冷淡で無慈悲なサイコパスも実は人の気持ちをわかっていた!?

サイコロジー

 当然だが我々が日々出会う人々は“いい人”ばかりではない。ダークで“腹黒い”、サイコパスと呼ばれる人々について少し理解を深めてみてもよいかもしれない。

■サイコパスは“欠陥人間”ではなかった

 反社会的かつ自己中心的、衝動的で、他者の感情を操作して利用しようとし、モラルや法を犯すことも厭わないダークで“腹黒い”、サイコパスと呼ばれる人々は、一説では人口の1%ほどを占めるといわれている。しかし刑務所の服役囚の中ではその割合は15~25%と急上昇することから、それだけ犯罪と関係が深いことは否定できない。

 サイコパスと診断される人々は、人としての大切な何かが“欠けて”いるのだろうか。しかし意外なことに最近の研究では、サイコパスは一般的な人よりも人一倍、感情の抑制が求められているため、結果的に脳機能が発達し、社会的成功を勝ち取れるポテンシャルを秘めていることが示唆されている。サイコパスの一部は社会的成功者になっているのである。

 米・バージニアコモンウェルス大学の研究チームが2019年10月に「Personality Neuroscience」で発表した研究では、サイコパス特性を持つ人々の脳と脳活動をモニターしてその特徴を探っている。

 80人と64人の大学生が参加した2つの実験において研究チームは、脳の腹外側前頭前野(ventrolateral prefrontal cortex、VLPFC)の灰白質密度がサイコパス特性と正の関係があることを突き止めた。つまりサイコパスは脳の一部の灰白質密度が高く優れた脳機能を有していることになる。

 どうしてこのようなことが起こるのか。それはサイコパスが自らの反社会的な衝動に気づき、普段からその衝動を抑えることが習慣化しており、自然に自己抑制を司る脳のこの部分が発達してくるのだという。

 したがってサイコパスは決して人としての何かが“欠けて”いるのではなく、むしろ“盛られて”いることになる。そしてこうした脳機能の特性がポジティブな方向に働けば社会的に成功に繋がる可能性を大いに秘めているということだ。サイコパスに対する認識を一新する研究と言えるのかもしれない。

■サイコパスは企業組織で出世しやすい!?

 人望はなさそうに思えるサイコパスが以外に社会的成功を遂げているというのは奇妙に思えるかもしれない。しかし最近の研究では企業組織において、高い地位とサイコパス特性にポジティブな関係があることが報告されている。サイコパスは実際に“出世”しているのだ。

 セルビア・ベオグラードの研究機関「Institute of Criminological and Sociological Research」の研究チ―ムが2019年11月に「Psiholoska Istrazivanja」で発表した研究では、企業組織で成功する“サクセスフル・サイコパス(successful psychopath)”の実像を探っている。

 サクセスフル・サイコパスと成功しないサイコパスを分けるものは、前出の研究でも指摘されているように高い自己コントロール能力である。衝動がこみあげてきた時にうまく抑制し、社会的に受け入れられる別の行動のエネルギーに変えることで、パフォーマンスが向上し社会的成功に結びついているのだ。

 研究チームは212人の働く成人(女性69%、平均年齢33.6歳)を対象に、サイコパス特性を計測し職場での成功の度合いを照らし合わせた。サイコパス特性の計測では、他者を無慈悲に操作しようとする特性(ruthless manipulation)と、共感能力の欠如(lack of empathy)の2つに的が絞られた。

 収集したデータを分析した結果、無慈悲な操作は管理職と正の相関があり、ボーナスと月給の金額に影響を及ぼしていた。共感能力の欠如はボーナスの金額と職場でのパフォーマンスと正の関係があることが判明したのである。

 他者を操作して利用し、共感能力に欠けた情けのないサイコパス特性を持つ人物が企業組織の中で頭角をあらわしてくるのだとすれば興味深い。成果主義の行き届いた組織ほどこの傾向が高くなるのかもしれない。

■サイコパスも人の気持ちをわかっていた

 前出の話題にもあるように、サイコパスの特徴として共感能力に欠けた冷淡な性格特性があげられる。しかし最近の研究では、サイコパスは他者の気持ちがわからないのではなく、共感能力はじゅうぶんにあるものの同情したり哀れんだりすることが嫌いであるというのだ。

 スウェーデン・ユニバーシティウエストの研究チームが2019年11月に「Personality and Individual Differences」で発表した研究では、サイコパス的人格特性を持つ者の共感能力について分析している。

 サイコパス特性は精神科学的には「ダークトライアド」と定義され、サイコパシー傾向、マキャベリアニズム傾向、ナルシシズム傾向の3つを併せ持つ人格特性だ。研究チームはこのダークトライアドの性格特性を持つ287人に共感能力を計測する2つのテストを課した。

 収集したデータを分析した結果、研究チームはダークトライアド特性が強い人であっても、他者の感情を完全に理解できていることを突き止めた。

 ではなぜ一般的にサイコパスは共感能力に欠けていると定義されているのか。それは彼らが他者の気持ちを慮る言動をとることを嫌っているからであるという。共感能力は認知機能と強い関係があり、サイコパスは認知機能が劣っているわけではないことから、当然ながら共感能力も兼ね備えているのだ。

 しかし彼らサイコパスは共感能力によって引き起こされる同情心や祝福の感情に影響されるのを嫌い、自ら“冷淡”になっていることが示唆されることになった。確かに社会的に成功するサイコパスは人々の気持ちを汲み取り、ニーズを理解できているからこそ成功を勝ち取れるのだろう。サイコパス的性格特性が強いからといって単純に“冷血”であると決めつけるのは早合点かもしれない。

参考:「NLM」、「CEEOL」、「ScienceDirect」ほか

文=仲田しんじ

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