一部のスマホユーザーの間ではすっかり日常の行為(!?)になってしまった感のある“自撮り”だが、身近になっただけにその撮影行為も、SNSなどへの投稿行為も、時には何かと物議を醸すものになってきている。
■田舎の単線の駅が突然“自撮りの名所”に
イギリス・イングランドのダービーシャー中央部にある閑静な田舎町、マットロック・バスはこの夏、ちょっとした“自撮りの名所”と化していた。もともとこの地にはテーマパークや博物館などがいくつかあり、主にイングランド住人の国内旅行の行き先として人気の観光地なのだが、今回人々が集まったのは普段はあまり利用客のいない地元を走る地方鉄道の「マットロック・バス駅」である。この駅に繋がる線路の横断地帯で多くの観光客が自撮りを行なったということだ。
線路を歩いて横断できる場所は、田舎の駅ということもあってか自動踏切などはなく、鉄柵の扉が設けられているだけだ。利用客は個人の責任で柵の扉を開いて線路を歩いて渡ることになる。
日本でも鉄道写真を趣味にする人は多いこともあり想像はつくと思うが、このマットロック・バス駅の界隈では線路がほぼ直線に延々と伸びており、写真撮影には絶好のパノラマが広がっているのである。これに目をつけたスマホユーザーが線路の上で奥行きのある景観をバックに自撮りをしてSNSに投稿したところ、格好の“自撮りの名所”として注目を浴びるようになったということらしい。
しかし、そうはいっても曲がりなりにもそこは運行中の鉄道の駅である。人々の行動が危険であると判断した鉄道側はこの横断地帯での人々の行為を収めた監視カメラの映象を地元警察に提出した。映象を見た警察もこれは極めて危険であると同意し、人々に注意喚起とモラル向上を促す意味でこの映象を一般に公開したのだ。
この映象が収められたのは、子どもたちの夏休みも終わろうかという8月30日。この日だけで8組がこの地点で自撮りを行なったという。この動画を見ていただければわかるが、自撮りやスナップ撮影のやり方もさまざまで、幼い子どもと共に線路に座り込んでポーズを決めたり、いかにも暢気におしゃべりをしながら線路に立っていたりと、ここを列車が通るという緊張感はまるでなさそうだ。賑やかな10人くらいのグループは代わる代わるスナップを撮りながら8分間もの間、線路上にたむろしていたという。おそらく往来する列車を背景に収めたショットを撮った者もいるのではないだろうか。
田舎の単線の駅ということで、1日の運行本数は30数本ということだが、それでも1日500人以上がこの横断地帯を徒歩や自転車で通り抜けるということだ。
「田舎町の踏切は見晴らしもよく格好の撮影場所ですが、線路は遊び場ではないのです」とネットワーク・レール危機管理アドバイザーのマーチン・ブラウン氏は取材に応えている。また鉄道警察検査官のエディ・カーリン氏も「我々はいつか深刻な事故が起るのではないかと憂慮しています。今の列車は静かに走行しますから、線路の上で写真を撮ったりテキストメッセージを書くのに夢中になるのは命に関わる危険を伴います」と当然のことながら手厳しい。しかしこのような絶景の田舎の駅に天気の良い休日に訪れ、他の観光客が線路で撮影を行なっているのを目撃すれば、釣られてついつい同じ行動をとってしまう心理もわからないわけではない。ぐれぐれも節度ある自撮りを心がけたいものだ。
■ピザの配達をためらうほど自撮り棒が乱立
今や観光客の持ち物の定番となった感のある「自撮り棒」の危険性も最近多く指摘されている。スマホやコンパクトデジカメを使った自撮りで、カメラとの間に距離を置くために引き伸ばして使う自撮り棒だが、人の多い観光地やレストランで周囲に配慮せずに自撮り棒を伸ばすなどマナー違反も多く、昨今は使用を禁止する施設も増えてきている。
東京ディズニーランドでの自撮り棒の使用禁止に続き、本家アメリカのディズニーランド及びディズニーワールドでも使用が禁止された。またテニスの四大大会、ウィンブルドン選手権の会場でも自撮り棒の持ち込みができなくなっている。
また自撮り棒を持っていたばかりに起ってしまう悲惨な事故もいろいろと報告されている。今年7月にはイギリス・ウェールズにある「ブレコン・ビーコンズ国立公園」で2人の男性が激しい雷に打たれて死亡する事故が起きたが、現場で救助した者によるとそのうちの1人が自撮り棒を持っており、長く引き伸ばされた本体が雷を誘導した可能性が極めて高いということだ。
周囲を顧みない安易な使用に多方面から警告が発せられている自撮り棒だが、意外なことにアメリカのピザハットが自撮り棒の危険性を訴える動画を制作して話題になっている。
YouTubeに投稿されたこの『The Dangers of Selfie Sticks PSA』によれば、自撮りそのものについては理解を示しているようだが、やはり自撮り棒を使った撮影に警鐘を鳴らしている。オープンカーでドライブ中に何本もの自撮り棒が車から飛び出しており、そのうちの1本が沿道の物売りのテーブルに引っかかって大惨事になるシーンや、観光施設らしき建物のロビーが自撮り棒を持った者で溢れていたり、パーティー会場ではそれぞれが気ままに自撮り棒を使ってスナップを撮影していて、そのあまりの無遠慮さにピザ配達員が部屋に入るのを躊躇する様子も綴られている。
愉快な気分を味わっているTPOだからこそ、人は自撮りをしたくなるのだろうが、気づかぬは本人ばかりなりで、傍から見れば自撮り棒を使う行為がいかにエゴイッスティックなものであるのかを、この動画を通じて表現することがピザハットの狙いであるようだ。
「くれぐれも責任を持って自撮りを行なってください。この動画を共有することで、自撮り棒に苛まれている人々を守ってください。ピザハットは自撮り棒に悩まされている人々の味方です」と動画のナレーションは結んでいる。ご覧になればおわかりと思うが、この動画に出演しているのは俳優やキャストのみで、実は真面目過ぎる嫌いのある公共広告(Public Service Announcement、PSA)のパロディのニュアンスもあるのだが、それでも自撮り棒の危険性を訴え、モラルの向上を促すものであることは間違いないだろう。
■自撮り画像には当人の性格が色濃く反映されている
何かと物議を醸しているものの、それでもSNS上の自撮り画像の氾濫は留まるところを知らない。見せられる側にとっては、多すぎていちいち気にしていられないネット上の自撮り画像だが、しかし一見何の変哲もない自撮り画像であってもそこには“被写体”の性格や属性がありありと現れているのだという興味深い研究が先頃発表されている。
シンガポール・南洋理工大学(Nanyang Technological University)のリン・チウ助教授が主導した実験では、中国版ツイッターと呼ばれているSNS「ウェイボー(Weibo)」のユーザーで普段からよく自撮り画像を投稿している123人のパーソナリティーの調査、分析が行なわれた。具体的には、この“自撮り好き”な123人に一連の心理テスト(性格の5因子テスト)と、性別や年齢、職業、ウェイボーの利用の頻度などの属性を明らかにするアンケートに回答してもらった。
また、彼らの自撮り画像をウェイボーを利用している107人の中国人学生に見せて、“被写体”がどんな性格であるのかを判断してもらい、心理テストで明らかになったパーソナリティーと、他者が自撮り画像を見たときに受ける印象がどの程度一致しているのかを探ったのだ。
一方で研究チームは123人の自撮り画像から特徴的な13の要素を選び出し、性格判断の手がかりにした。その要素とは例えば、「アヒル口」か否か、カメラ目線か否か、カメラアングルの高低、顔中心か全身ショットか、公共の場所かプライベート空間か、フォトショップなどで加工しているか否か、といったものだ。
全体の傾向として、調和性(Agreeableness)の高いグループはその自撮り画像にもポジティブな印象を与える要素が多かったという。その特徴としては低めのカメラアングルが挙げられるということだ。
他方、勤勉さと誠実さ(Conscentiousness)が高いグループは、単色の壁を背景にするなど撮った場所が特定し難い自撮りを投稿する傾向があるという。そして残念ながら(!?)一時期人気だった「アヒル口」は神経症傾向(Neuroticism)と情緒不安定を示唆するものであることが浮き彫りになったということだ。
また、107人の中国人学生による自撮り“性格判断”はそれほど精度が高いものではなかったが、被写体の心の広さ(Openness)と外向性(Extraversion)についてはかなり正確に指摘することができたということだ。
このように何気なく撮った自撮り画像であっても、被写体のキャラクターを推測できる様々な手がかりがあることがわかったのだが、今後もっと判断要素を細かく分類することでさらに正確な性格判断が可能になるのかもしれない。いろんな意味で、自撮り画像を見る目がちょっと変わるかもしれない話題が続いているようだ。
参考:「Inquisitr」、「Medical Daily」ほか
文=仲田しんじ
コメント