今取り組もうとしている計画がもしうまくいかなかった場合に頼りになるのが代替案や“プランB”である。常に最悪の事態を考えた用心深くフレキシブルな態度は危機管理のうえで確かに有効のように思える。しかし、あまりにも念入りにプランBを考えるのは、本当にしたいことをぼやけさせてしまうことにもなりかねず、場合によっては本末転倒になるのかもしれない。
■“プランB”の用意がパフォーマンスを低下させる
米・ウィスコンシン大学マディソン校とペンシルベニア大学の合同研究チームが2016年7月に「Organizational Behavior and Human Decision Processes」で発表した研究では、“プランB”を用意することに皮肉にもパフォーマンスが低下する可能性があることを報告している。
大学生を募って行なわれた実験では、単語単位でバラバラに分解された文章を再び組み立てる課題が参加者に与えられた。成績が良かった者にはSOYJOYのようなお菓子のバーが報酬として与えられることが課題の前に約束された。
実験参加者は2つのグループに別けられた。1つのグループはそのまま課題に挑戦してもらったのだが、2つめのグループは、課題に挑む前にこの報酬のバーを手に入れる他の手段を考えてもらったのだ。実験に参加せずに短時間アルバイトをして得た金でバーを買うことから、実際に行なえば犯罪だが店でバーを盗んだり、持っている者から奪い取ったりとさまざまなことが考えられるだろう。つまりこれが“プランB”だ。
そしてどちらのグループも課題に取り組んだのだが、成績に明確な違いが出たのである。“プランB”を持った状態で課題を行なったグループのほうが総じて成績が低かったのだ。他の手段のことなど考えずに、とりあえず目の前の課題に素直に取り組んだほうが良いパフォーマンスを発揮できることが浮き彫りになったのだ。
背水の陣、火事場の馬鹿力などという言葉もあるように、この実験結果は本来怠け者である人間の心性を鑑みれば、納得のいくものではないだろうか。直面している課題に対して、プランBという“保険”をかけた状態だとつい手ぬるくなってしまい、本領を発揮しにくくなるのかもしれない。
もちろん、現実の生活においてさまざまな“保険”は必要であるし、日々の仕事も全部が全部“真剣勝負”というわけでもないだろう。しかし、ここ一番の局面にあってはあまり余計なことは考えずに全力で取り組んで正解ということのようである。
■行き先が決まってなくとも会社を辞めてよい
“プランB不要論”を極論すれば、いかに目の前の挑戦に対して高いパフォーマンスを引き出せるかという問題になってくるのだろう。“保険”をかけたおかげて真剣味に欠けてくるくらいならプランBなどいらないということでもある。そしてこれは転職の際にも当てはまるということだ。
ヘッドハンティングなどの場合を除き、転職を考える場合にはある意味では当然ながら辞める前に次の職場を探すことが意識されてくるだろう。転職のリスクを最小限に抑えるための方策としては当然のことのように思える。しかし今の仕事を辞めたいという思いが生じていながら転職活動が進まずに思い煩っているようなら、プランがなくとも思い切って辞めてしまったほうがよいという声もあるようだ。キャリア情報サイト「Jobs&Hire」の記事では、辞めてしまっていい5つのケースを解説している。
●危険を回避するため
仕事においても身の安全が第一である。高い賃金と引き換えに身を危険に晒してはならない。この危険は、物理的に危険な職場環境という意味もあれば、周囲に危険な人物が多いという意味もある。いずれの場合においても身の危険を感じることがあるのなら今の職場をすぐに離れるべきだ。
●健康を損なわないため
今の仕事と職場環境に健康を損なう要素があるのなら、すぐに辞めてしまってもよい。長期的にみて健康を損なえば仕事でパフォーマンスを発揮することがどんどん難しくなっていく。無理して留まらずに別の環境で活躍すべきだ。
●生活のため
現在の仕事でもし家計が赤字になっているのであれば、それは辞めるべきサインになる。ある程度高い収入を得ていても、ストレス解消のための衝動買いや遊行費、あるいは医療費が増えるなどして家計が赤字になっているケースもあり、健康と個人の財政のためにも仕事を辞めることを考える良い機会になる。
●人生の犠牲者にならないため
仕事、人間関係、家庭にすべての労力を費やしてしまっていると自覚した時、まさに「もううんざりだ」と痛感したとき、それは仕事を辞める契機になり得る。人生の犠牲者になる前に仕事を辞めるべきだ。
●惰性に流されないため
消耗するばかりで、自分の成長が見込めないどころか能力を鈍らせ、淀んだ気分になる仕事であればすぐに辞めるべきである。
ビジネスの上で忍耐や辛抱が必要とされることもあるが、上記のようなケースでは、次の行き先が決まっていなくとも早く今の職場を離れたほうがよいということだ。確かに迷いながら意に沿わない仕事を続けるのは人生の無駄遣いということにもなるだろう。もちろん最終的な判断を下すのはそれぞれの個人であり、あくまでもこれらはアドバイスである。人生が毎度毎度“リア充”な状態ばかりでないことも現実であるが、プランBという“保険”に頼り過ぎることなく仕事にもプライベートにも満足感を得たいものだ。
参考:「Scientific American」、「Jobs&Hire」ほか
文=仲田しんじ
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