“今だけお得”はあまり売り上げに効果がなかった?

サイコロジー

“今だけお買い得”のオファーには乗るほうだろうか。ついつい心が惹かれる期間限定、時間限定のセールだが、意外なことに最近の研究では、我々は時間に制限を設けた提案には乗らない傾向が高いことが報告されている。

■“今だけお得”はあまり効果がない?

 街中のショップで不意に目に入り気になった服を見ていたら、店内に「セール最終日! 今なら○%オフ」というポップが目に入ったらどうするだろうか。

 思わず服を持ってレジへ向かってしまうケースもあるだろうが、やや意外なことに、最近の研究では我々はこうしたタイムリミットを設けた“お得”な申し出は拒否する可能性が高いことが指摘されている。

 英・イーストアングリア大学、豪・クイーンズランド大学の合同研究チームが2019年10月に「Journal of Economic Behavior & Organization」で発表した研究では、実験を通じてタイムリミットを設けたセールスが消費者にどのように認識されるのかを探っている。

 200人が参加した実験では、特定の商品を購入する必要に迫られた状況下で、売り手側からさまざまな提案と価格が提示された。その中にはタイムリミットを設けた“今だけお得”の提案もあった。

 普通に考えると、タイムリミットのあるセールスの話に乗る消費者は「後で後悔したくないから」申し出を受け入れるようにも思える。しかし研究チームが参加者の消費行動を分析した結果、“今だけお得”のオファーについて消費者に後悔したくないという気持ちが特別に高まるわけではないことが突き止められたのだ。

 そしてむしろ、“今だけお得”のタイムリミットが限定的であればあるほど、提案を受け入れらなくなる傾向もまた明らかになった。つまり「今すぐ買うと決めてくれればこの価格にします」という提案は受け入れられ難いことになる。

 期間限定のセールはもちろんお買い得だとは思えるが、即断即決を求められる提案はその思惑に反して、思ったよりも効果がなさそうだ。

■即答を求められると“いい人”になる

“今だけお得”と即断即決を求められても、実際にはそれほど乗り気にならないことが示されているのだが、こうした即決が求められる意思決定は、“本音”や“本心”が出やすいということなのだろうか。

 しかしこれまた意外なことに、最近の研究では人は即答を求められるとある意味で自分の本心を隠し“いい人”になることが報告されている。

 米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームが2019年10月に「Psychological Science」で発表した研究では即答を求められる質問が意思決定に及ぼす影響を実験を通じて探っている。

 1500人のアメリカ人が参加した実験では、社会的望ましさバイアス(social-desirability bias)を明らかにする質問、例えば「自分の成すべきことをしていない時、私は憤慨する」や、「誰と会話しようとも、私は良い聞き役に回る」などの質問に回答したのだが、その際に参加者は11秒以内で回答するグループと、11秒以上かけてゆっくり回答するグループに分けられた。

 回答データを分析したところ、即答を求められたグループは社会的に望ましい回答をする傾向が高いことが明らかになった。

 これは自分は善人であるという自己善人バイアス(good true self bias)が働いた結果だと考えられるのだが、これを検証するために、自己善人バイアス度を計測するテストを受けてもらってから、再び質問に回答してもらう実験も続けて行われた。

 当然ながら自己善人バイアス度が高ければ、即答を求められてもゆっくり回答しても社会的に望ましい回答をする可能性が高いわけだが、分析の結果、自己善人バイアス度が低い者でも、即答を求められる課題において社会的に望ましい回答をする可能性が高まっていたのである。

 ということはやはり、即答を求められるとたいていの人は自分の“本音”はいったんしまっておいて、社会的に望ましい無難な表現を行いがちになることになる。

 即答を求められてうっかり“本音”がポロリ、ということは実はあまり起こり得ななさそうであり、往々にして我々はひとまず無難で平穏な“いい人”になってしまうようだ。

■イメージダウンを避ける断り方とは

 忙しいとどうしても深く考えることなく無難に思われる表現や意思決定をしがちであることが指摘されているのだが、とはいっても時間を言い訳にするのは対人関係において自分のイメージダウンに繋がるかもしれないというから要注意だ。最近の研究で、申し出を断るのに時間を言い訳にすると信頼性が損なわれることが示されているのである。

 オハイオ州立大学のグラント・ドネリー助教授が行った研究では、300人の成人に招待に対しての断り方の印象を探る調査をしている。

 例えば食事に誘った場合などの断り方として、「時間がない」や「お金がない」、そして特に理由は言わないというようなケースが考えられるが、人々の受ける印象を調査したところ、「お金がない」という言い訳を口にした人物が最も信頼できると感じられていることが判明した。

 時間を言い訳にするのは理由を何も言わないのと同じ程度の低い信頼感になるということで、忙しいことを理由に申し出を断ることは人的交流においてイメージダウンのリスクをはらむことになる。

 しかしながらお金がないというエキスキューズは場合によっては生々しい表現になってしまうだろう。そこでドネリー助教授は“エネルギー”や“体力”を言い訳に使ってみることも提案している。食事やお酒に誘われた時に「今日はもう体力が残っていない」という言い方も、時間よりはずいぶんましな断り口上になるということだ。

「忙しい」、「時間がない」とひとことで言ってしまう前に、実際に今の自分が置かれている状態やスケジュールを説明することや、自分の代わりに参加できる人を紹介することなども、“人物評価”のスコアをあまり下げない断り方になるという。そしてもちろん、有意義な誘いの申し出には可能な限り応えることが最も重要なのだろう。

参考:「ScienceDirect」、「SAGE Journals」、「Harvard Kennedy School」ほか

文=仲田しんじ

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