に深めようとする場合
2.プロフィールやSNSの写真点数が少なく友人らしき人があまり写っていない場合
3.仕事関係で出張(海外含む)が多いと自己申告している人物
4.海外の軍事関連施設にいると報告したことがある人物
5.リアルで会おうという話に最初は乗ってくるがいつも最後で都合が悪くなる人物
6.スカイプなどのビデオ通話を拒否する人物
7.トラブルに見舞われてお金が必要だと無心してくる人物
FBIによれば“なりすまし”の被害で巨額の金銭的被害を受ける事例が近年目立っているという。日本でもいわゆる“オレオレ詐欺”などで一度に信じられない大金を騙し取られている事件が時折報じられるが、単なる窃盗などと違い“なりすまし”による犯罪では大金が動く可能性があるのが特徴だ。ネットを利用する限りにおいてこうした悪意に晒されるリスクがあることを常に気に留めておきたい。
■意味深長な“出会い系用語”が続々と登場
だが少し考えてみて欲しい。“経歴詐称”とまでは言わないにしても、SNSなどの自己紹介では多くのユーザーはできる限り好印象を与えようとベストな自分をアピールしているだろう。それこそちょっと“盛って”しまっている人も少なくないかもしれない。その意味では“オンライン詐欺”はユーザー全員の問題でもあるのだ。実際にアメリカのある調査では男性の38%、女性の24%が出会い系サイトやSNSのプロフィールを少し“盛って”いることを認めているという。
こうした背景もあってか、英語圏の“出会い系”ユーザーの間では続々と新語が登場しているようで興味深い。ちなみにプロフィールのスペックや画像を少し“盛る”ことはキトンフィッシング(Kittenfishing)と呼ばれ、罪のない範囲での“身元詐称”であるとして、むしろ積極的なコミュニケーションためにはある程度必要なのではないかという見解も生まれているようで少し驚く。もちろんこのネーミングはキャットフィッシング(catfishing、なりすまし)の“子猫版”で実害はないという見解から来ている。
キトンフィッシングという言葉を生み出したのは、出会い系アプリを開発・提供しているHingeで、よく調べなければ分からないような微妙な“詐称”や画像の“加工”をすることで、パートナー探しにポジティブに取り組めることを指摘している。日本語で通用している“盛る”という表現を、英語圏のニュアンスで表現する新語ということになるのかもしれない。
キャットフィッシングやキトンフィッシングのほかにも、これまでにも独特な“出会い系用語”が生まれている。そのいくつかを紹介しよう。
●ゴースティング(Ghosting)
文字通り“幽霊化”することで、何の予告もなく突然一切の連絡が不可能(あるいは返答無し)になる行為である。
●スローフェイド(Slow Fade)
徐々にコミュケーションが減り、つきあいが悪くなっていく行為。
●ブレッドクラミング(breadcrumbing)
ブレッドクラムとはパンくずのことだが、鯉に与える“撒き餌”のように、定期的に浅い関係の多数の人々に「今度デートできたらいいね」といったような真意ではない、関係を繋ぎとめておくメッセージを送る行為。
●シッピング(Shipping)
いわば仲人役で、オンライン上で知り合いの男女を“くっつけ”てカップルを成立させる行為。
●キャッチアンドリリース(Catch and Release)
かなり品の悪い表現になるが読んで字のごとくゲーム感覚で“キャッチ”できた相手をすぐさま“手放す”ことだ。
●ベンチング(Benching)
野球で言うスタメンではないベンチスタートの選手のような、メインでつき合っている相手がいなくなった時のためにいわば“保険”として幾人かとの関係をキープしておく行為。ブレッドクラミングと同じように時折“撒き餌”を与えて関係を繋ぎとめておかなくてはならない。
●クッショニング(Cushioning)
これも一種の“保険”ということになるが、現在のパートナーが魅力的であるぶん不倫の可能性も高いと感じた場合、先にこちらが新たなパートナー候補を見つけて関係を維持しておく行為。もしフラれた場合のダメージのクッション、緩衝材になるという意味だ。
ともかく、英語圏での恋模様もなかなか大変なことになっているようである!?
参考:「Mirror」、「Sift」、「Daily Mail」ほか
文=仲田しんじ
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