休日はゴロゴロしていたほうがよい!? 週末の“寝だめ”で寝不足が解消できる!

サイエンス

 睡眠不足がカラダに良いはずはないのだが、睡眠をめぐる事態はさらに深刻になっている。睡眠不足が続くと脳が“共食い”をはじめてしまうというのだ。

■慢性的睡眠不足で脳が“共食い”をはじめる

 じゅうぶんに睡眠が足りていなければ日中の活力が低下するのは言うまでもないが、そのまま睡眠不足を続けていると脳に深刻なダメージを与えることが最近の研究で指摘されている。なんと脳が“共食い”をはじめてしまうのだ。

 ウィスコンシン大学マディソン校の研究チームが2017年3月に「Journal of Neuroscience」で発表した研究では、マウスを使った実験で、睡眠不足で脳内の“クリーニング作業”が過剰に働いてしまうことが報告されている。“クリーニング作業”が行き過ぎれば、処分する必要のない脳内シナプスまでをも“掃除”してしまうのである。

 我々の脳は睡眠によって常にメンテナンスされている。メンテナンス方法は主に2種類あって、グリア細胞 (glial cell)による脳内神経細胞の“再編”と古くなったり磨耗した神経細胞を除去する“クリーニング作業”である。

 この“クリーニング作業”を行なうのは、グリア細胞の1つであるアストロサイト(astrocyte)であり、“クリーニング作業”のことをアストロサイティック食作用(astrocytic phagocytosis)と呼ぶ。

 研究チームはじゅうぶんな睡眠時間をとったマウス、短時間の睡眠をこまめにとるマウス、睡眠不足のマウス、慢性的睡眠不足のマウスの脳内を調べ、グリア細胞がどのように働いているのかを詳しく分析した。

 分析の結果、慢性睡眠不足のマウスの脳のアストロサイトの活性が顕著に高まっていることが突き止められた。これはアストロサイトが本来除去する必要のない神経細胞までをも“食べて”いることを示唆している。そしてこの現象がアルツハイマー病などの脳機能低下と関係があるのではないかと疑われているのだ。

「慢性睡眠障害はグリア細胞の活性とアストロサイティック食作用の活動を増進させていることから、おそらくさまざまなタイプの脳の機能低下に繋がっていると考えられます」と研究チームのミケーレ・ベレッシ氏は語る。

 睡眠不足が単なる疲労の蓄積だけに留まらず、脳にダメージを与える可能性もあるとすれば、ますますもって夜更かしは“敵”ということになるだろう。

■睡眠不足とジャンクフードの悪循環

 最近の研究では睡眠不足と深夜のジャンクフード欲求、それに続く肥満と糖尿病リスクの強い関係が指摘されている。

 米・アリゾナ大学健康科学部の研究チームは全米の23の都市に済む3105人に電話調査を行ない、人々の(夕食後の)夜食の習慣と睡眠事情、および現在の健康状態についてのデータを収集した。

 なんと回答者の60%が深夜の時間帯にスナック類などの夜食を食べる習慣があり、さらに約66%は睡眠不足によっていわゆる“ジャンクフード”が食べたくなると報告している。

 睡眠不足だからジャンクフードが食べたくなるのか、夜遅くまで起きているからジャンクフードが食べたくなるのか、結局のところはそのどちらでもあり、いずれにしても睡眠不足とジャンクフードの強すぎる結びつきが浮き彫りになった。そしてこれは当然、肥満と糖尿病のリスクに繋がる。

 これまでの研究でもラボ内での実験で睡眠不足によって夜遅くに3度の食事以外の食欲が湧くことが報告されているのだが、今回は人々の現実の生活の中において睡眠不足と夜食の強い関係が確かめられることになったのだ。

「実験室での研究は、睡眠不足が夜間にジャンクフードの渇望に繋がる可能性があることを示唆していて、夜に不健康なスナック類の摂取が増え、体重増加に繋がります。今回の研究はこの案件に関する重要な情報を提供し、実験室での検査所見が実際に現実の世界に適用される可能性があります」と研究チームのマイケル・グランドナー教授は語る。

 アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)の調査によればアメリカ人の15%から20%が睡眠および覚醒障害にあるといわれている。こうした背景からアリゾナ大学健康科学部の研究チームは睡眠が記憶、メンタルヘルス、ストレス、注意力、意思決定にどのように影響するのか、また環境条件がどのように睡眠に影響を及ぼしているのか、鋭意研究を進めている。

■週末の“寝だめ”で健康リスクが回避できる?

 公私共に忙しい日常を送っている向きには、ウィークデーに十分な睡眠時間を確保するのは難しい場合もあるだろう。だが最近の研究は忙しいビジネスパーソンにとって朗報だ。普段寝不足気味でも休日の“寝だめ”がどうやら有効であることが指摘されているのだ。

 ストックホルム大学のトルビョーン・オーカスタット教授をはじめとする研究チームが2018年5月に「Journal of Sleep Research」で発表した研究では、3万8015人ものスウェーデン人の健康状態を13年以上にも及ぶ追跡調査をして収集したビッグデータを解析して健康と睡眠の関係を探っている。

 まず気になる数字としては、65歳で毎日5時間以下の睡眠時間の者は、7~9時間寝ている者よりも致死率が65%も高くなるというデータだ。睡眠不足が短命に繋がることはこれまでの研究でも注目されてきたが、今回改めてその死亡リスクの高さが指摘されることになった。

 しかし興味深いことに、平日は5時間前後の短い睡眠時間の者でも、土日にいつもより長く眠っている者にはこの致死率が当てはまらないことが浮き彫りになったのだ。つまり週末の“寝だめ”が実際に有効なのである。“睡眠負債”という用語も良く聞かれるようになっているが、いわば“睡眠貯金”も可能であることになる。

 また65歳以上に関しては、定年後で睡眠時間が自由にとれる傾向にあるため、睡眠時間と健康との因果関係はかなり低くなるという。

 加えて9時間を越える平均睡眠時間の者は逆に致死率が高くなるということも判明した。9時間以上眠れるということはナルコレプシー(過眠症)などの何らかの疾患が原因である可能性が高くなるということだ。

 しかしながらこの研究はすべて自己申告によるデータを収集、分析したものであり、あくまでも大雑把な睡眠の実態を示すものであることは否めない。専門家の中には“寝だめ”がある程度可能であるにせよ、基本的には平日も土日も変わらない生活サイクルを保つことが健康の要であると指摘する声もあがっている。“寝だめ”は苦肉の策ということになりそうだが、どうしても寝不足が続いてしまうなら休日は部屋でゴロゴロしていたほうが良いのかもしれない。

参考:「JNeurosci」、「The University of Arizona」、「Wiley Online Library」ほか

文=仲田しんじ

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