何かと話題の“超加工食品”を食べ続けるとどうなるのか?

サイエンス

 美味しいものを食べたいというのは人情だろうが、一方で健康に悪いものはなるべく避けたいものだ。健康的な食生活をキープできる人もいれば、あまり自覚がないままに不健康な食習慣に陥っていまう人も少なくない。この食習慣の差は、職場での食事が大きな影響を及ぼしていることが最近の研究で報告されている。仕事の合間の食事で“不健康メニュー”を選んでしまう人は、全体の食生活でも不健康な食習慣になる傾向が高いというのだ。

■職場での食事メニューが全体的な食生活を反映

「腹が減っては戦はできぬ」とばかりに、仕事の昼休みの食事は特別なものだと考えて高カロリーなメニューを選びがちな人々も少なくない。ひと昔前の証券取引所の証券マンが、束の間の短い昼休みに出前のカツ丼を頬張っているという(ベタな)イメージもある。またオフィスで上司が部下を発奮させようと、ピザをデリバリーするといった光景も思い浮かぶ。

 仕事で“もうひと踏ん張り”するためにも早く食べられて高カロリーなメニューを選びたくなる気持ちは分からなくもないが、ではそうした人はいったん仕事を離れれば健康的な食生活を送っているのだろうか。残念ながら最新の研究では職場で不健康なメニューを選びがちな人は、食生活の全般で高カロリーで栄養バランスの悪い不健康な食事をしがちであることが報告されている。

 米ハーバード大学メディカル・スクールをはじめとする合同研究チームが2019年5月に「American Journal of Preventive Medicine」で発表した研究では、実験を通じて職場での食事メニューがその人物の全体的な食生活にどのような影響を及ぼしているのかを探っている。

「マサチューセッツ総合病院」に勤務するスタッフ602人を対象にした調査では、病院内のカフェテリアの利用データが収集されて分析された。このカフェテリアでの支払いのデータからカフェテリアで各人がどのようなメニューを選んだのかが追跡できるのだ。加えてすべての実験参加者の健康診断データを収集し、日頃の食生活を浮き彫りにするアンケート調査を行なった。

 収集したデータを分析した結果、カフェテリアで“不健康メニュー”を選んでいる者ほど、カフェテリア以外でも不健康なメニューの食事をしており、肥満、糖尿病、高血圧のリスクが高いことが明らかになった。職場での食事が、その人物の食生活の全体像を反映していたのである。

 逆にカフェテリアで健康的なメニューを選んでいる者は、肥満、高血圧、および糖尿病のリスクがいずれも低いことが示された。どうやら仕事の間の食事が特別なものだという認識には一考を要するようである。

■“超加工食品”を食べ続けるとどうなるのか

 不健康な食品オプションとして不名誉な注目が集まっているのが超加工食品(ultra-processed foods)と呼ばれる一連の食品だ。超加工食品の代表的なものにハムやソーセージ、ケーキ、菓子類、インスタント麺などが挙げられるが、ではこの加工食品を食べ続けると身体にどんな悪影響が及ぶのか。

 アメリカ国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)をはじめとする研究チームが2019年5月に「Cell Metabolism」で発表した研究では、実験を通じて超加工食品を2週間食べ続けた時の身体への影響を探っている。

 平均年齢30歳のアメリカ人男女20名が2グループに分けられ、Aグループは超加工食品がメインの食事を、Bグループは非加工食品がメインの食事をそれぞれ2週間続けた。2週間後、今度は逆にAグループが非加工食品を、Bグループが超加工食品の食事を同じく2週間続けて体調の変化を記録した。

 語弊を恐れずに言えばまさに“人体実験”なのだが、収集したデータを分析したところ、超加工食品がメインの食事では1日あたり平均で500キロカロリー増えていることが示されることになった。そして2週間の超加工食品摂取で平均約1キロの体重増に繋がったのだ。

 どうして超加工食品は食べ過ぎてしまうのか。それは超加工食品は食物繊維が少ない上に、加工の過程で食品マトリックス(food matrix)と呼ばれる食品の質感が失われてしまうからであるという。たいていの超加工食品は口当たりがよいので、満腹感を感じるのが遅れてしまい、食べ過ぎてしまうのである。

 口当たりがよいので食事の時間が短くなってしまうことも食べ過ぎのリスクに繋がっている。ポテトチップなどのスナックの袋を開けてしまうと、途中では止められずあっという間に最後まで食べてしまったという経験は多くが持っているのではないだろうか。

 そしてもちろん超加工食品に含まれる各種の添加物なども健康リスクになり得る。いわゆるファストフードをはじめとする超加工食品の“落し穴”に自覚的でありたいものだ。

■フライドチキンや魚の揚げ物に健康リスク

 超加工食品の健康リスクが指摘されているのだが、見た目ですぐわかる“不健康メニュー”も取り沙汰されている。それは揚げ物全般だ。

 英・アイオワ大学の研究チームが2019年1月に「BMJ」で発表した研究では、20年にもおよぶ追跡調査で中高年アメリカ人女性の健康状態と食生活の関連を探っている。

 研究チームは50歳から79歳の10万7000人ものアメリカ人女性の健康データを1990年代から2017年まで追跡調査した。その中で2017年までに亡くなった方は3万1500人にのぼっている。

 収集したデータを分析した結果、1日に少なくとも1品目の揚げ物を食べると報告した人々は、揚げ物を食べない女性たちと比較して、早く死亡する可能性が約8%高いことが明らかになった。さらに1日1品以上の揚げ物は心臓疾患系の症状で死亡する可能性が同じく8%高くなったのである。

 症状をがんに限定すれば、これまでの研究では揚げ物とがんの関係は厳密には確かめられていないという。それでも研究チームは、特にフライドチキンと魚の揚げ物が早期死亡に強く関連していることを指摘している。

 そしてフライドチキンや魚のフライが提供されている現場にも問題があるという。たいていの店舗では揚げ物に使用する油をある程度の間、使い回していることからくる懸念である。揚げ物油を再利用する毎に、人体に有害な化学物質が生成されるという。特にフライドチキンなどの肉の揚げ物はじっくりと揚げることになるので、健康へのリスクは他の揚げ物よりも高くなるということだ。

 もちろんすべての揚げ物が身体に悪いと決め付けるのは早急でもあるようで、2012年のスペインの研究では、家庭でオリーブオイルなど健康的な油を使って揚げ物料理を賞味している人々に健康リスクは見られなかったことが報告されている。つまり懸念の多くは食材よりも揚げ物に使う油の品質ということになるのだろう。

参考:「ScienceDirect」、「ScienceDirect」、「NLM」ほか

文=仲田しんじ

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