高度なIT環境が整った今日、現代のビジネスパーソンはかつてないストレスに晒されていると言われている。はたしてこれらのストレスを取り除けるのか? あるいはストレスと感じなくすることができるのか? ストレスの発生要因を一度よく考えてみることで有効な対応策が見つけられるかもしれない。
■職場環境に潜むストレス10例
日常生活で晒されるストレスを解消することが最優先であると思うが、まずはストレスの発生源を正確に把握しなければならない。意外に自覚されていない職場環境に潜む10のストレスがあるという。
●オフィスのレイアウト
ある程度の人員が働くオフィスでは、レイアウトが快適さを左右する重要な要素である。机やキャビネットの配置はもちろん、人が移動する動線がスムーズに流れるものであるかなどをあらためて検証し、問題点を見つけて改善することでストレスを減らすことができる。
●オフィス機器の使用状況
コピー機をはじめとするオフィス機器の使用状況が業務上のストレス要因になる。紙詰まりを頻繁に起したり、常に誰かが使っている状況であればなかなか仕事が進まずストレスが募る。予算の問題にはなるが、オフィス機器が原因の作業量の損失と、機器をもう一台増やすコストを照らし合わせてみてもよいのかもしれない。
●共同トイレ
オフィスでは当然ながらトイレは共同だが、常に清潔でないことにはストレスの発生源になる。比較的大きなビルに構えたオフィスであれば、フロア毎の共同トイレになるケースが多く、その場合は外部業者が清掃しているのでトイレにまつわるストレスは低くなる。
●休憩所、共有スペース
休憩所もまたトイレと同じくある程度きれいに掃除が行き届いていないことにはストレスの発生源になるだろう。喫煙スペースの存在や、共同で使う冷蔵庫でたびたび発生する紛失事件(!?)もストレスの要因になり得る。場合によっては喫煙スペースや共用冷蔵庫を一切なくしてしまう選択肢もあるのだろう。
●椅子のクオリティ
長い時間を過ごすオフィスであるからこそ、オフィスチェアのクオリティも無視できない要素になる。スタッフを大切にする職場であるならば椅子のクオリティにもじゅうぶんな配慮が必要だろう。
●ネット環境
言うまでもないがネットの通信速度が遅いことは大きなストレス要因となる。
●会議室
毎回同じ会議室で話し合いをしていれば、そのうちにマンネリ気分が生じてきて話す内容にも影響を及ぼす可能性がある。今は月極めで借りられる会議室や、時間貸しのレンタルルームもあり、必ずしも社内に会議室を設ける必要はない。少人数であれば公園のような公共の場所で話し合っても良い。
●窓
窓が少なかったり、あるいは地階で窓がない部屋は従業員のメンタルヘルスにあまり良くない影響を与えることが確かめられている。またせっかくの窓を覆ってしまうようなオフィスレイアウトもできれば改善したい。
●社内メール
社内メールは長時間放置することができないので、仕事の進行を乱す要因にもなり得る。社内での要件はなるべく内線電話を使ったり直接会ったりするなどのガイドラインが求められるかもしれない。
●自分自身!
職場のストレスで最も高い危険性を秘めているのが言うまでもなく人間関係だ。上司、同僚、部下のすべてにその可能性があるが、同じように自分自身も他のスタッフにとって大きなストレス発生源になっていることもあり得る(!?)。前向きな職場の人間関係のためにも我が身を振り返ることも必要だ。
ストレスの発生源とそのメカニズムが正確に把握できれば対処のしようもあるというものだ。日常の中で何がストレスになっているのか、時折考えてみても損はないだろう。
■個人と組織の命運を握る職場のストレス
身の回りの環境から発せられるストレスについては、特定してなるべく早急に対処したいものだが、心理的プレッシャーなどのストレスは職務を遂行する上では避けられないものであり、また必ずしも悪いことばかりではないという。
中国・山東師範大学の研究チームが2015年に行なった研究では、食品会社からIT企業までさまざまな企業の研究開発部門に務める雇用勤務者280人の勤務実態を調査している。研究開発部門の仕事は多くの場合、クリエイティビティとアイディアの実行力が求められるものである。研究ではこのクリエイティビティと実行力が職場のストレスとどのように関係しているのかを探る調査が行なわれた。そのためにまず研究チームは、ストレスの発生源を2種類に分けたのだ。
ひとつは挑戦型ストレス要因(Challenge Stressors)である。この挑戦型ストレス要因は業績上の目標設定など、従業員にこれまで以上の生産的パフォーマンスの向上を求める心理的プレッシャーである。これは1960年代に心理学者のリチャード・S・ラザルスが提唱した「良いストレス(eustress)」と同じものだ。いわば自分を奮い立たせる発奮材料にもなりうるストレスで、調査の結果でも職場での挑戦型ストレス要因は、新しく有意なアイディアを生み出すことなどに貢献し、ポジティブに作用していることが明らかになっている。
もうひとつは障害型ストレス要因(Hindrance stressors)で従業員のやる気を削ぐようなストレス、いわば「悪いストレス(distress)」である。具体的には社内に派閥抗争があることや、官僚的な特権的スタイルで業務を行なう社風、従業員に明確な役割が与えられていないことや、業務の不安定感などがあげられる。従業員が伸び伸びと仕事に取り組むことを妨害し、やる気とパフォーマンスを低下させるこの障害型ストレス要因は、従業員のクリエイティビティを阻害するものになっていることが研究の結果判明している。
そしてこの2つのストレス要因は個々の従業員だけでなく、職場全体にも影響を及ぼすということだ。個人のキャリアを左右するだけでなく、組織全体の命運をも握っているのが職場のストレスということになる。経営者や組織のリーダーにとっても、今の職場が晒されているストレスを正確に把握することが求められているのだろう。
参考:「Huffington Post」、「Psychology Today」ほか
文=仲田しんじ
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