何かと気になる髪の毛の話題3選

サイエンス

 中年期以降ともなれば実年齢以上に老けて見られたくないという人が多いだろう。ビジュアル面で老けた印象を与えてしまう要因のひとつが白髪だ。

■ストレスが白髪を増やしていた

 白髪は加齢によって自然に進行するものだと一般的には考えられているが、白髪の量には個人差もかなりあるのは周囲を見回せば一目瞭然だ。中にはすでに中年期に全体的に髪色が変わってしまうケースも見受けられる。しかしながら最新の研究では、白髪を発生させる要因は加齢よりもむしろストレスにあることが指摘されている。

 米・アラバマ大学、アメリカ国立衛生研究所をはじめとする合同研究チームが2018年3月に「PLOS Biology」で発表した研究では、ストレスが白髪の主要な発生要因のひとつであることを報告している。我々がストレスを受けると免疫力を高めるためにインターフェロンの分泌が活発になるのだが、このインターフェロンが毛包色素細胞に影響を及ぼしで髪色を変化させるということだ。

 研究チームはストレスと白髪の結びつきは驚くべきほどに強いと言及している。そしてこのメカニズムは肌の色の変化にも適応される場合があるという。

 この発見は毛髪や皮膚の色素を制御する遺伝子が免疫系もコントロールしていることを示唆し、白髪への理解を高めること共に、白斑症などのような先天性免疫系の関与を伴う色素沈着疾患を理解するのに役立つと研究チームは説明している。

 色素が抜けた白髪は実際のところ、人体にとって自然な状態だと考えられているのだが、成長するにつれてメラニンと呼ばれる色素の性質によって髪や肌の色が決まってくる。しかし老化に伴いメラニンの分泌が減ってくるために白髪が徐々に増えてくるのだ。

 しかし研究チームは今回、マウスを用いた実験で免疫システムが髪の毛色や肌色に影響を及ぼしていることを突き止めた。白髪の原因は加齢だけではなかったとになる。白髪を増やさないためにも日頃からストレスを溜め込まないようにしたいものだ。

■髪の色を決定する遺伝子がほぼ解明

 髪の毛の話題ということでは、最近になって髪の色を決定する遺伝子が100種類以上も特定されている。ちなみにこれまでは髪の色を決める遺伝子はたった13しか発見されていなかったのだ。この発見によって、遺伝子情報だけで当人の髪の色を約90%の確率で判別できるようになったということだ。

 キングス・カレッジ・ロンドンとオランダ・エラスムス医療センターの合同研究チームは約3万人ものコーカサス人種(白人種)の人々のDNAを分析して、髪の毛の色に関係している124種類もの遺伝子を特定した。これら新発見の遺伝子の35%は赤毛の理由を説明するもので、同じく25%は金髪、26%が黒髪の根拠になるということだ。

 今回の研究の成果が期待されるのはまずは犯罪科学の分野である。これまでにも現場に残されたDNAから犯人の髪色を推定する作業は行なわれていたが、今回の研究で髪色を判別する精度が10~20%向上するということだ。

 今回の研究で興味深い“副産物”ももたらされている。女性は男性よりも25%高い確率で金髪(ブロンド)であり、また女性が黒髪などの暗い髪色になる確率が男性よりも3倍低いことが判明したのだ。

 また犯罪科学以外の分野でも今回の研究は皮膚がんの理解と治療法の開発など、多分野わたって新たな光を投げかけるものになるという。

 メラニン色素の研究はコスメティクス分野にとどまらず、免疫系にとっても重要であり、多くの疾病に関わっており、遺伝子のメカニズムを理解することは新しい治療法の開発につながる可能性があると研究チームは解説する。髪の毛の研究から予期せぬ新たな可能性が広がっているようだ。

■“夢の新素材”グラフェンを使ったヘアカラーが開発中

 白髪が多くなってきて気になるようであれば、当然ながら染めてしまうという選択肢も浮上してくるだろう。

 しかしながら染毛剤には何かと人体に有害な化学物質が使われている可能性が拭い去れない。また安全性が確かめられた市販の染毛剤でも体質によってはアレルギー反応を引き起こすケースもあるといわれている。

 しかしここに来て、人体にはまったく無害でしかもきわめて強力に髪を黒く染める夢の染毛剤が提案されている。

 夢の素材として各分野から注目を集めている新素材のグラフェンだが、ノースウェスタン大学の研究チームはこのグラフェンを染毛剤に活用する案を思いついたのだ。グラフェンは例えば鉛筆の芯にも含まれているきわめて微細な結合炭素原子のシート状物質で、フレキシブルな上にきわめて頑丈である。

 研究チームはグラフェン、酸素、水素原子を混ぜ込んだゼリー状のグラフェン酸化物を作り、ブロンドの髪にスプレーで拭きつける実験を試みた。グラフェンは酸素と水素に反応して暗い色に変化するのだ。

 ゼリーが乾くまでに10分弱を要したが、結果は素晴らしいものになった。変色したグラフェンは2ミクロンと厚さで髪の毛1本1本を強力にコーティングして、30回の洗髪にも耐えられる固着力を見せたのだ。そしてもちろん、人体や髪の毛へのダメージは皆無である。

 またこのグラフェン染毛剤には思わぬ好ましい“おまけ”もあるという。乾燥した季節には悩まされる髪の毛の静電気が、グラフェンで染めた髪には発生しないのだ。グラフェンは優れた伝導性を備えているためである。

 もちろんこの“夢の染毛剤”がすぐにドラッグストアの棚に並ぶわけではないが、将来の発売が楽しみな商品といえるだろう。

参考:「PLOS」、「Nature」、「Cell」ほか

文=仲田しんじ

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