少し本格的に運動やスポーツをはじめてみたいという考えがよぎることもあると思うが、仕事が忙しくてしばらく運動から離れていた場合はじゅうぶんに注意が必要だ。そこで注目されてくるのがやはりウォーキングである。
■1日30分のウォーキングで得られる7つの健康効果
「走らないで、歩いて!」と、まるで廊下の張り紙(!?)のようなアドバイスをしているのは米・カリフォルニア州にある米国エネルギー省の一部門、ローレンス・バークレー国立研究所の研究チームだ。
研究では3万3060人のランニング愛好家と、1万5045人のウォーキング愛好家を調査したデータを分析して、興味深い分析結果が導き出されたのだ。もちろん運動はおしなべて高血圧、高コレステロール、肥満のリスクを低減させるものになるのだが、これらのランナーと歩行者の6年に及ぶデータを分析したところ、これらの症状を予防する効果としてはランニングとウォーキングにあまり違いはないということがわかってきた。
つまり成人病対策という側面からは、汗水流して疲労困憊になって走ることと、早足程度のウォーキングはほとんど同じ意味を持つ運動であったのだ。
1日30分のウォーキングで得られる健康効果は下記の通りだ。
●冠状動脈性心臓病や脳卒中のリスクの軽減
●血圧、血糖値、血中脂質の数値の改善
●体重を維持し、肥満のリスクを減らす
●メンタルの健康を高める
●骨粗鬆症のリスクを減らす
●乳がんと結腸がんのリスクを減らす
●2型糖尿病のリスクを軽減する
仕事に忙殺されても歩く機会がまったく得られないわけでもないだろう。日々の生活の中で意識的に歩く時間を作りたいものだ。
■散歩は脳をクリエイティブにする
ウォーキングと散歩がもたらす恩恵は心身の健康だけではない。散歩をすることは、新しいアイディアをもたらすなど脳をクリエイティブにしてくれるという研究が発表されている。
2004年に発表された研究では、スタンフォード大学で行なわれた実験が紹介されている。3種類の実験が行なわれたのだが、そのうちの1つは、2グループの48人に創造力を測る2セットのテストを課した。
●Aグループ:1回目のテストを歩きながら行ない、2回目のテストを座った状態で行なった。
●Bグループ:2回のテストをどちらも座った状態で行なった。
テストは“自由発想”を測るテストで、例えばありふれた物品の別の使い方を考え出したり、複雑な物事に共通の要素を見つけ出す類推能力などを測るテストだ。
以前に行なった実験で、歩いている状態のほうが創造力が高まることがすでに実証されていたのだが、やはり最も成績が良かったのは、Aグループの1回目のテストであった。そして、2番目に成績が良かったのは、同じくAグループの2回目のテストだったのである。
2回のテストをどちらも座って行なったBグループは、要領を心得た2回目のテストでは集中力を発揮して良い成績を収められるのではないかという予想もあったのだが、実際にはAグループに2回とも敵うことはなかったのだ。これはいったいどういうことか。
研究によれば、それは歩いたことによる残留効果があるからだと説明している。歩いて身体を動かした体験は、その直後に座ったとしてもしばらく続くのだ。したがって、会議などの前に歩くことは斬新なアイディアを出したり、有意義な議論を行なったりするためにもきわめて有益であるといえるだろう。
■一石二鳥の効果をもたらす“ウォーキング瞑想法”
メンタルヘルスの分野では科学的瞑想法である「マインドフルネス」が大流行中だが、歩きながら行なう瞑想法も注目されているようだ。ジッとしているのが苦手な人にはこちらのほうが向いているだろうし、瞑想による精神の安定と一緒に運動不足も解消できるという一石二鳥のアクティビティでもある。米・カリフォルニアのベンチャー投資家、パトリック・マシソン氏は特にこの“ウォーキング瞑想法”の熱烈な支持者であり、周囲にも広く勧めているようだ。
「周囲の環境に完全に浸りきって街を歩くことに少しばかり時間を費やしてみてはいかが。イヤホンを着けることなく、考え事をすることもなく周囲の景色に溶け込むんだ。すれ違った人に挨拶をしてもいい。“今がすべて”という感覚で歩くのが“ウォーキング瞑想法”なんだ」(パトリック・マシソン氏)
歩きながら瞑想すると聞かされれば、目を閉じて黙々と歩くようで、交通事故に遭いかねないような危険なイメージも受けてしまうが、実際はまったく逆で、周囲の環境に没入しきって歩くことのようだ。周りの事象を可能な限り把握することになるので、不慮の事故なども回避できる可能性が高く、きわめて安全な歩き方ということにもなる。
そして単なる散歩よりも“ウォーキング瞑想法”では脳と身体はより多くのことを行なっているという。自分の足音を聴き、呼吸を感じることで意識がクリアになり、瞑想の効果が得られるのだ。道端に咲くキレイな花など、興味が惹かれるものがあれば行って近づいてみてもいいという。
禅では経行(きんひん)という境内を歩きながら行なう瞑想法があるが、“ウォーキング瞑想法”はこれを街中で手軽に行なうことだとも言えそうだ。情報に溢れた今日の社会で心身の健康を保つために歩く時間を確保してみたい。
参考:「Medical Times」、「Stanford University」、「Life Hacker」ほか
文=仲田しんじ
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