僅かな時間でリフレッシュできる“ショート昼寝”

サイエンス

 昼寝の優れた疲労回復効果が見直されている昨今だが、昼寝には血圧を下げる効果もあるようだ。昼寝には血圧を下げる降圧薬を服用するのと同じ効能があり、心臓疾患リスクを著しく減少させるという。

■昼寝は降圧剤と同じ効果

 2019年3月に開催された米国心臓病学会(ACC)の第68回年次会議で、ギリシャ・アスクレペイオン病院の研究チームが日中の昼寝は血圧を下げる医学的治療と同じくらい有効であることを発表している。

 日中に1時間ほどの昼寝で、血圧レベルが平均で5ポイント低下したのだが、これは薬を飲んだり、食事から塩分を排除するのと同じ効果を及ぼす。そしてこれが心臓発作リスクの大幅な減少につながる可能性があると言及している。

 研究チームは高血圧と診断されている212人を追跡調査したところ、日中に昼寝をした人は昼寝していない人に比べて、24時間平均の収縮期血圧が平均5.3mm/Hgほど低くなっていることを突き止めた。血圧を下げる降圧剤は通常、血圧レベルを5~7mm/Hg下げるのだが、昼寝の効果はほぼこの降圧剤に匹敵することになる。

 血圧が2mm/Hg低下する毎に、心臓発作などの心疾患系疾病のリスクを最大10パーセント減らすことができると考えられている。昼寝によって心疾患のリスクを最大25%ほど低下できるとすれば無視できない健康習慣になるだろう。

「我々の調査結果に基づけば、日中に昼寝をできる条件にある人は、高血圧改善に有利かもしれません。昼寝は簡単に行なうことができ、通常は何の代価もありません。血圧レベルが高いほど下げるためのあらゆる努力をすべきなのは明白です」と研究チームのマノリス・カリストラトス医師は語る。

 もちろん日中にぐっすりと熟睡する必要はないが、健康上の利点を考慮すれば、昼に短い仮眠を取ることに罪悪感を感じるべきではないと研究チームは指摘する。

 また同じ薬剤を処方されて高血圧の改善に取り組んでいる者の間でも、昼寝をしている者はさらに血圧が下ることも確認された。昼休みには食事はなるべく手短に済ませて仮眠をとってみる選択もありそうだ。

■昼寝をする生徒は学業優秀

 学生時代を振り返ってみると、授業中や休み時間に妙に眠たかった記憶はないだろうか。学校生活で居眠りばかりしていれば学業に支障をきたしそうだが、その心配はどうやら無用のものかもしれない。最近の研究で学校で昼寝をする生徒は幸福度が高く学業も優秀で問題行動が少ないことが報告されている。

 米・ペンシルベニア大学の研究チームが2019年5月に学術ジャーナル「SLEEP」で発表した研究では、10歳、11歳、12歳の生徒3000人の学校生活と学業成績、IQ(知能指数)を調査している。収集したデータを分析したところ、昼休みなどで昼寝をしがちな生徒はそうではない生徒よりも幸福感が高く、自制心があり、そして“やりぬく力”が強いことが明らかになった。さらに問題行動も少なく、IQが高い傾向も判明した。この傾向は特に12歳で強くなったということだ。

 睡眠が不足しがちな生活は、成人の間だけでなく子どもたちの間でも考えられている以上に広まっている。研究チームのジャンホン・リウ准教授によれば、子どもたちの20%が日中に抗えないほどの眠気に襲われているということだ。そしてもちろん、不十分な睡眠状態によって認知機能面、感情面、および身体面へ悪影響が及ぶことがこれまでの研究で報告されている。

「これまでのすべての年齢を対象にした多くの実験室の研究で、昼寝は夜の睡眠と同様に認知機能を改善できることが示されています。今回の研究では、思春期の学童の行動、学業、社会的交流、そして生理学的な面でのさまざまな実態を調査できる機会がありました。昼寝が多い生徒ほど、これらの面での利点が大きくなります」と研究チームのサラ・メドニック氏は説明する。

 研究結果はあくまでも相関関係を示すことにとどまるのだが、学校の始業時間を今よりも遅らせるべきであるという主張の裏づけになり得ると研究チームは指摘している。あるいは時間割に昼寝の時間を設けることも検討されるべきであるという。

「正午の昼寝は簡単に実行でき、費用はかかりません」と語るリウ准教授は、終業時間を少し遅らせることで学習時間が減るリスクを回避できるとも指摘している。現代の子どもたちにとっても、昼寝には多くのメリットがあるようだ。

■NASAの研究による“完璧な昼寝”の時間は?

 各種の研究による昼寝のメリットはよく理解できるのだが、ではどのように昼寝をしたらよいのか。NASAが主導するこれまでの研究では“パーフェクトな昼寝”が追求されている。

 ともあれ、ちょっとした昼寝をすることは恥ずべきことではなく、取れる状況にある限りにおいては堂々と“シエスタ”を取ることをNASAも推奨している。昼寝をする人は誰でも、僅かな仮眠でその後数時間“生き返る”ことができるのだ。そしてより生産的でより高いレベルの活動が可能になる。

 研究によれば日中に人が眠くなるのは自然の生理的リズム(circadian rhythm)であり、1日に2回、日中に眠気に襲われる時間帯があるという。

 NASAのこれまでの研究で、宇宙飛行士がコクピットで26分間の昼寝をすることで、注意力が54%、作業パフォーマンスが34%上昇することが突き止められている。そしてその後の研究で、昼寝には26分も必要がないこともわかってきている。

 NASAと共に研究を行なったカナダ・ブロック大学のキンバリー・コート教授によれば、昼寝は1回につき10分から20分の間でじゅうぶんであるということだ。

 睡眠には5段階のステージがあるといわれているが、昼寝は最初の2段階まででじゅうぶんに身体を休められるという。逆に昼寝で深い睡眠に到達してしまうと、目覚めた後にしばらく意識がはっきりしない睡眠慣性(sleep inertia)の状態が続きパフォーマンスが低下してしまうのだ。

 せいぜい10分程度の昼寝を日中に1日2回取ることができれば、作業パフォーマンスを落とすことなく生産的な1日を送れることになる。ほんの僅かな時間でも効果テキメンな“昼寝”の恩恵にあずかってみてもよいのだろう。

参考:「ACC」、「Penn Today」、「Insider」ほか

文=仲田しんじ

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